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運命の扉が開く

リトリート体験記ーその後

2億円の夢

ハワイ島リトリートから帰ってきた。
時差ボケで、夜中の3時、4時に目が覚めてしまう。ベッドの中でスマホを見ていると、不動産の記事が目にとまった。

夫とわたしの夢である、ブルワリー(クラフトビール醸造所)と飲食ができる物件を探していた。なかなかご縁がなく長期戦になりそうで、賃貸に限定せず、1階が店舗のマンションやビルを所有することも妄想していた。
久しぶりに検索してみると、近所に売り物件がある。自宅から徒歩5分。
立地は申し分ない。売値は2億円を超える。想像したことのない価格だ。
1階の店舗は何が入っているんだろう?興奮して眠れなくなる。朝になるのを待って、現地調査へ出かけた。

1階はコインランドリーだった。タップルームにちょうど良い広さ。大量の水を使うのも問題ない。天井高もある。2階から上はマンションで、共用部の管理状態も良好。最適な物件!
ビルの名前に見覚えがある。調べてみると、我が家を設計施工した建設会社だった。あいにく定休日でメールだけしておいた。

起きてきた夫に、夢中で報告する。
融資の上限はどれくらいなのか?事業ローンの金利は?家賃収入の想定は?早く図面が欲しい。

休み明け、先客と契約間近という連絡がきた。儚い夢が打ち砕かれる。
もっといいご縁があるはず、と言い聞かせても、気持ちの整理ができない。
手に届く金額ではなくても、検討すらできなかったことが無念でならない。その日は何も手につかなかった。

ひらめき

翌朝。
初めて主催する朝活イベントを終えて、楽屋トークは大盛り上がり。米国に住むメンバーが来日するのに合わせて、翌週、初めてリアル対面することになっていた。
わたしたち4人は、YeLLのサポーターと呼ばれる社外1on1を提供する仲間で、心理学の「フォーカシング」に関する勉強会やワークショップを続けている。

お互いに聴き合い、会話が自然にグループセッションになる。素敵な言葉を贈り合い、じんわりとあたたまる大切な居場所。
そんな仲間とイベントを開催して、とても満たされた、特別な朝を過ごした。

2階のキッチンでお昼ごはんを用意する。ダイニングテーブルの定位置に座って、いつものランチタイム。
食べながら、ふと、ひらめいた。

ここがブルワリーの飲食スペースだったら?
キッチンとカウンターがあって、テーブル席が3つくらい?
ひとりで見渡せる客席数。
ちょうどいい。

1階をブルワリーとタップルームにしたら?
 
そして・・・私たちは別のところに住んだら?!

探すのはブルワリー用の物件じゃなくて、自分たちの住まいだったら?
それなら苦労しないで探せる!
夫がこだわっている地元でやれる!!
 
居ても立っても居られなくて、夫の部屋に行き「思いついちゃったんだけど!」と話す。

玄関先のガレージを改造して、お酒の販売と角打ちにする案は出ていた。
物件探しに苦労していたから、まずDay1としてスモールスタートしたいね、と話していた。

物件を「外」で探す前提になっていた。
実は「内」にあったのだ。
今いる、この場所に。

 
夫は酒販免許を申請するため図面を描いたとき、1階にビールタンクを置くとお風呂を撤去することになるから住めない・・・で、思考停止していたらしい。
そうだったの?初耳。

1階:ブルワリーと角打ち(クラフトビール醸造所/酒販売/立ち飲み)
2階:飲食スペース(カフェ/ダイニング)
3階:オフィス
いいんじゃない!?

しかも、ここは昔からの商店街の名残りがある。ギリギリ商業区域で、宅地ではないから醸造も問題ない(実はこれが一番ネックだった)。駅近のロケーションも活かせる。
ああ、なぜ思いつかなかったんだろう! 

新居探し

いずれマンションに住みたいな、と思っていた。歳をとると階段はきつい。最近、膝に違和感がある。戸建ての維持管理は手間もコストもかかる。

マンションを検索する。
ハワイ島リトリートの最終日に、一日じゅうテラスで過ごした、あの光景がふとよみがえる。そうだ、広いテラスがいい。
ルーフバルコニー付きの物件を探していたことがある。結婚して、夫が住むこの家に引っ越してから、屋上をつくりたいと相談したこともあった。

ルーフバルコニーで検索すると、なんとすぐ近くにある。資料請求をポチっとすると、すぐに電話があり、内覧を予約した。
夫とふたりで行ってみると、築40年以上とは思えないほど、よく管理されている(国内外のデータセンター建設・運用や、M&Aのデューデリジェンスで培った経験が活きる)。
ドアを開けるとそこは・・・まるで新築マンションだった。リノベーションされた部屋は、マスク越しでも新しいにおいがする。すべてがキラキラして眩しい。最新設備。広いバルコニーはリビングの続きのよう。
その場で申込書にサインした。

2億円の返済プランを考えていたから、5,000万円が500万円にしか見えない。ものさしの目盛りが変わり、枠がはずれて思考が広がる。
ここに住んで、今の家がああなって、こうなって・・・夢が現実になる!
 
けれどもローン審査の申し込みをした翌日、再び夢が破れることになった。別の買主と契約することになったなんて、納得いかない。中古物件の売買には様々な事情があることを知る。
残念だけど、ご縁がなかったと思うしかない。
2億円のビルがダメだったときのショックに比べれば、大丈夫。
きっといい物件が見つかる。
 
出逢い

しかし、思うようにみつからない。やっぱり、あんな出物はないのか・・・もっと視野を広げよう。

そういえば、海の近くに住みたかった。海外リゾートの研修特待生として、豪州フレーザー島で過ごした半年間を思い出す。
夫と逗子・葉山に行ったとき、逗子マリーナに住めたらいいなと思ったことがあった。調べてみると売り物件がある。都内の高騰ぶりに比べればリーズナブルな価格で、こんな暮らしが手に入る!

