知的好奇心をくすぐる本と出会う、まちの小さな本屋さん
俳句と暮らす vol.28
岐阜・各務原のセレクトブックストア
昨年11月3日、文化の日に、岐阜・各務原市に素敵な書店がオープンしました。
新刊と古本のセレクトブックストア「カクカクブックス」。
今回は、オープンしたばかりの話題の本屋さんへ取材へ行きました。
この連載は「俳句と暮らす」ですが、本屋さんには季語らしきものは見当たりません。
が、実はこの「カクカクブックス」には、かわいい看板猫がいるんです!
「猫の恋」「子猫」は春の季語です
「猫の恋」という言葉を聞いたこと、ありますか?
とても詩的で、素敵な言葉だなあと思います。
これは春の中でも初春の頃の季語で、文字通り、恋に憂う猫のことを言います。
近年、都会では聞くことが少なくなってきたかもしれませんが、雄猫は発情期になると、「うぉ〜ん」と、まるで人間の赤ちゃんが泣いているような声で、雌猫を求めて鳴きます。
切なく恋情を訴える独特の鳴き方、春の深夜に響く声。特に春になると盛りがついてきてとても大きな声で鳴くので、どこかで聞いたことがある人もいるかもしれません。
この雄同士が喧嘩する様子や、発情期に発する独特の声が「猫の恋」として初春の季語とされています。
そして、春も深まる4月頃になると、妊娠した雌猫が増えます。
その頃、晩春の季語として「孕み猫」「子持猫」、そして「子猫」「猫の子」があります。
ということで、本を買いに、そしてかわいい看板猫(取材時にはまだ子猫でした!)に会いに、いざ「カクカクブックス」へ。
昨年秋にオープンしたばかりの「カクカクブックス」。
店主の尾関幸治さんと、お手伝いスタッフのオゼキカナコさん夫妻が、「自分たちが好きな本を並べてる」という、こぢんまりとしつつも、店主のこだわりが詰まった本屋さんです。
ふたりの感性や、独自の文脈で集めてきた本たちは、ジャンルもいろいろ。
古本も新刊もバランスよくすっきりと並べられている店内は、個性的な選書やユニークなPOPに目が奪われ、ついついあれこれ欲しくなり、長居してしまいます。
店の一角には、「みんなでつくるシェア本棚」も。
こちらは、一箱単位で誰でも“本屋のオーナー”になれる仕組みで、読み終えた本などを並べて販売することができる、オーナー募集制の本棚(月額制)です。
取材に訪れた日にも、近隣の書店の出張本棚や、デザイナーさんの本棚など、興味深い本がたくさん並んでいました。
元八百屋の建物を自分たちでDIY
実はこちらの建物、かつては八百屋さんだった古民家を改装してオープンしました。
店舗の改装やDIYは、2022年春頃から、ほとんどの作業を自分たちでコツコツと進めてきたそう。
店主夫妻も在籍する、各務原のまちを楽しむ人たちのコミュニティ「かかみがはら暮らし委員会」のメンバーと一緒に、壁を塗ったり棚をDIYしたり。
たくさんの人が関わり、楽しくコツコツとつくり上げてきた空間です。
本をきっかけにしたイベントも多数開催
カクカクブックスでは本を販売するだけでなく、本をきっかけにしたイベントや、気軽な座談会なども不定期で開催しています。
みんなで集まってゆるく話そう、という趣旨の「ゆるゆる座談会」シリーズでは、過去には『間違いだらけの洗濯術(洗濯ブラザーズ著・アスコム)』を参考図書とした「洗濯について話そう」や、『思いがけず利他(中島岳志著・ミシマ社)』を参考図書に、みんなで利他について自由に考え話してみる会などを開催しました。
さらに、先日2月11日には「本を読みたいけれど、何を選んだらいいかわからない」「自分がどんな本が好きかよくわからない」という人に向けた“一歩目”を一緒に踏み出すための座談会「本を1冊選んで買ってみようの会」を開催したばかりです。
読書好きな人はもちろん、「読みたいけれどどうすればいいの…?」という人が集まり、本の選び方や読み方について、ざっくばらんに話す楽しい会になりました。
付箋の存在と一緒に読み進める、新しい読書法?
私がカクカクブックスに並んでいる本を眺めながら、とても珍しいなと思ったのが、たくさんの付箋がついた本があること。
お二人が「付箋本」と呼ぶこの本。
古書・新刊にかかわらず、付箋がいくつも付いたまま並んでいて、POPにはどんな本なのかが簡単に紹介されています。
この付箋本は、パラパラと立ち読みもできるようになっています。
店主の二人が読んだときに「いいな」と思ったところにペタッと貼ってある付箋なんだとか。
販売時には付箋がついていないものも選べますし、「付箋本がほしい」という人には、そのまま販売もしているそうです。
自分が過去につけた付箋を辿って本を読み返したことは私にも経験がありますが、「自分ではない誰か」がつけた付箋付きの本を読むのは、はじめての経験。
本を読むときの視点を、また少し変えてくれそうで、とても面白いです。
(それも、ついてる付箋は高さが揃っていて、なんだか美しさすら感じます…!)
本は一人で読んでいても楽しいけれど、誰かとシェアすることも楽しい。
“誰かが読んだ”軌跡のような証であり、自分以外の誰かが感銘を受けたところの記録でもある付箋が、また読書の楽しみを広げてくれそうです。
新しい「知」との出会いをデザインする場所
読書好きな店主独自の視点や感性で、大型書店にはない独自の選書をする“まちの本屋さん”。
店主は「自分たちが好きな本を並べている」と言いますが、ジャンル別に整然と並べられた大型書店にはない選書が、こういう小さな書店の一番の魅力だと思います。
「深すぎず、難しすぎず。普段あまり本を読まない人でも、読みやすく手に取りやすい本というのは、意識しています」という幸治さんの言葉通り、表紙の言葉に惹かれるものやPOPを読んでいてついパラパラとめくってしまうものなど、気になる本がたくさんあります。
並んでいる本のジャンルはいろいろ。
私が好きな詩歌関連もあれば、知的好奇心をかき立てる人文系・思想系の本もわりと多めな印象です。
選書の傾向はひとことでは言い表せないながらも、強いて言えば「新しい考え方、おもしろい世界、自分が知らなかった視野に出会える本」が多い感じ。
本に添えられているPOPを読んだり、店主のお話を聞いたり。
付箋本の付箋の数に惹かれて手に取った本、表紙やタイトルが気になって買った本と出会いから、自分の考え方がぐんと広がったり変わったりする、そんな思いがけない体験ができる書店なのかもしれません。
そしてそれは、店主と自分という一本のつながりだけではありません。
店で開かれるイベントやシェア本棚がきっかけとなり、このまちを面白がる仲間、シェア本棚に本を置いてくれる本棚オーナーとつながることもできるかもしれません。
この場所を楽しみ、面白がっているお客さんたちと一緒に、「本」というアイテムを介して交流や共創を楽しむ、カクカクブックスはそんな場所だと感じました。
あ、看板猫の「ちゃちゃ」は、書店隣室のイベントスペース(現在改装中)で、たまに遊んでいます。
猫好きの人、ひと目見て撫でたい人は「ちゃちゃ、いますか?」と店主さんにお気軽にお声がけくださいね。
暮らしの一句
書肆(しょし)の戸や猫の子の鳴く声かすか 麻衣子