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当たり前が最大の成果、でも当たり前なので誰からも褒められることのない校正

今日は仕事の話。
読む人もそんなにいないであろうことをいいことにひっそりと書いてみる。

隣のグループは定期刊行物の編集制作と販売を担当しています。
今回、刊行物をいつも通りに発行・ 発売したら、表紙の文字にミスがあったということが分かり、急に慌ただしくなった・・・という、周辺で漂い始めた不穏な雰囲気を視界で感じつつ、「あらら・・」と同情。

ただそれだけのことですが、たとえ凡ミスでも笑って済ませられるものとそうでないものとがあり、 後者の場合は心が苦しくなるわけで。

出版物の制作は、
①原稿を作る人 (文章を書く人や写真を撮ったり絵・図版を作る人) 、②原稿や写真などの素材をチェックして整える人、 ③それらの素材を組版ソフトを使って組む人、④組み上げたゲラを再度チェックする人 (校正) 、⑥表紙デザインを作る人、⑥数回の校正により修正がなくなった版下データを印刷する部門 、⑦出版物を配送する部門、 ⑧書店へ配本する取次店、 ⑨リアル書店やオンライン書店・・

など、ざっと見ても、社内社外を含めていろんな担当部署・会社が連携して刊行物が作られ、委託販売業者、書店等を通じて読者の手元に届きます (一般に流通している刊行物の場合)。

①は著者やライター、②は編集者、③はDTP担当者、④は校正者・編集者と原稿作成者、⑤はデザイナー、 ⑥は印刷所、⑦は運送会社 (印刷所の配送部門も含む)、 ⑧は取次店やamazonなどの ECサイト部門、が担当者(担当部門)となります。 ③については、会社の規模によって編集者が校正も兼ねているところも少なくないでしょう。

  ※ 「DTP (ディーティーピー)」 とは、 「Desktop Publishing (デスクトップパブリッシング)」の略。
パソコン上で印刷物のデータを制作すること。

印刷物の内容に間違いがあれば修正できるのは、だいたい①~⑤の段階までで、そこで見逃したものは印刷されて世の中に出回ります。

①~⑤で複数人のチェックが入るし、校正そのものも1回だけではなく2~3回(場合によっては5~7回とかも!)あるので、そこで十分防げるはずなのに、とお思いでしょうが、そうはいかないのがこの仕事 (開き直っているわけではないんです)。

修正する対象としては、文章の「てにをは」、表記の統一 (表記のゆれ)、 名称・固有名詞・日付など事実と異なる事項の訂正、事実確認・時代考証など内容的なものに矛盾や誤りがないか、文脈がわかりにくい部分の手直し、表紙回り (文字やコード番号、用紙の選定等) について相違なく仕様通りか、などなど。

これらを時間的、コスト的制約の中で効率よく作業して次のステップに繋げないといけない。終わりがあるようで、やろうと思えばどこまでやっても終わらない。
ただ、納期や費用の面で「できたところまで」で見切りを付けなければならない・・・。

そういう背景もあり、「完璧な出版物・印刷物』を世に出すのは結構難しい。でも稀に間違いが見逃され世に出ることもぶっちゃけある。にんげんだもの。

とはいえ、近年AIも登場したことだし、これらを駆使してチェックすることもできる世の中になってき
た。
だけど、まだまだ環境的に整っていないハード面での問題と、人間の感情や思考の入った、独自の個性ある文章を尊重するという意味ではどこまで手を入れるのか、というソフト面での問題とがあって、そう簡単には割り切れなさそう。
単純な表記ミスは別として、そもそも文章については創造性の要素も大きいので、正解がないのもまた事実。
数学や物理のように正しい解があるわけではないのです。

表記ミスへの対応は、世に出た後の影響がどこまでありそうかで変わります。たとえ簡単な凡ミスであっても、クライアントや読者にとって不具合や混乱を招くような表記ミスであれば・・・ ひえー。

考えただけで制作側は冷や汗がじわじわと出て、顔も青ざめてきそうです。
正誤表を作成し書店や取次店に送る、回収した方がいいなら回収する。場合によっては刷り直しをする、ホームページにお詫びと訂正を載せる・・・

刷り直しになるとそれはもうお金も労力もかかるので、それは極力避けたいところ。関係部門などにお詫びをしながら、極力最小限で済む対策を協議する。

ミスの原因を作った人、見逃した・気づかなかった関係者はわざと間違えたわけでもなく見逃したわけでもなく、誰が悪いとかでもないし、不具合が発覚した時点で少なからず落ち込み、反省もしているから、許してほしい。今後このようなことが起きないためにはどうすればいいかを誠意をもって考えていくから。
なんていうのは甘い考えなのでしょうかね。

本や印刷物は誤字脱字がないのが当たり前。その当たり前のための見えない労力はまあ小さくはありません。

2016年に放送された石原さとみさん主演のドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール』でも、校閲の 仕事だけでなく、道路や線路工事、電気工事のお仕事など、見えないところで「暮らしの正常を保つ職種」にも触れていましたが、まさにそう。

異常がない=0 (ゼロ) が最大限の成果なので、目立つことはないし褒められることもない。 万が一異常があれば精神状態も一時的に異常になるという、あまり報われない仕事。

まあ、それでもお客様からの評判がよかったり、著者が喜んでくれたりすれば、それが慰めにも励ましにもなるという、一喜一憂の仕事。

周りでそういうプチ騒動が起こっている時は、「明日は我が身⋯」と気を引き締めて、いつも以上に慎重に慎重に文字をチェックするのでした (恒例行事?)。

◇追記◇
そういえば、こういう本を最近読みまして、共感した点と新たに気づかされた点などなど、校正は奥が深いなぁとしみじみ感じたのでした。

『文にあたる』牟田都子著

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