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読書メモ|「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実|山口 慎太郎

 1950年の50歳時未婚率はわずか1.5%ですから、当時はほとんどすべての人が結婚していました。
 現代では、男性の5人に1人、女性の10人に1人は50歳時点で未婚ですから、非婚化が進んでいると言っていいでしょう。
 男女に大きな差があるのは、男性の方が再婚する人が多いためです。
 男性は、相手には結婚歴がなく、自分より若い女性を好む傾向がある一方、女性は相手の結婚歴や年齢をそれほど気にしない
 自己申告のマッチングサイトはウソだらけ?あってすぐバレるような嘘をつくことはないようですが、すぐわからないこと、例えば「年収1000万円」を自称するひとの数は、実際の4倍にも上るそうです。
 容姿を点数化し、美男美女ほど収入が高くなる傾向を明らかにした研究がありますが、美容整形をして高収入を得るのはかなり難しいようです。高収入を得られるほどの美男美女というのはほんの一握りなのですが、美容整形によってその域まで達するのは難しいというのが理由だそうです。
 ほとんどの人にとって「当たり前」だと感じるような「当たり前」なことでもデータできちんと確認しておくことはとても重要です。「当たり前」と思っていたことがデータで確認できない。つまり、実は「当たり前」ではなかったというのは社会科学の研究者ならば何度も体験しています。事実関係を正しく踏まえるのが正しい理解への第一歩につながるのです。
 子育てによって失われてしまったであろう収入こそが、子育ての暗黙の費用なのです。暗黙の費用ゆえ、気が付きにくいかもしれませんが、生涯所得で考えると、子育ての機会費用は、学費などの金銭的支出に負けない非常に大きなものなのです。
 子供によって自分のキャリアが犠牲になるのは無視できる問題ではありません。一人前になる前に子供を持つことは仕事を失うことにつながりかねません。仕事と両立させるために時期を遅らせようと考える女性が増えてきたことが初婚年齢の上昇にあらわれているでしょう。
 もう1つ重要なのは、「分業の利益」が小さくなってきていることです。夫の給料が妻よりも高く、妻の家事育児能力が高い場合は、メリットが大きかったのですが、1985年に女性は男性の60%の賃金だったものが、2018年には73%まで上昇し、(賃金の)差が小さくなってきています。家事育児能力にかんしては差が小さくなってきたとは言い難いかもしれませんが、サービス業の発達によって自分たちでする家事の総量が少なくなってきています。
 戦前はお見合い結婚が70%近かったそうですが、2014年には5%まで減少し、恋愛結婚は戦前の15%以下から88%に上がっています。
 異性の多い職場で働いているひとは離婚しやすい。職場の同僚がすべて異性である職場で働いているひとは、異性が全くいない職場で働いてるひとに比べて離婚する確率がなんと40%も高いそうです。職場でより魅力的な相手と出会って、そのひと(同僚)と再婚するために離婚しているようです。
 学歴(下の図)に限らず、さまざまな観点からみても似たもの同士の結婚はありふれているため、自然なものとして受け止められがちですが、なぜ似たもの同士で結婚するのでしょうか。
 ①学校や職場、友人などを介して知り合うため、似たような育ち方をして似たような仕事についているひとと出会いがちなため
 ②-1 自分の好みに従って選んだ場合似たもの同士になっている
 ②-2 魅力的だと思われているひとは、多くのひとからアプローチをうけるため、その中で最も魅力的なひととカップルができます。こうして魅力的な順にカップルが成立していく結果、成立したカップルの魅力の度合いが似通ってくる
 

第1章 結婚の経済学


夫婦間の学歴の組み合わせ

 低体重で生まれると中年期以降に糖尿病や心臓病を発症しやすくなるそうです。悪影響は、健康面にとどまらず、幼少期の問題行動が多く、学力面で問題を抱え、成人後も所得が低くなりがちであることが報告されています。
 低体重の原因の1つにお母さんの喫煙や飲酒があることは広く知られていますが、それを知っていながらも喫煙や飲酒をしてしまうお母さんが子供の発達に理想的な子育てをしてくれるとは考えにくいでしょう。したがって、原因が低体重にあるのか、おかあさんの子育ての仕方にあるのか明確な区別がつけられません。
 しかし、ノルウェーで一卵性双生児で研究した分析の結果は、出生体重が10%増えると、20歳時点でのIQは0.06高く、高校卒業率は1%上がり、所得も1%増えるそうです。(数字は小さいが、遺伝子も両親も環境も同じことを考慮したら無視できない差)
 帝王切開の件数は世界中で増え続けています。その背景には、医療者に対する訴訟リスクがあるようです。訴訟リスクをできるだけ小さくするために、少しでも不安があれば帝王切開を選ぶ医療者の立場もわかります。
 また、通常分娩より帝王切開のほうが高い報酬が支払われます。こうした診療報酬体系のもとでは、医療者が帝王切開を選ぶ経済的なインセンティブが組み込まれているのです。(略)少子化が進み、出産件数が減ることに伴う収入源を補うため、(アメリカの研究では)報酬が高い帝王切開を選ぶようになったと報告されています。
(ベラルーシの研究で)生後3ヶ月時点での完全母乳育児の割合は、(医師、看護師、助産師への)研修を行なった病院で出産したお母さんは43%、行わなかった病院で出産したお母さんはわずか6%でした。6ヶ月時点では研修ありは8%、なしは1%と、研修を行うことで母乳育児が大幅に増えています。子供の健康への影響については、生後1年間の乳児で、研修ありの病院で生まれた子供については、感染性胃腸炎とアトピー性湿疹にかかる割合が減っていました。さらに乳幼児突然死症候群の発症率も減少しています。
 母乳の成分が作用しているのか、母子の関わり方が影響しているのか、メカニズムはよくわかっていませんが、母乳育児は子供の知能面の発達に寄与したという結果が得られました。しかし、効果は長くは続かず、16歳時点での知能発達に有益であるという結果は得られませんでした。

