月1読書計画 3冊目 「ユートピア 湊かなえ」

2020年月1読書計画のルールをおさらい。

ここでいう本とは、文章の割合が7割以上を占めるものと定義する(漫画や雑誌、写真集は対象外)

・著者に偏りがないようにする(好きな作家ばかり読まない)

・小説、エッセイ、ビジネス書など、ジャンルはなんでもあり 

・必ず書店に足を運んで本を選ぶ

・読了したらnoteに記載。ひとことでよいから感想や思ったことを書き留めておく

・1ヶ月一冊以上読んでもよいが、読み貯めはNG(先月2冊読んだから今月はなし、はだめ)

・ちょっと続かないなと思ったら上記ルールを全部やぶってもよし

決意記事はこちら


まさか最終手段、どうしようもないとき用にとっておいた最後のルールをもう適用させることになろうとは。

3月分の読書を早速サボりました。まだ一年始まって3か月目なのに。

言い訳をすると、3月は仕事がたてこみ、かつ外的要因(全世界を脅かしている例のアレ。どの媒体でもあの言葉を過剰に耳にし、目にし、もう疲れ切っているので言葉さえも紬ぎたくないので、ハリーポッターの世界のように、「例のアレ」「例のウイルス」と記したい)で心身ともに疲れ切ってしまい、どうしても家にいても読書をする気になれなかったのだ。

こんな風にちょっと大げさにいうと、それはしょうがないね、ともう一人の自分が優しく言ってくれるので書きました。3か月目にサボってしまったか。3日坊主というように、3という数字は、そういった魔力があるのだろうね、しょうがない。そんなときもあるよね。


タイトル:ユートピア 著者:湊かなえ

読了日:2020年4月19日(日)

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「善意は、悪意より恐ろしい。」

帯のこのコピーに惹かれて本書を手にしたとき、世間は今日明日に緊急事態宣言が出るだの出ないだのの真っ最中で、もしそうなってしまったら近くの商業施設が閉まってしまうことに恐れたわたしは、あわてて書店に駆け込んでいたのだった。

冒頭に言い訳した通り、このところ活字を読むことがどうしてかおっくうになっていて、ひどいときには仕事のメールを読むときも、同じメールを2度3度、上から順番に読みこもうとしても全く頭に入ってこないこともあった。

無理やりにでも活字を脳に摂取させようと、スローライフを促すような本も購入したが、それも効果はなかった。

そんな中、こんな鋭いナイフのようなコピーを背負った小説を読んでも大丈夫なのだろうかと一瞬不安になったし、事実、湊かなえさんの生み出す独特の薄暗さにちょっとだけ精神をやられた。それでも、面白かった。2日で読んだ。なんだったのだろう、まるで英文メールが来たかのように一語一語心の中で唱えながら仕事のメールを読み込むあの日のわたしは。


読み始めの設定は、心温まるストーリーのために用意されたものだらけだった。

舞台は海の近くの田舎町。田舎暮らしにあこがれて移住してきた陶芸家、夫の転勤でこの地に移住してきた主婦、長く地元として暮らし続けている仏壇屋の3人の女性たち。陶芸家率いるアーティストたちが、芸術の力で町おこしをしようとイベントを企画するところから話が始まる。

これだけ見ると、わくわくする。地元の人たちに反発されながらも、一生懸命に取り組む姿に胸をうたれ、最後には一致団結して、それぞれのハッピーエンドを迎えるのだろうと。

んなわけない。まあ湊かなえさんなので。予想はついたけれど。

でも、大どんでん返しがあるミステリーなのか?サスペンスなのか?と問われると、そういうわけではない。

3人の女性たちが、それぞれの個を、価値観をもっていて、それぞれに妬み、嫉み、疎ましさを少し膨らましては、しぼませる。相手に好意をもったかと思えば、でもやっぱりお互いに信頼はしていなくて、そんなよくある人間の感情が、リアルに文字に起こされることで痛々しさが増す。共感もするし、自分にもつきささる言葉たちが恐ろしい作品だった。

イヤミスによくある、とても嫌な感じの事件が起こるかというと、そうでもないのだけれど、終始居心地の悪さを感じる書き方が、さすがだなーという感じ。この本は、物語の構成どうこうというより、その心情描写が見事だなと感じるための本だなと。こんな風に決めつけるのは今の時代よくないのかもしれないけど、女性の方がぐっとくる作品ではないだろうか(いろんな意味で)。

しかも、誰が悪者なのか?と聞かれると、誰も悪者ではないのがこの作品の魅力でもあり、嫌なところでもある。

全員が悪意なく、善意もあるが完全な善意でもなく、自分が一番かわいくて、かわいそうだと思っている人たちの殴り合いのけんか。だから、「善意は、悪意よりも恐ろしい。」

話の構成としては、最後まで謎が解決しないことも多々あって、もやっとする終わり方ではあるので、そういうのが苦手な方には向かないかも。

ああ、こんな感情、自分も持っているな。と思いつつ、それを「共感」とも呼びたくない。そんな気持ちになる本でした。


結局、自分のユートピアはどこにあるのだろうか?

きれいなものを追い続け、いつまでも理想を追いかけ続ける陶芸家のすみれ。

都会の洗練された価値観こそ正としていたが、最終的には家族をユートピアとした光稀。

そんな2人を冷めた目で見つつも、本当は自分が一番ユートピアに焦がれ、田舎町から、しがらみから抜き出したいと願っている菜々子。

認められたい自己顕示欲や、憧れの的になりたい物差しの小ささや、自分自身の存在意義を求め続ける3人の女性のいずれかの感情には、誰しもが身に覚えがある気持ちになるのではないだろうか。


おわり。





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