ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第10話

自分にはなにもない。持っているものなんてなにもない。だけど、なにもなくても生きる権利はある。

『なにかがあれば生きる権利があると思うな。なにもなくても生きていいんだ。平等なんだよ、人間は。それが法律だからとかじゃなくて、もっと心に思いやりを持ってほしいんだよ。ナイちゃんには痛みがなかった。でも、だからっていじめる理由にはならない。そんな当たり前をわかってほしい』

ただ、ありふれた優しい日常が欲しかった。

『わたしは多数派じゃない。少数派の人間だ。少数派の……ナイちゃんの家族であり友達だ。ナイちゃんは傍観者なわたしを支えてくれていたのに、わたしは、なにもできなかった。けど、わたしにはわかる。ナイちゃんは気づいていたんだ。自分自身が神様じゃないってことを。ただ、ありふれた、ひとりの人間だったってことをわかっていたんだよ。ナイちゃんは欲しかったんだ。世界を変える『爆弾』が。だからニトログリセリンから始まったんだ。最終的にはパチパチ飴をヒントにボムカレーをつくったわけだけど』

わたしは示す。この世界のあり方を。

『なにが金沢の最先端医療技術だ。なにが金沢最先端医療技術式蘇生法だ。いくら医療が進歩しても人ひとり救えないんじゃ意味がない。おまえたちは地球温暖化の二酸化炭素なんだよ。この世界では地球温暖化の原因が二酸化炭素が原因だという説を知っているか? だが、それは不確定であり確定ではないんだよ。実際、未確定なんだ。つまり、おまえたちがナイちゃんをいじめた証拠はない。ナイちゃんには痛みがないから。医療技術でリカバリーしていたから。要するにおまえたちは未確定の塊。あいまいな存在だ。だけど、ナイちゃんの痛みは確かにあったんだよ。心の痛みが』

わたしたちは、この国で痛みを知った。

『それは金沢という地に住んでいるからいじめられたとかじゃなくて、もっと範囲は広い。国そのものが原因だ。国そのものが病気なんだよ。多数派でなければならないとか、多数派に従えとか、多数派が偉いとか、多数派であれば幸せだとか……そんな考えを持つ国そのものが異常なんだよ。少数派がいたっていいじゃないか、人間だもの』

そうだよ、もっと詳細に。

『マクロじゃなくてミクロで物事を考えましょう。今回の出来事がきっかけで変わるなんて思ってない。むしろ、この出来事がない状態でナイちゃんに普通の……ありふれた人生を歩ませたかった。この話を聞いて「いい話だった」で終わらせるんじゃなくて、最低でも、この世界に存在する、すべての問題を解決していきましょう、せめて』

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