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テレビマンから習う「読まれる記事」を作る技術 - 『1秒でつかむ』 高橋弘樹 (読書ログ)

「読まれる記事」には何が必要でしょう?
興味が惹かれる内容 ✖️ 伝わりやすい文章力。何を、どう書くか。
毎月一度発信している文章術は、「どう書くか」にあたる部分です。

個々の「どう書くか」の手前には、どのように伝えるか。
企画・観点のステップがあります。
読まれる記事を作る上で、企画はより根本にある要素です。

マス(大衆)の関心を集めることが重要なコンテンツ制作。その最大手であるテレビ業界で、チャレンジャーながらさまざまなジャイアント・キリングを起こしてきた稀代の名プロデューサーがいます。
元・テレビ東京ディレクター。現・ABEMA, ReHacQ CEO。
高橋弘樹さん。

高橋さんが、自らの部下を育てるため。全てを出して書いたというコンテンツ作成マニュアル。その骨子を以下にまとめます。


第1章:企画術 1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」の作り方

「おもしろい!」と思ってもらうには、次のことをする。いままでにないものを、作る。これに尽きる。
すでにさまざまな発明がある中で、いままでにないを作るには、2つの戦略がある。

  1. すでにあるジャンルをより豪華にする

  2. 難しいと分かりながら、常に新しいものを作り続ける

戦略1は、リーディングカンパニーしか成し得ない。チャレンジャーは、不可能な戦略2の方法で挑み続けるしかない。その挑戦の日々で、筆者は次の手法でトライを続けた。「すでにあるジャンルの、もっとも根本的な価値の否定を企てる」。


『家、着いて行ってイイですか?』は、長期的な取材を前提としたドキュメンタリー業界において、即興を武器に作り上げた。いきなり街で声をかけ、ありのままのドラマを待つところに、いままでにない面白さがある。
当たり前と受け入れられている基本構造やルールを発見すること。それを否定できたとき、新奇性のインパクトは大きくなる。


『家、着いて行ってイイですか?』では、ナレーションやBGMを、敢えて無くした。それも否定の効果を狙ってのことだ。ただし、引き算は、引くことによるメリットがデメリットを上回る場合にのみ行うべき。『家、着いて行ってイイですか?』では、深夜独自の緊迫感・唯一のエンディングを浮かび上がらせる効果・圧倒的なリアリティの演出に繋がることを見越し、左記の選択を行った。


新しさを探すには、ネガティブの魅力を考えることもいい。「ウザい」「嫌い」「ダルい」「ダサい」の魅力を引き出すことを考えてみる。そんな発想から生まれたのが、『吉木りさに怒られたい』。普通はないブチ切れの新鮮さをベースに、過剰な演出によるおもしろさ・プラスとマイナスの落差の魅力の設定から、人気を博した。
ネガテイブなものでも、組み合わせ・切り取り方・ストーリー・機能次第で、ポジティブに変えられる。


ヒットが生まれると定石が作られる。そしてそれを超えるには、定石のバランスを崩す必要がある。『家、着いて行ってイイですか?』では、敢えてロケ費用に全ツッパして、タレント出演費・スタジオ予算・音楽などを捨てた。偏りを、膨大なディレクター(70人の取材陣)に充てることによって、ドラマと見紛う即興のドキュメンタリーを制作することができた。


良いものを確実に作るには、人の「1.5倍だけ」頑張ることが早い。効率良く高アウトプットを出すには、天才である・誰かの才能を搾取する・作り手でなくマネージャーになる、のいずれかしかない。自分で手を動かして何かを作り、満足を得るなら努力するしかない。
1.5倍の努力は、細分化された何かの・ちょっとした工夫で達成できるものでいい。全てで1.5倍頑張る必要はない。
筆者は、脚本出しを1.5倍行った。それだけ人より時間をかければ、アウトプットは圧倒的に深くなる。


アウトプットを高めるには、経験の広さと深さを追求する必要がある。手っ取り早くは、「全部一人で最初から最後までやってみること」。それを続けることは不可能だが、全体を理解してみることで、仕事の割り振りにも、どのスキルがどう相乗効果を生み出せるのか、想像を深められる。


アウトプットを高める工夫の2つ目には、ルーティンワークをスキルとして深掘りすることもある。誰もがやりたがらない、ルーティンワークに本気を出すことのメリットは2つ。現在の業務に絶対必要だから便利・競争相手が少ないから勝ちやすい。徹底的に細部を突き詰めていく作業の末に、全体としてのクオリティが現れる。
筆者も、毎週40時間、0.5秒のカット割りを繰り返し行うことで、次の真理に到達した。
編集の本質とは「ストーリー作り」に他ならない
次章では、人を惹きつけるためのストーリー作りのやり方を説明していく。

第2章:取材術 コンテンツの魅力を引き出すためになぜ「ストーリー」が必要なのか?

