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消えたグリーンのスカート

あれはたしか、当時私が9歳とか10歳とかそのくらいの頃だったと思う。

毎年夏になるとお出掛け用のお洋服を買ってもらっていた。
お盆に祖父母に会う時や、うちに親戚が集まった時に着るのだ。
普段着ない可愛いワンピースやスカートを着れるから毎年この時期が楽しみだった。

その年に買ってもらったのは、チェック柄で淡いグリーンのフレアスカートだった。
交差するミントグリーンとレモンイエロー、そして
オレンジの細い線。
色合いが爽やかで可愛らしくとても気に入っていた。

何度も履いては鏡の前でクルクルと回った。
お盆に履いて出掛けるのが待ち遠しかったし、
遠くからいとこ達が来て、花火をすることになって
いたので、その時にも履こうと決めていた。

だから大事にしまっておいた、はずだった…。


いとこ達と花火をする日が来た。

朝からスカートを探しているのだが、見つからない。
最後にここにしまってから出してないのに。

母に聞いても〝知らないよ~?〟と言われる。

あっちもこっちも押し入れやらタンスの引き出しやら、開けまくって探したけど、夕方になってもスカートは見つからなかったから諦めて違う服でいとこ達と花火をすることにした。

いとこ達とキャーキャー言いながら花火を楽しんだ。
種類もたくさんあって次から次と火をつける。
色とりどりの花火、花火の匂い、みんなの笑い声、
夏が大好きだ。

手にした花火の緑の炎が消えた。

煙の量がすごくて、みんなからほんの少し離れた。
煙はバス停がある方向に向かって流れている。

ぼんやりと煙を眺めていた。

煙の中に人影が見える。だんだんと近づいてきている。
大人1人と子ども1人のようだ。

近所の人かな、と最初は思った。

姿がはっきりと見えてくると、大人の方は着物を着た男性だった。
顔にも見覚えがある。
仏壇の上の遺影と同じ顔、同じ着物。

おじいちゃん…

隣には私と同じくらいの背丈の女の子。
ショートヘアで白いTシャツを着ている。
そして、私が朝からずっと探していたスカートを
履いていた…

あまりの驚きに声も出ず、2人の姿を見つめたまま動けなかった。

煙が空へ風に吹かれて流れて行った時、2人の姿も一緒に消えた。



翌日、もう1度スカートを探した。
やっぱりどこを探しても出てこなかった。



私には生まれて3週間で亡くなった、1つ下の妹がいる。

時々、妹の気配を感じる事がある。

妹もきっと可愛いお洋服でみんなと一緒に花火したかったのかもしれない。

お盆が終わったら返ってくるかな、なんて思って
お盆が過ぎてからも時々探した。
けれど、出てくることはなかった。



今でも夏の緑の季節が来ると、あのスカートの事を思い出す。
そして、もしかしたら突然見つかるかも、なんて
思ってしまうのだ。



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