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学習塾 M&A 記録

こんにちは。スモールM&Aアドバイザーの北林です。
今回は以前、当方がお手伝いした学習塾のM&Aの記録について書きたいと思います。

案件概要

●売手側概要●
地域:近畿
業種:学習塾 ※法人。20年以上。
スキーム:100%株式譲渡
売上高:3,000万円~5,000万円
経常利益:黒字
役員・従業員:10~20名
売却理由:代表の高齢化、後継者不足
売買条件:希望価格2000万円。(代表は引退後、継続勤務可)
特徴:近隣の小中学生が対象。フランチャイズではない。

●買収側概要●
地域:近畿
業種:学習塾 ※法人。10年以上。
買収理由:周辺事業(小中学生)拡大。

●弊社の立ち位置●
仲介形式

成約までの期間

当方が相談を受けてから約5か月でM&Aが完了しました。
ただ売手様は、他のM&A仲介会社等に相談をしていたのですが、中々取り扱ってもらえなかったため、売手様としては1年ほどかかった計算になります。それでも比較的、短い期間での成約だと思います。

今回の流れ

<売手様 初回面談>

売手様は代表兼先生を務められており、奥様(取締役、管理担当)と二人三脚で会社設立後、地元の小中学生を対象とした学習塾で頑張ってこられました。売却理由は、代表の高齢化、後継者不在というのが主な理由です。

売手様の会社状況の把握や、M&Aに関する説明を一通り実施しました。面談後の印象としては「事前にM&Aを勉強しており、譲渡に向けて色々な内部資料や財務の整備をしているな~。」という好印象でした。売手様は現役の先生でもあります。さすがと感心いたしました。
そして同日にまずは「秘密保持契約書」を締結させて頂きました。
(売手様の相談時のポイントはこちら

<企業価値評価>

まずは、当方で価値評価をするために必要な資料を売手様に依頼。
(通常、この資料を揃えるだけでかなり時間がかかります。特にスモールM&Aでは内部資料が整理されていない、作成したことがない等で大変苦労されるケースが多いです。)

今回の売手様はその点、事前に準備をしていたのでスムーズに提出頂きました。それもあり企業評価も数日で完了しました。
その評価をベースに、現実的な譲渡希望金額を売手様と相談したところ、売手様の想定していたレベルとほぼ相違がなかったため、スムーズに金額も決定できました。またそれ以外の売手様が希望する付帯条件も、現実的なレベルでしたので、こちらもスムーズに決定できました。
なお同日に「M&Aアドバイザリー契約書」も締結させて頂きました。

<ノンネームシート、案件概要書の作成>

当方で2種類の提案書(ノンネームシート&案件概要書)を、売手様と内容について何度も確認をとりながら、一週間程度で作成しました。

・ノンネームシート:売手が特定されない簡易な一次情報。A4で1枚程度。

・案件概要書:売手の社名をはじめ、ビジネスモデル、財務情報など詳細な2次情報。IM(information memorandum)とも良く言われます。なおアドバイザー会社によって資料の量が全然違います。

特に案件概要書は、アドバイザーの腕の見せ所の一つだと考えています。
情報が少なすぎずand多すぎず、買手様がわかりやすい、かつ初期段階の意思決定ができる内容を、当方はいつも心掛けています。

<ロングリストの作成、買手候補への打診>

続いてロングリストを当方で作成いたします。
ロングリストとは「買手候補先リスト」のことです。売手様の会社はローカルな地域にあり、NGの会社もあるということで、当方で作成したロングリストから打診先のOK・NGを、売手様とすり合わせて作成し、ノンネームシートベースでの打診を開始いたしました。
今回は各代表宛(親展)に郵送中心で打診いたしました。

しばらくして、そのうちの2社から「興味がある旨」の電話を頂きまして、後日、当該候補者に会うこととなりました。

<買手候補 A社様>

買手候補A社様は、売手様と比較的近いエリアで学習塾を運営している法人です。当方は連絡を頂いて、数日以内にA社様の会社にお伺いいたしました。(最新の注意をはらうため、従業員がいない営業時間外の訪問です。)

まずは到着早々に、秘密保持契約書を締結させて頂いた上で、案件概要書の開示と説明をおこないました。
お話しを聞くと、以前から売手様の会社を、M&Aと関係なく、同業者として注目していたとのことでした。
また話の中で、MA&後のプランが、とても明確でした。その他、買手様に関して一通りヒアリングしたところで、是非TOP面談をしたいということになりました。
(買手様の相談時のポイントはこちら

<買手候補 B様>

買手候補B様は、個人の方ですが、国内外の経歴が素晴らしい候補者様でした。あらたな教育ビジネスを検討しており、M&A後のビジョン・プランがとても明確な買手候補様でした。
なお関東にすんでおられるということで、事前に秘密保持契約書を郵送で済ませた後、案件概要書を開示したあとに、電話での対応となりました。
(個人でM&Aをする時のポイントはこちら