「物事の見えていない魅力を引き出す技術」。
それがストーリー作り。ストーリー無くしてコンテンツとして成立するのは、エロやグルメなど、人間の本能に訴えかけるジャンルだけ。
事実は、ストーリーになってはじめて共感や問題意識を生み出せる。視聴者の心に入っていける。


ストーリー作りの原則として、次のことを理解しておく必要がある。
人の心は見えない・作り手と受け手には情報格差がある・そもそも受け手はストーリーなんぞ知ろうと思っていない
見えない心をどのように伝えるか?人の心は、外に現れる情報によってのみ理解される。まずは外に現れる情報に気付き、それが「なぜ?」そうであるかを言語化し、それを誰でも理解できるように可視化するステップを踏む必要がある。
まずは対象に気づくこと。なぜこの時間にそこにいるのか・なぜキッチリとした服装なのか・なぜため息をついているのか・なぜカツ丼を食べているのか。細かなところに気づきを持つようにすることから、ストーリー作りは始まる。


気付き(取材)を通じて分かるのは、自分自身の思想や興味の偏りだ。なぜ自分は服装に目が行ったのか・なぜ自分は相手の選ぶメニューを面白いと思うのか。自分自身への認識を明確にしておかないと、自分が「興味深い」と思ったストーリーの魅力を、うまく受け手に伝えることができない。「自分自身はなぜそう思ったか?」。それを癖付けして自分への取材も行う。


「とにかくディテールこそ、雄弁に対象の魅力を引き出す」。

  1. 夜に、そばを食べていた男

  2. 深夜1時に、10歳年上の彼女と、新橋で富士そばを食べていた、りそな銀行に勤める30代前半のサラリーマン

どちらの語りに心が動くだろう?
人は具体性により興味を持てる。過去の自分の体験と比べて・過去にあった感情が動かされたストーリーと比べて・もし自分が体験したらと想像を働かせて、感情は動いていく。左記のいずれかにも引っ掛かりを持ってもらえなければ、人は興味を持たない。
具体性をより具体的に言えば、固有名詞と数字。そのディティールにこだわる。

第3章:伝え方① より多くの人にストーリーの魅力を伝える技術

具体性を持たせた後、それをどうストーリーに組み立てていくか?
キモは、「受け手の心の動き」を徹底的に追い続けること。
受け手が分からなくなっていないか?めんどくさいと思っていないか?不快に思っていないか?興味を持てないものになっていないか?
受け手の心をつぶさに追い、つかみ続ける方法を以下に述べる。


前提として、受け手はストレスを味わいに来ていない。楽しむためにコンテンツを訪れる。それプラスで学べたり、感情が揺さぶられれば、より魅力的というだけの話。「ストレスになる表現をなるべく放置しない」と強く意識することで、ストーリーをわかりやすくできる


ストーリーにおける、めんどくさいとは、「必要のないところで、理解するために、頭でなんらかの作業をさせること」。めんどくささを極力避けたい「消極的な”マス”」を如何に取り込めるかが、マーケットを拡大させることの本質であるはずだ。
具体的には、計算させない・混乱させない(同じ表現は同じ言葉で)・補助線を引かせない(前提知識の要求や察してもらう演出を削る)・思い出すのに苦労させない(後で使うものやキャラクターにはインパクトを添えて思い出しやすくしておく)。

第4章:伝え方② 1秒も離さず常に興味を持ってもらう12の方法

興味を持っていないものに、どうやって興味を持ってもらうか?
すぐに人が離れていけるテレビ番組は、常にこの課題と戦い続けてきた。その世界で磨かれた、「アタマで一気に興味を持ってもらう技術(冒頭)」「興味を持続させる技術(持続)」「最後まで見た結果、満足してもらう技術(ラスト)」「心に突き刺さる『深さ』を作る技術(連続性)」を順に紹介していく。

