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創作SS『トイ・ストーリー』#シロクマ文芸部

りんご箱に眠っているのは、壊れた玩具たちだった。チクタク、チクタク、ボーン、ボーン、
(I was re-born!)

縫い物をしていたお婆さんがふと時計を見上げた。
『おや、もうこんな時間、夕飯の支度をしないとね』 
時計の針は、時間と時間を縫い合わせる。時は既に午後五時を告げていた。

お婆さんが台所に移動すると、りんご箱の玩具たちは、ひそひそ話しを始めるのだった。かすかに残留するりんごの香りをまといながら、影がゆっくりと傾いてゆく。お婆さんの繕いものは、玩具たちが布切れを集めて、可愛らしい玩具柄のパッチワークに仕立てられていった。お婆さんは夕食の支度にかかりっきりで、玩具たちの物音は届かない。チクチク、カタカタ、チクチク、カタカタ……

ちいさな木のおうちから、美味しそうなきのこのシチューの匂いが旅立ってゆく。食後のデザートは、送られてきたりんごを煮詰めて作ったアップルパイだ。りんごとシナモンの甘い香り。栗鼠りすは鼻をひくひくさせながら、せわしなく森の奥へ帰るところだ。空はだんだん暗くなって、一番星が光りだす。
 
お爺さんが森の仕事から帰宅した。
『おお、家の外にも、美味しそうな匂いが溶け出していたよ。』
『今夜はあなたの大好物ですよ』
『ありがとう。さあ、着替えてこよう』

お爺さんは着替えているときに、りんご箱の後に、綺麗なラッピングのプレゼントが置いてあるのを発見した。
(おお、これはきっとクリスマスプレゼントだな。気づいていないふりをしておこう)

お婆さんは夕食の片付けを済まして、縫い物を再開しようとした。しかし縫い物は、どこにも見つからない。そしてやはりりんご箱の後に、綺麗なラッピングのプレゼントを発見した。
(あら、あの人ったら、いつのまに。ふふふ、クリスマスの楽しみに取っておきましょう)

りんご箱の玩具たちは、また眠りにつく。
『お爺さん、お婆さん、いつもありがとう』

ゆたかな森の夜は、おだやかに深まってゆく。

ホーホー、梟が鳴いている。


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、ゆかりさん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&story:未来の味蕾

シロクマ文芸部初参加です。
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2023.10.20  未来の味蕾

#シロクマ文芸部
#ショートショート

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