<TOP面談 A社様>

面談場所は、売手様の学習塾にて実施。まだ生徒がいない時間帯に実施いたしました。
参加者は、売手様(代表、代表の奥様)、買手A様(代表、代表の奥様)、当方の5名。
A社様は売手様から近いエリアということ、以前から注目していたということもあり、双方の学習塾をはじめたきっかけや、理念、そして事務的な運営方法などについて意見交換を行いました。非常に、お互いフレンドリーかつ丁寧な説明だったため、終始よい雰囲気で面談を終えることができました。

なお当方からは、初回面談では、財務・業績については、極力最小限にして欲しい旨を、事前に買手様にお伝えしておりました。これは最初から、事業よりも業績等ばかり質問すると、売手様としては気分を害するケースが多々あるためです。この点については、買手様も快く納得頂いた上で対応頂きました。

<TOP面談 B氏様>

今回も売手様の学習塾の時間外に実施。B様はおひとりで、関東から遠方はるばる来ていただきました。
参加者は、売手様(代表オーナー、オーナー奥様)、買手B様、当方の4名。
こちらも、終始良い雰囲気で面談を終えることができ、またA社様と同様に面談時の注意点についても快くご理解を頂いた上でご対応頂きました。

<意向表明書作成&候補者の選定>

TOP面談を終えた後、A候補、B候補双方にM&Aを本格的に進める意向があり場合に提出いただく「意向表明書」をお願いいたしました。
意向表明書とは、買手候補者が、具体的な売買条件・付帯条件・目的・M&A後のビジョン等をまとめて、提出いただく資料になります。(なお、あくまで”意向”ですので、その内容に法的拘束力はありません。)
なお当方は、意向表明書のひな型を毎回作成します。記述方法はどんな形式でも問題ありませんが、複数の候補者がいる場合は、提示頂きたい内容に不足部分があることが多々あるため、当方は毎回雛形を準備しております。

数日後、各候補から意向表明書が提出され、売手様に交渉の優先順位をご検討いただきました。各候補の金額等の条件は、売手様の希望条件に沿ったもので、どちらもほぼ同じ条件でした。

そんな中、売手様が選んだ第一候補は「A候補」

やはり売手様のエリアに近くで学習塾を複数店舗、すでに経営されている点、売手様のエリアの学校状況をよく知っている点など、M&A後に安心して任せられる理由が多かったのが大きな決め手でした。
残念ながらB様には、2番目ということでご理解を頂きました。
なお正式にA社が選ばれたタイミングで、弊社とA社にて「M&Aアドバイザリー契約」を締結しました。

<基本合意契約書>

買手の第一候補としてA社様の決まったところで、あらためて関係者で集まり、「今後の詳細なスケジュール、進め方、やるべきことなど」について、当方でドラフトを作成し、打合せを行いました。
まずは、売手様が第一候補としてA社様を選んだ理由などを、あらためて説明頂きました。そしてあとは売手様の学習塾の運営方法や管理方法について、実際の資料やデータを交えながら、双方の理解を深めました。
また、この日は同時に当方にて作成した「基本合意契約書」を締結いたしました。基本合意契約書の最大の目的は、”独占交渉権を買手候補に与える。”です。(なお、実務上は当該契約書は、締結せず進める場合も多々あります。)

<買手によるデューデリジェンス(DD)>

デューデリジェンス(DD)とは、”買収監査”と言われ、買手様が実施する作業になります。これは簡単にいうと「売手様の条件を揺るがすような簿外債務や、運営上の問題、などをチェックする」ことです。
どこまで詳細に実施するか、外部専門家にどこまで依頼するかは、買手様の判断にゆだねられます。そのためDD費用は通常、買手様が負担します。
今回は、運営上の問題や財務情報を中心に、買手様代表と奥様達が自ら行う方向で実施頂きました。
なお当方は、大量の資料を売手様に準備頂く必要があるため、その資料準備の管理、資料の交通整理を中心に対応し、スムーズに買手様がDDを進めるように努めました。

結果としては、条件に大きく影響する問題はなく終了いたしました。
しかし、一部生徒の授業料滞納、過去の従業員とのトラブルで、若干気になる点などがありましたが、買手様としては十分対応できる、大きなリスクではないと判断され、買収条件を変更することはありませんでした。

<売手様の最終契約に向けた各種事前準備>

買手様がDDを行うと同時に、売手様にも色々準備頂くことが多々あります。今回の主要な項目としは以下のようなものになります。
A)キーパーソンへの事前説明と理解
B)賃貸物件へのオーナーへの事前説明と理解
C)オーナーが買い取る資産(車等)の手続き準備
D)保険の解約金額の確認、退職金の税金計算
E)売手代表の譲渡後の先生としての待遇

