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月村了衛『コルトM1847羽衣』 伝奇×ガンアクション! 激突する哀しく熱いアウトローたち 

 現代を舞台とした骨太のアクションを中心に描いてきた作者ですが、時代小説の分野においても幾つものユニークな作品を発表しています。その一つである本作は、コルトM1847を背負った女渡世人が、失踪した想い人を追って渡った佐渡で謎の邪教集団と対決するという、一大伝奇アクションです。


あらすじ

 時は一八五二年、将来を誓い合った想い人・青峰信三郎を探して佐渡に現れた女渡世人・羽衣お炎。数年前に突如姿を消し、いかなる理由か、無宿人の権三の名で金山送りになったという信三郎を追ってきたお炎は、佐渡に上陸して早々、謎の一団の襲撃を受けることになります。

 多勢に無勢、窮地に陥ったかに見えるお炎ですが――そこで彼女が取り出したのは、最新式のシングルアクションリボルバー・コルトM1847ウォーカ。かつて信三郎を探す旅の途中、長崎の豪商・四海屋の命を救ったお炎は、アメリカ渡りのガンマンの下で腕を磨き、四海屋から譲られたコルトM1847を背に、佐渡に乗り込んできたのです。

 コルトM1847の威力で敵を薙ぎ払い、途中で出会った元軽業師で手裏剣の達人・おみんを乾分にして、探索を続けるお炎。そして二人は、佐渡の人々の間で「オドロ様」なる謎の存在が崇められているのを知ることになります。
 金山で働く者たちの間から始まったというオドロ様信仰――今では奉行所も手を出せぬほどの力を持つその正体を探る二人に迫る無数の敵を前に弾も尽き、窮地に陥ったお炎たち。そんな彼女たちを救ったのは、駆けつけた四海屋の援軍――表に出せない荒事を扱う「玄人」衆でした。

 かくておみんや玄人衆の助けで、金山の暗闇に潜むオドロ様とその宮司を名乗る蝉麻呂、そして佐渡で暗躍する薩摩武士たちを相手に死闘を繰り広げるお炎。はたして信三郎の行方は。オドロ様が起こすという奇跡の正体は。そしてオドロ様と蝉麻呂、そして薩摩武士たちは佐渡で何を企んでいるのか。戦いに次ぐ戦いの末に驚くべき陰謀の正体を知ったお炎たちは、企てを阻むために決戦を挑むことに……

読みどころ

 本作以前に作者が「コルト」をタイトルに冠した、ノワール時代小説「コルトM1851残月」。そこから考えれば同様の趣向かと思いきや、どうしてどうして、本作においては直球ど真ん中の時代伝奇活劇が展開することになります。

 姿を消した恋人、鉱山で進む陰謀、謎の邪教集団、大藩の暗躍――本作を構成するこれらは、正直なところ、オールドファッションな時代伝奇ものの題材といってもよいかもしれません。(特にオドロ様の「力」の源など)
 しかし本作はそこに銃を――それも古色蒼然とした短筒などではなく、一尺三寸もの長さの最新式のコルトを――手にした女渡世人、しかも天女の二つ名の通り、白の被衣をトレードマークとした不屈の女を投入することで、これまでにないアクションを描き、見事にアップデートされた時代伝奇小説を描いてみせたといえます。

 しかし本作で注目すべきは、敵も味方も、中心となるのが武士ではない――いやそれ以前に、この世の裏街道を行く人々であることでしょう。

 渡世人のお炎はもちろんのこと、彼女の頼もしい助っ人となる玄人衆も表の社会では生きられない者たち――人別もなく、金であらゆる仕事を請け負うアウトロー。一方、そんな彼女たちの敵となるオドロ様の信者たちの中心は、金山に送り込まれた無宿者――まさしく日の当たらない場所で生きる者たちです。

 そんなアウトロー同士の戦いの真っ只中を、お炎は何のために突き進むのか――それはもちろん、世のため人のためなどという「ありきたりな」理由であろうはずがありません。そしてその理由は、敵の中心人物である蝉麻呂、さらにはオドロ様がそれぞれ終盤に明かす痛切な想いとも重なり合うものなのです。

 本作はある意味同族同士の戦いを描くことによって、正道から外れざるを得なかった者たちの悲壮な姿と、その中でも決して捨てられない意地と意地のぶつかり合いを描きます。
 古典的な題材を派手なガンアクションで彩りつつ、その中に浮かび上がる哀しくも熱いアウトローたちの姿を描く――作者ならではの快作というべきでしょうか。


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