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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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#夏

恋こがれて

 窓の向こうの、雲ひとつない水色の景色を見ていると、いてもたってもいられなかった。おろしたてのシャツと、一年ぶりに履く黒いスニーカー。外へ出ると、街はすっかり夏だった。
 少し歩けば汗がにじむような、ひりつく太陽が懐かしくて嬉しくなる。白く照りつけられた、コントラストの強い真昼の風景。道端のフェンスに絡まった植物の葉陰で、一匹の蜂が羽を休めている。

 夏という舞台の上では、普段歩いている近所の道

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夏がくるぞ

 また夏がくる。そんな当たり前のことが私にはどうしようもないくらい嬉しくて、むやみに窓をあけて、風の匂いをかいだりして、今日も一日が過ぎてゆく。

 だけど、夏がきたからって、何をしたいわけでもない。もちろん海へ行ったり、花火をしたり、お祭りの熱気につつまれたりするような、ありきたりな煌めきに未練がないわけではないし、久しぶりに帰った田舎の空港の静けさに驚いたり、通りのない海沿いの道で車を飛ばした

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夕涼み

夕涼み

はめ殺しの窓には、甘いカクテル色の空が広がっている。庭のニームの木が揺れている。蝉の声は少し遠くなった。私はベッドに寝そべって、眼鏡を外す。風鈴の音が聴こえる。一昨年の夏祭りで買ったものだ。か細くて低い音が、まるであの娘の声みたいで心地よい。

いつのまにか夏がきた。夏がきたっていうのに、私はこの部屋に籠ったまま。誰とも会わずに、誰とも話さずに、時折街に出ても、幽霊のようにさまよい歩くだけ。あの頃

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瓶の底

瓶の底

 水色でいっぱいだった私の夏は、つまるところ炭酸が抜けきらないうちに飲み干されてしまったわけだ。鮮烈な時間ほどゆるやかに過ぎるというけれど、それでも時は止まりはしない。
 六月、七月、八月と、夏のめいっぱい濃厚な部分を味わいつくして、結末はいつも日暮れの色だ。後悔しているというんじゃないけれど、グッドバイは誰だって淋しいものさ。来年もまたくるねって、そんな保証はどこにもないし。
 駆け抜けてしまえ

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だってしちがつだもの

七月の朝、私は洗面台で顔を洗う
つめたい水道水で寝癖をととのえ
ミントの味の歯みがきをする
ラヂオからは70's
今日は洗濯日和です
ひと口の炭酸水を飲んだら出発だ
いつもの道を歩きながら
八百屋の店先に並ぶスイカのさえた色
クリーニング屋には涼しげな青ののぼり
ストライプがせわしく揺れて
手を挙げた幼稚園児の
黄色い帽子がまぶしくて
やっぱり夏だ。七月だ。
昨日までとまったくちがう
それこそスイ

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