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[小説]陽光が月肌を撫でる。

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ショートショートショートです。 大学生のお話
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記事一覧

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (6)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (6)

前回までのお話は....

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 パンケーキの横にたっぷりと添えられた生クリームは、店員に運ばれながらふわふわと揺れる。

一様に小麦色に焼けたパンケーキの熱で、少しずつ溶け始めた生クリームはなんだか女の子のほっぺたみたいだった。

 少しの間溶けていく生クリームを眺めながら、フレンチトーストが給仕されるのを2人で待った。

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[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (5)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (5)

前回までのお話は....

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 改札へ向かう間、僕は今日いろんなことを考えすぎているなと懲りずに考えていた。

 街中の広告と画面の中の広告について、この街の空気とグリンデルワルトの空気における光の減衰度合いの差異に関して、そしてまた広告について考えて、ついさっきまで女の子に関して考えていた。

あまりに精神世界に浸ってし

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[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (4)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (4)

前回までのお話は....

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 夜の七時五分前、人々はどこか目的地を目指してひたすらに歩を進めている。

女の子を待つ間、特にこれと言ってやることがあるわけではないから、女の子を他人の行き交う交差点から見つけようと注視していた。

陽が落ちた交差点を行き交う人々の頬を照らすのは、信号機や過剰に装飾された広告(若手女優がハイ

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[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (3)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (3)

 会場前に着くと、そこにはたくさんの人がいた。こんなにたくさんの人がバレエに興味があるのかと思うと、僕は不思議に感じた。

チケットであるスマートフォンに表示されたQRコードを係の人に提示して、入場した。パンフレットを2枚受け取り、差し入れを係の人に渡すため、また別の列に並んだ。たくさんの人が並んでいて、意外と時間がかかった。

僕らの番になると、係の人は付箋を僕に渡してきて、渡したい人の名前

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[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (2)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (2)

 当日、LINEに「ちょっと早めについちゃったから、先にカフェ入ってます。気にせずゆっくりきてください」とメッセージが届いていた。

普通、男の方が早く着くべきなのでは?と感じずにはいられなかったが、もう10分前に着くことになる電車で体を揺られている。時すでに遅し。まさか、女の子が1時間も早くついてるなんて、いくら何でも早すぎないか⁉︎

「ごめん、もう少しかかります」と返信し、引き続き薄汚れたビ

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[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (1)

[小説] 陽光が月肌を撫でる。 (1)

  女の子にバレエを見に行こうと誘われた。僕はバレエになんか興味はなかったし、そもそも、芸術に関して興味があったわけでもなかった。

大方予想すると、僕はバレエを見ているうちに段々と眠くなって、気づいたらもう終わってるみたいなことになると思った。

僕は今までにコンサートみたいなものに、何回か行ったことがあったと思う。

最初は、”しまじろう”のコンサート。ほとんど何も覚えていない。振り返るに

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