A)については、実はM&Aを検討する前に、キーパーソンの社員様に事業を承継するつもりはないか、相談をしていた経緯がありました。残念ながら当該社員には、経営力・資金力に対する不安などを感じていたため難しかったようです。しかし、すでにそのような話をしていたため、キーパーソンの当該社員への説明と理解はスムーズに完了しました。
B)については、普段から賃貸物件オーナーとはコミュニケーションも良好であるため、こちらもスムーズに理解頂きました。(まれに賃貸物件オーナーと仲がわるかったり、人気物件エリアだと、理解頂けないことがあります。。)
C)については、今回は会社から売手様が買い取るのは、車だけでしたので手続きの準備は容易でした。しかし、買取金額には注意が必要です。今回は大衆車で簿価での買取で双方納得しましたが、これが希少車・高級外車だと金額でもめる可能性があります。税務上も要注意ポイントです。
D)については、多くの中小企業で散見される生命保険です。(一部では節税保険ともいわれています。)この保険の扱いも事前にしっかり決めていないとかなり揉めます。簿外資産のようなものなので、それなりの金額が戻ってくるケースが多いです。通常、役員退職金に充てられるのですが、本当にかなり揉めますので、早めに取扱いを決めておくことをおススメします。
E)については、今回はM&A後も、売手代表が先生として引続きご協力するので、役職・期間・報酬など、当方で案を作成して、関係者で決定いたしました。

上記以外にも細かいことが多々ありますが、今回は割愛させていただきます。こういったことを、1か月~2か月かけて関係者で協力しながら、ひとつづつ地道にクリアーしていきます。当方は、全ての進捗の把握、実務手続きの協力、必要資料の作成などを、いち社員のように地道に実務を行いました。
なお学習塾は夜遅くまで授業をしているので、23時~24時ぐらいに電話等でやりとりをする日も多々ありました。

<株式譲渡契約書等の作成>

売手様と買手様が、それぞれすべきことを実施していると同時に、株式譲渡契約のドラフトを当方で作成します。色々な付帯条件があるので、それらをしっかり契約書に落とし込んで形にすることも、アドバイザーの仕事で重要な部分です。当方でドラフトを作成し、弊社の顧問弁護士と内容を何度も修正して最初のドラフトを完成させます。
その後、「売手様と買手様に確認 ⇔ 当方で修正・追加・削除」を何度も行い売手買手双方が納得する契約書を作成します。いつものことですが、かなり時間がかかります。。

また株式譲渡には、会社法上で多々準備する手続き資料があります。
株式譲渡承認請求書、取締役の辞任届、取締役の就任承諾書、取締役会議事録、臨時株主総会議事録、譲渡承認通知書、株主名簿書換請求書などなど。
このあたりは、弊社の顧問司法書士と連携して準備をします。

<クロージング>

クロージングまでにすべきことが完了し、ついに株式契約書等の調印ならびにクロージングの日を迎えました。
株式譲渡では捺印するものが多々ありますので、司法書士も同行頂き、調印・クロージング式を行います。売手様としては0から立ち上げ、長年経営した会社を手放すのですから、思うところも多々あるかと思います。大切なセレモニーとして、当方で式次第を準備し厳格に行いました。

ひとつの資料に捺印をしていく間、関係者は固唾をのんで見守ります。
全ての捺印が終わったところで、売手様代表、買手様代表から、最後のご挨拶を頂戴いたしました。
売手様は、会社を手放すことへの寂しさと安堵感、
買手様は、会社を引継ぐ責任&今からが本当のスタート
という気持ちなどを感じる挨拶でした。
最後に、代表同士の握手の写真、関係者全員の社員を撮って、ついにすべての工程が終了しました。
売手様と買手様は、通常の経営・仕事をしながらのM&A対応だったので、本当に大変だったと思いますが、今回の成約のポイントは、売手様と買手様の双方が、本当に相手に対するリスペクトの精神が大きいと思います。

そして嬉しいことに、当方も多くの感謝の言葉とお土産を頂き、本当に今回のM&Aを担当させて頂いてよかったと嬉しく思いながら、岐路につきました。

<M&A その後>

クロージング後は、引継ぎを中心に、細かい手続きや事務作業、確認事項が多々発生しますので、当方としても都度サポート対応させて頂きました。
1~2か月ぐらいで概ね引継ぎを中心に落ち着く傾向がありますが、このあたりも重要なアドバイザー業務のひとつだと考えています。

なお、M&A後も買手様は、順調に事業を続け、さらに新たな取り組みにも挑戦されており、売手様(前代表と奥様)も、今はゆっくりと自分たちの時間を過ごしているようです。

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