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2020年10月の記事一覧

巨悪は眠らせない 検事総長の回想 伊藤栄樹 朝日文庫



今年の春から初夏にかけて、新型コロナウィルスの感染拡大以外で一番世間を騒がせたのが、「黒川問題」だろう。

日本という国は三権分立のはずなのに、政治家が検察人事に、あからさまに首を突っ込み、自分たちの都合のいい人物をそのトップに据えようとする? そんなのアリなの? しかも、国家公務員法、さらに検察庁法を改正して? と、びっくりした。

「黒川問題」は、当の黒川拡氏が、緊急事態宣言下であるにも関

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古都再見 葉室麟 新潮文庫



葉室麟という作家の名前は折に触れて目にしていた。
直木賞を『蜩ノ記』で受賞した頃、あまり時代小説、というよりエンタテインメントを読まなくなっていたので、書店で見かけても手に取ることはなかった。
小説には手が伸びなかったけれど、「幕が降りるその前に見るべきものは、やはりみておきたい」と京都に居を移した歴史作家が、古都を歩き綴った随筆という『古都再見』の紹介を目にして、読んでみたくなった。

京都

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大江戸商売ばなし 興津要 中公文庫



時代小説を読んだり、歌舞伎を見たり、落語を聞いたりしていると、見慣れない、耳慣れない商売がしばしば登場する。
そういう商売について、当時の書物や川柳を引きながら解説してくれるのが、興津要『大江戸商売ばなし』だ。

もちろん、この本のネタ本である『守貞漫稿』や『絵本風俗案内』『東都歳時記』『武江年表』『明治商売往来』といった本に当たるに越したことはないだろう。
しかし、素人にとってはこれを調べる

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文房具を買いに 片岡義男 角川文庫



若い頃、書店の角川文庫の棚には、ズラッと片岡義男が並んでいた。壮観だった。ただし、その棚のから本を抜き出して手にとってみたことはなかった、と思う。
アメリカのポップな音楽、映画、小説、そういうものに興味が向いていなかったから、それと同じような匂いがする片岡義男の作品にも興味を惹かれなかったのだろう。読みたい本はたくさんあって、でも、限られたお小遣いの中からそれらを手に入れるためには、寄り道をし

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