自然がある、緑と水のそばがいい。
そうだ、婚活の「理想の人リスト」と同じやり方で、「理想の家リスト」を作ろう。スペックだけでなく、どんな景色を見て、どんな時間を過ごしたいのか、暮らしのなかのワンシーンを切り取って想像してみる。
リストはすぐにできた。

そして検索を再開。物件はある。びっくりするほど高いけど。
夫が希望する「自転車10分」の圏内には、なかなか見つからない。ペット可の物件がない。ルーフバルコニーはあきらめるしかないか・・・。

すこしエリアを広げると、気になる物件があった。地図を見てみると、公園に面しているようだ。内覧希望にエントリーすると、定休日にもかかわらず電話がかかってきた。丁寧にヒアリングしてくれて、誠実さが伝わる。一番早い日程で内覧を予約した。調べれば調べるほど魅力的な物件ではないか。

初訪問したその日は、どしゃ降りの雨。リノベーション工事の真っ最中で、わたしは一目で気に入った。でも、夫は険しい顔・・・落ち着かない気持ちになる。
その場で申込書を書きたかったけど、ふたりが合意納得しないうちに強引に進めるのはよくない。はやる気持ちをおさえて再訪することにした。
そのあと2~3軒、見学したけれど、やっぱりあそこしかない。

確かな感覚

一週間後、工事の仕上がり具合を見るため再訪。
早く着いたのでマンションの前の公園を散策してみると、想像以上に立派な公園だった。

木立のなかで目を閉じると、木の葉が風にゆれる音がする。鳥のさえずり。都会の真ん中とは思えない静けさ。
サンドイッチを持ってピクニックしたり、コーヒーを持って読書したり、朝散歩なんてしちゃうかも。
ここがわたしたちの庭になる!?ワクワクする。

そして再び内覧。これから設置するエアコンやトイレが積まれているけれど、部屋自体は完成していた。
リビングの窓から見える公園の緑は、まるで絵画のよう。目の前に、もみじの木がある。秋の紅葉が楽しみだ。

リビングと個室の間の壁を取り払って、玄関まで遮るものがない、ひとつの空間にしたい。ハワイ島リトリートで過ごしたバケーションハウスのように、玄関を開けて部屋に入ると外の風景が見えて、公園からの風が吹き抜けるようにしたい。

ここでの暮らしをイメージしてみる。朝起きて、まず窓を開ける。コーヒーを淹れてゆっくり味わう。窓のそばから一日中離れたくないかも。
腰高窓の下にカウンターテーブルを置こう。カフェみたいに、窓に向かって座る。仕事をしたり、本を読んだり、コーヒータイムを楽しんだりする。

リトリートで体感した、ほんとうの豊かさを思い起こす。
あのときの体感覚と一致していることを確かめる。
ここだ。

夫も納得している様子。
いいよね!?合意を確認した瞬間、嬉しくて涙が出た。
リトリートから帰ってきて2週間あまり。
夢見たり落ち込んだり、ジェットコースターに乗っているようだった。
 
気づき

新居探しを通じて、いろいろな気づきがあった。

コロナ禍で在宅勤務になり、木造住宅の寒さと電気代にびっくりした。エアコン3台を入れ替えるのに、高所作業費10万円が飛んだ。冷蔵庫は搬入できないと言われ、売ってもらえなかった。
わたしが引っ越してきた頃からトイレ交換の話は出ていたし、忘れていたけど、洗面台が使いにくくて替えたいと思っていた。
築15年が経ち、これからますます修繕が必要になる。

以前住んでいたマンションは、とても気に入っていた。便利で快適なマンションに住みたいな、と思うこともあったけど、夫の前では口に出してはいけない気がした。

夫がこの家に決めた理由を話すとき、きまって嬉しそうな表情をする。当時30代の夫が戸建ての家を持つことになったとき、どんなに誇らしい気持ちだったことだろう。
そして、町内会の役員・消防団・区の委員など、地域活動に注力している。お互いの顔が見える関係をつくりたい、そのために地元で事業をやりたい、という強い想いがある。

そんな夫を応援する一方で、ここに骨を埋める=住む場所を自由に変えられない、という呪縛にとらわれていた。逗子マリーナに憧れたのは、内に秘めていた願望の象徴だったのかもしれない。

夫の想いと大切な場所を活かしながら、理想の暮らしが手に入る。
無意識のうちに蓋をして気づかないようにしていた不便・不満が解消する。
すべてが一気に叶う方法があるなんて、思いつかなかった。

コーチングで「お金や時間の制約がなかったとしたら、どうしたい?」という問いがある。
何度も問われてきたし、わたしもクライアントに投げかけてきた。婚活コンサルでは「何でも望んでいい」「結婚or仕事ではなく、両方望んでいい」と伝えてきた。
でも、見えない枠の中で、制限つきの思考だった。

リトリートで体験したことが、こんなカタチで現れて、初めてわかった。

すべて、ここにある。
そう感じたのは、こういうことだった。
外ではなく、今いるここに、内側にあったなんて。

ほんとうの豊かさ。
それを体感していなかったら、こんな宝物を見つけることはできなかった。築年数が古く、外観も素っ気ないこの家はスルーして、スペックや見た目の豪華さに目が奪われていたと思う。お見合い写真のように。
欲しいのは「住宅」ではない。
心から豊かさを感じることができる「時間」や「暮らし」そのものだから。

ハワイ島リトリートから戻った数週間後、新居の鍵を手に入れた。

パラダイムシフトが起きて、運命の扉が次々と開く。
ここから、新しい物語が始まる。

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