『最近どう?』『静かです』
私は手フェチだ。そのことを初めて意識したのはあるドラマを観た時だ。主人公の男性は耳が聴こえなかった。その男性の手が、手話で語るその手の動きが美しすぎて釘付けだった。男性の手というものを初めて意識したのだった。
先週から始まったメメ(目黒蓮)のドラマ。今回メメが演じるのが耳の聴こえない障がい者の役。こんなの毎週観てたら皆“メメ担(目黒くんのファン)”になってまうやろうーって初回から思ってしまうくらいに素敵なドラマだ。
『silent』(フジテレビ木曜10時)
紹介したいことがいっぱいあるのだけど、とにかくすごく丁寧に作られている感じが好きでした。主人公の女性を川口春奈さん(役名・紬)、その恋人(湊斗)を鈴鹿央士さん、聴覚を失った元恋人(想)をメメが演じてます。
以下、心に残った箇所を心のままに書きます。
同級生たちと音信不通となっていた想の、唯一連絡先を知る部活の元顧問の先生とのLINEのやり取り。
先生『最近どう?』
想『静かです。』
‥なんだこれ。もう泣ける。静かですって。やだ、泣ける。
マイノリティに対する偏見はまだまだある。風間俊介さん演じる手話教室の講師と偶然知り合った湊斗が「なんか、人が良さそうですもんね」と言う。それに対して「そういう刷り込みがあるんですよ」と。
手話→耳が聴こえない→障がい者→それに携わる仕事→奉仕の心→優しい、思いやりがある→絶対良い人なんだろうなぁって。「勝手に思い込むんですよ。ヘラヘラ生きてる聴者の皆さんは‥僕も聴者なんですけどね」あ、痛たたたた‥そう刷り込まれていた私はただただ反省。マイノリティーに対する偏見がまだまだある今、それが、家族や知人がそうなった時にどうしたら良いのか考える機会にしたい。
想は音楽が好きだった。いつもイヤホンを耳にしていた。けどもう聴けなくなった。CDの棚は空っぽに片付けられていてもベッドの下の、捨てられずにいたCD。空っぽの棚のショットが印象的。紬の思い出の詰まった缶カンの中には、壊れて聴こえなくなったイヤホン。想とお揃いのやつ。やっぱり捨てられない。
ベタなシーン、ベタな演出、だけど人の想いをカタチに表すとしたらベタこそわかりやすいし感情移入してしまう。
紬と想の8年ぶりの再会。想の“今”を知らなかった紬は手話で語る想を見て驚き戸惑い、それに対して想は
俺たちもう、話せないんだよ
手話だから、それすら紬には伝わらない。
元々持っていたもの(聴覚)を失う感覚を、大好きだった人と別れてしまった時の感情に例える手話教室の講師。こんなに辛いなら初めから会わなければ良かったって思わない?それに対して紬は
好きになれて良かった、そう思いたい
想の登場で、不安を口にする湊斗に友人は言う。「今さらわざわざそっち(障がい者)を選ばないでしょ」健常者の彼氏と障がい者の元カレ、どっちを選ぶか。そう思うのは、案外普通のことだ。だって、今は今で充分幸せなんだもの。
まだドラマは始まったばかり。
雪の中のサッカーボールの話や、「雪降ると静かだよね」「青羽(紬)の声うるさい」のやり取りや、同じ世界線に存在してたっていうフレーズや、紙を42回折ったらの話や、“パンダ 落ちる”の検索ワードや、失恋パンデミックっていう表現や、スピッツや。どうでもいいような、他のものでも代用できそうなそういうものの蓄積が、何物にも代え難いこのドラマの核になってる気がしてとても愛おしいのです。
「好き。付き合って」という想への返事は
「なんて答えればいいの?」と逆に聞く。
「じゃあ、よろしくお願いしますで」
「よろしくお願いします」と食い気味に答える紬。幸せな高校時代とその後の悲しみとの対比も上手。
好きな人がいる。別れたい
8年前の、想からの別れのメール。声が好き。電話が好き。声が聞きたいから電話で話す。でも最後の言葉は電話じゃなく、声じゃなく、メールだった。“好きな人ができた”じゃなく“好きな人がいる”、同じようで違う2つの表現。勘違いといえばそうだけど、ここにどれだけの気持ちを込めてるの?って、何故あの時それを言葉にしなかったの?って言いたくなる。“言葉”の大切さをとてもよく知っていた想だから、出来たことと出来なかったこと。後になってそれを知るには8年は長い?それとも短い?
夏帆さんの役どころがまだハッキリとわからないけれど手話がとても上手で、これはもしかすると初めから聴こえなかった人と途中から聴こえなくなった人の違いを見せているのかも知れません。
毎回ドラマ中に、無音の何秒かがあります。それはもうホントに、全く音のないシーンで、急にしーんと何も聴こえなくなるからひどく印象的で、想が今いる世界を、音のない世界を視聴者が追体験するような、そんなシーン。
川口春奈さんが上手に泣くので、つられて私も泣いてます。多分皆なんとなくこれからの展開は予想出来るので、できれは鈴鹿くん演じる湊斗には壊れてほしくないし、メメには豊川悦司さんの手話を越えて欲しいなって思いながら。
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