冒頭編

まず、受け手には「見たい」と思ってもらうことが必要。それは「設定」。

  1. 人の家を見せてもらう番組   よりも

  2. 終電を逃した人の家を、いますぐ見せてもらう番組

の方が興味が惹かれるだろう。
設定には大きく、興味が惹かれるシチュエーション・興味が惹かれるキャラクター・興味が惹かれる行動パターン(やってみたい・みてみたい)、に分けられる。


結論から見せる、というのも手法の一つ。
駆け出しの編集者だと、時間軸通りに体験を描きたくなるが、最適な順番を探せば、それがズレることもある。クライマックスから描くことで、何があったかを知りたい欲求が生まれてくることもある。


単純接触効果が示すように、平均的で「安心できること」は、魅力の大きな構成要素である。
ただし、人はその真逆の欲求「好奇心」も備えている。
「見たことあるな」と「見たことない!」の両方を刺激させることを狙いつつ、全体を安心感と刺激のどこに位置付けるかを考えていく。この矛盾した欲求に、クリエイティビティの難しさ、職人技が求められる理由がある。


ストーリーに興味を持ってもらう上で、記憶は最高のスパイス。あるシーンから、受け手に何を思い出させるかを考えてみる。
記憶には、直接記憶の他に、間接的類推がある。単純に経験した人が多い記憶を狙う以外も、「失敗した経験」「愛情を持って怒られた経験」「好きな人にフラれた苦い思い出」など、間接的に記憶を蘇らせ得るシーンがある。どういうアイテムや場面を使って、どんな記憶を心に描かせるか。考えることが重要。

持続編

予想されるストーリーを「裏切る」。そして、裏切りはポジティブに、新しい発見を与える内容であることを意識する。
裏切りの作成には、作為的にストーリーをミスリードさせる方法があるが、毎回続けることは難しい。しかし、裏切りを作為で作るのではなく、偶然に起こさせる方法もある。コツは、偶然が生まれやすい設定を狙い(酔っ払いが多い場所など)・常にカメラを回し続けて(注意深く観察を続けて)・外面と内面の両面を尊重し、特に内面の魅力を真剣に描こうとすること。


面白さを持続させるには、面白くない要素・必要のないシーンを削ればよい。
あえて冗長さを入れるなら、次の効果を持たせたい場合だけ。それ以外は切る。

  • バックグラウンドの説明

  • ストーリー上の伏線や、ミスリードの説明

  • 時間経過の説明

  • 意図的に入れる、気持ちの整理や余韻のための間


振れ幅を大きくする。編集するからには、現実にない時空間の超越を設定できる。それが面白さを生む。巨大なものから小さいものへ、未来から過去へ、現実から夢へ、常識から非常識へ、高尚から下品へ。ダレてきそうな場合は、振り幅を大きく設定する。

ラスト編

結末で満足してもらうことはとても大切。なぜなら、個々の制作は連続性の中での一つのステップに過ぎないから。不満を残せば、次はない。
満足してもらうためのコツを記す。


結末で最高の気分・快感に浸ってもらうために、あえて直前はマイナスへと踏み込む。「結果・帰結」の感動を疑似体験してもらうためには、「原因」も疑似体験してもらう必要がある。結論を同じ感度で味わってもらうために逆算して、原因となるストーリーに没入してもらうように組み立てる。
結論の擬似共有、のための原因の擬似共有。この構図に至らせるために、起承転結や序破急を利用する。


どんなことでも、なぜを繰り返せば、誰しもが持っている普遍的な感情に行き当たる(究極は、「死への恐怖」か「自己複製への渇望」)。ネガティブなものでも、その内側にある魅力を引き出すには、なぜを繰り返す。
人の他者への評価は、低いものから高いものへ、[攻撃・拒絶・理解・許容・共感・応援・同化]というスペクトルを取る。そうした価値観の変革こそが、裏切り力の本質。
低いところから高いところへ。視聴者の心や期待を裏切れないかを考えてみる。



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いかがでしょうか?
読んでいて超・面白かったです。
自分も発信を考える上で、視野が広がっていく感覚がありました。

本著では、さらに最終章:バズらせる方法が続きます。
気になる方はぜひご自身でお手にとりくださいませ。
ボリューム満点で、あえて削った情報や、伝えられない情感もたくさんあります。


これからも週に1回、世界を広げるための記事を書いていきます。
過去のライティング研究シリーズはこちらに。
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どうぞ、また次回!


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