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編集は「整理」、デザインは「整頓」。

編集とデザインの役割のちがい

ときどき「編集とデザインの役割のちがい」について訊かれることがある。
ざっくりとした印象からすれば、「混同することはないでしょ?」といいたくなるところだが、じつは骨組みだけを取り出すと、両方とも「さまざまな情報をコントロールして価値を提示する」という意味では共通している。また、編集とデザインには、ひとつのモノをつくっていくうえでのフェーズのちがいのようなところもあったりする。そんなことから、微妙な「すみ分け」を気にする人が出てくるのである。

では、編集とデザインの役割はどうちがうのか。
その理解の手がかりとなるのが「整理整頓」という言葉だ。

「整理整頓」は、ひとつのかたまりのように用いられることが多いが、実際には「整理」と「整頓」という、文字面は似ていても、まったく内容の異なる2つの営みを含んでいる

整理」は、「雑然としたものをあるルールや基準によって整えること」。
整頓」は、「頓」がこの場合は「安置」を意味し、「あるべきさまにすること」。

よくこの言葉が用いられる「部屋の掃除」にあてはめれば、雑多なものを必要か否かで判断して、取捨選択するのが「整理」。それらを「本来あるべき場所」にしまうのが「整頓」ということになる。

編集とデザインの役割、関係は、この2つになぞらえることができるとぼくは考えている。
編集は、整理整頓の「整理」、デザインは「整頓」である。

雑然とした情報を、ある“ものさし”を手がかりに整理するのが「編集」
整理したものをあるべき場所に位置づけたり、あるべき姿に表現したりするのが「デザイン」、ということだ。

整理整頓


「整頓整理」ではなく、「整理整頓」

ただ、編集の「整理」は、掃除のように取捨選択するだけのものじゃない。もちろん、たくさんの情報のなかから必要なものを選び出すのも編集の重要な「整理」のひとつだが、それ以外にもさまざまな「整理」をおこなう。

たとえば、情報に序列をつける「整理」もある。
たくさんの情報を総括する「整理」もある。
あるいは、「教養として知っておきたい「編集」の基本①」で説明しているように、モノの価値や意味を明確化させる「整理」もある。

いずれも手がかりとなっているのは、コンテクスト(共通性)だ。
コンテクストをものさしに、海のものとも山のものともつかない情報に意味を与えるなどして「価値化」するのが編集の役割なのである。

そうして整えたものを、デザインが「あるべき姿」にする

チラシやポスターであれば、打ち出すべき魅力や事柄を見定めてメッセージを見つけたり、言語化したり、情報の優劣をつけたりしたうえで、それがうまく伝わるようなビジュアルをつむぎ出す。あるいはプロダクトであれば、必要な機能やスペック、コンセプトなどを見きわめたうえで、あるべきフォルム、構造へと落とし込む。

「編集」という呼称が用いられないこともあるが、デザインの前には、編集的な思考作業による「整理」が必要なのである(この整理=編集のプロセスを経ずにデザインに入ると、なにを押せばいいのか戸惑うような膨大な数のボタンが並んだテレビのリモコンができあがる)。

ぼくはこれまで、いわゆるトップクリエイターと呼ばれる人たちの本を多数手がけ、彼らの話をたくさん聞いてきたが、すぐれたデザイナーたちはみな「整理」の重要性を強く意識していて、かならず「デザインに入る前が重要だ」と語る(昨今はそこまでを含めてデザインだ、といわれることも少なくないが、便宜上、ここではオーソドックスなデザインを想定している)。

彼らの感覚のなかには、いま説明したような「整理」と「整頓」の関係性があるのだと思う。「整頓整理」ではなく、あくまで「整理整頓」。その順序でやるべきことをやらなければ、きちんと伝わるものにならないとわかっている。

逆に、出版の世界で見かけるように、編集者が、一見すると異分野に思えるデザインのディレクションをこなす背景にも、やはりこの関係性があると感じる。たしかにビジュアル化のアイディアやレイアウトの精度、色づかいといったアーティスティックな部分には踏み込みづらいかもしれないが、「整理」を担当しているだけに編集者は、「いまここで、なにが重要か」というポイントをよく知っている。おかげで、デザイナーの「整頓」が的を射たものかどうかを判断しやすいのである。

便宜上、デザインをビジュアル化とひもづけて説明してきたが、もっと広義にとらえても、この「整理整頓」話はあてはまる。組織のデザイン。コミュニケーションの設計。ユーザー体験の構築。原稿の執筆……。生み出しのプロセスには「整理整頓」が存在する

なにかをつくる、というと、どうしてもかたちにするところが気になってしまうが、基本は「整理整頓」にある。迷ったら、どこが整理で、どこが整頓かを意識してみる。それだけでも、ものづくりはずっとスムーズになる。



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