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1on1が上手くいかない本当の理由

上司と部下が1対1で定期的に対話的な時間を過ごす「1on1ミーティング」が流行しています。VUCAの時代、多様性を考慮しつつ自律型の人材へと育成する重要性が増しているなかで、一律のマネジメントではなく一人一人に向き合う必要性が高まっていることの現れの一つとも言えるでしょう。

しかしこの1on1ミーティング、その意義や実施する上での本質を理解せず、形式や技術だけを導入してしまうと、うまくいかないどころか逆効果になってしまう様です。実際に、現場からの悲鳴が私の元にも沢山届いてきます。

ではどうすれば良いのか?

前回の記事では「ストラクチャード・ダイアローグ」という新しい組織内での対話のコンセプトについて概念的な部分を少しだけお話しさせて頂きました。この記事では、1on1の効果性を高めるための考え方と具体策としてお話をさせて頂きます。

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一般に、1on1における技術的要素としては「ティーチング」「コーチング」「フィードバック」の3点が挙げらています。上司はこの3つを使い分けながら、対面でのコミュニケーションの中で部下に満足度を与えつつ、成長させる責務を負うことになっているわけですが、まずはこれが一筋縄ではいかないのです。

その背景を一つ一つの見ていきましょう。

①ティーチング
ズバリ「何かを教える」ことなのですが、部下が業務上に何かを教えてほしいと思った時に、社内で最もふさわしいのは上司でしょうか?わざわざ1on1の場で教えなければならないことがあるのだとすると、1on1以前の問題として、日頃のコミュニケーションやチームビルディングに問題があると言わざるを得ません。

②コーチング
コーチングとは相手の内省を支援し自発的な行動変容を促す事ですが、コーチはプレーヤー(コーチングを受ける側)たる部下の可能性と自律性を信じ、特定の方向に誘導することについては、厳に慎まなければその真価を発揮することは難しいでしょう。ところが、上司という立場は当然、部下の業務上の成果に責任を負っているため、その期待を手放すことは極めて難しいと言えます。つまり、技法だけ真似たとしても、よほど器用にモードの切替ができる卓越した人物でない限り、上司によるコーチングの効果はとても期待できないことがわかります。

③フィードバック
フィードバックとは、まさに鏡のように因果の結果を原因側に返す行為であり、あくまで事実を率直に伝える事が求められます。評価結果を伝えるといった意味合いで用いられる言葉でもありますが、成長支援の場としての1on1であれば、評価・ジャッジ・判断は保留し、事実のみを伝えることが求めれる事は当然でしょう。
ところが、この判断を手放すという事がいかに難しいか、実践された方であれば良くおわかりかと思います。とかく「評価者」という役割を与えられている上司が、評価でなく「成長支援のためのフィードバック担当」として適任とは言えないことは、ご理解頂けるのではないでしょうか。

以上のように、1on1で期待されているコミュニケーション技術を、1on1の場で上司が発揮する事は、難しいだけでなく望ましくもない場合が多いのです。
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それでも尚、1on1という場の有効性があるとするとそれは「相互信頼の醸成」の場であるからです。そのためには、そこで行われるべきは「対話・ダイアローグ」であると言い切れると考えています。

対話を有効に行うための前提としては、お互いに対等であることと、内省的な部分を開示し合えるだけの関係性の構築があります。これにより内省的な対話(腹を割って話す)が行われた上で、未来に向けた可能性を信じられる状況を作り出すことが、生成的な対話(お互い未来に向かってやっていこう)へと結びつく原動力となるのです。

対話の成立条件である対等性。これはすなわち、相手の成長を願うならば1on1が「上司側も自らの成長の場である」というスタンスで、相手(部下)の言動には学び取るべき価値があるという事、つまり相手へのリスペクトが必要不可欠なのです。

まず、このリスペクトこそが1on1の本質であると言えます。技術だけでこの部分をなおざりにしていると、せっかくの1on1も効果を発揮することは難しいのです。

そして、1on1が上手くいかない本当の理由は、個々の技術的な問題以前に、このリスペクトの欠如を含めた「対話の場の醸成が上司に丸投げされている」構造的あるいは文化的な問題があります。これは、お気づきの方が多いのではないでしょうか。対話のスタンスや文化、そして技法も、まだまだ定着している組織は稀有な存在なのです。

私のコンセプトである、”ストラクチャード・ダイアローグ”では、ITシステム等を用いた「構造化された場」において、内省的な部分も含めた自己開示と、それに対するフィードバックを多様なメンバー間で双方向で行う「対話の基本構造」をプロセスに組み込んでいます。

これは、1on1という施策の目的の範囲のなかでもいかの3つの価値を提供しています。

①対話能力の向上
相互のリスペクトを育み、対面・リアルタイムで対話を行うための基礎訓練になる

②孤軍奮闘の終焉
組織内の対話の機会を上司だけに押し付けず多様な関係性の中で対話を醸成する

③見える化
上司の面談スキルや相性の問題を緩和し、誰でも簡単に実践でき、本音が見える

また別の機会に、それぞれ詳しくお話をさせて頂けたらと思いますが、例えば、「上司と上司」をつなぎ、お互いの内省にフィードバックをし合ったり、部下の内省に多様なメンバーがフィードバック受ける様子を上司が視覚的に把握できるツールが活用されている場面を、ご想像頂けると幸いです。

1on1の価値を下支えし、上司部下の「タテの関係」だけでない、ヨコやナナメの対話を促進し、誰でも簡単に実施できるメソッドと仕組みである「ストラクチャード・ダイアローグ」に、ご期待頂けたら幸いです。



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