第2章 赤ちゃんの経済学

 各国(ドイツ、オーストリア、カナダ、スウェーデン、デンマーク)の政策評価を詳しく検討してみた結果わかったのは、子供にとって育つ環境はとても重要であるけれど、育児をするのは必ずしもお母さんである必要はない(略)きちんと育児のための訓練を受けた保育士さんであれば、子供をすこやかに育てることができるようです。
 第一に(産後)正社員の仕事をみつけるのはかなり難しいということです。例えばある年に主婦であった人が、翌年非正社員の仕事につく確率は10%ほどですが、これが正社員になるとわずか1%にとどまります。一度正社員の職に就いたら、在職中に次の仕事を見つけるの出のない限り、正社員の仕事を辞めないことが女性のキャリアにとって重要になります。これは育休による雇用保障が重要であることを示唆しています。

第3章 育休の経済学

 OECDとEUに加盟している41カ国中、日本の育児休業制度(育休の週数✖️給付金額で算出)は、男性で1位の評価を得ています。(なお、同報告書は「実際に取得する父親は非常に少ない」と日本の特異な現況も指摘しています。)
 1993年の育休改革直後に育休をとったのは一部の勇気あるお父さんたちでした。こうした勇気あるお父さんが、同僚あるいは兄弟にいた場合、育休取得率が11-15%ポイントも上昇したようです。さらに興味深いことに、会社の上司が育休をとったときの部下に与える影響は、同僚同士の影響よりも2.5倍も強いことがわかりました。
(アイスランドの研究では)育休制度変更後に子供が生まれた夫婦は(育休制度変更直前と比べて)離婚率が33%から29%に下がっています。お父さんの育休取得が夫婦関係の安定につながったことを示しています。

第4章 イクメンの経済学

ペリー就学前プロジェクトは、3-4歳の低所得の黒人家庭の子供達を対象に、40歳まで長期追跡を行っています。この結果、知能面に対する効果は8歳時点でほぼ消えてしまいましたが、社会情緒的能力の改善は長期にわたり持続した。周囲の人々との間で軋轢を生じさせる問題行動を減らせるようになったことが重要だったのです。教育によって得をするのは、本人だけでなく、社会全体であることが明らかになったと言えます。これは社会全体が得をするのだから、社会全体が費用を負担すべきだという議論が成り立ちます。
 乳幼児の発達には、大人と一対一で触れ合うことが重要です。

第5章 保育園の経済学
子供の発達は母親の学歴によって大きく異なる
お母さんのしつけの質や幸福度は学歴により異なる

 離婚法改革後、(女性の)自殺を10%以上も減らしていることがわかりました。男性の自殺率への影響は見られませんでした。(離婚しやすくなると女性の自殺が大幅に減る
 小さい子供がいるお母さんは、法制度が変わったとしても、なかなか離婚に踏み切れず夫からの暴力から逃れることが難しいのです。また、妻の学歴が低い場合は、夫に経済的に依存しがちなため離婚が難しいようです。
 親の離婚を経験した子供はさまざまな困難に直面していますが、親の離婚が引き起こしたという因果関係ではなく、そもそも恵まれない家庭で育ったこと自体が原因である可能性があります。
 離婚が生み出す貧困が子供の発達に悪影響を及ぼしている
 母親の意見が強い家庭では、子供に対する支出が大きくなりやすい一方、父親の意見が強い家庭では、父親自身に対する支出が多く、子供に対する支出が軽んじられる傾向がみられる。したがって、父親の立場が家庭内で強くなることは、子供にとってプラスにならない可能性があります。
 離婚後共同親権の導入は、離婚後のお父さんの立場を強め、結果的に子どもへの支出を減らし、お母さんの就業を増やす方向に影響したようです。このようにお父さんの幸福にとって好ましいものだというのを裏付けるようなデータとして、アメリカで共同親権を導入した州では、男性の自殺率が9%も減少したようです。

第6章 離婚の経済学

せめて、ムスメたちはしあわせになって欲しいので読みました。「ムード」ではなく「事実」を知っておくことべきだと思って。

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