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70.メイキング・オブ・けしからん(後編)

チームつくばタイトル

弘山さんの誕生日は10月12日。
確かに、wikipediaにもそう書いてあった。

"来年の予選会はちょうど自分の誕生日なんです"

でも、今年の箱根駅伝の予選会は10月26日…

当時インタビューにこう答えた弘山さんの認識は間違っていない。第96回箱根駅伝予選会の日程は、当初おそらく10月12日だったのだ。
ところが、令和の改元で即位の礼が10月22日に行われることになり、その関係で、日程が2週間後ろ倒しになった。
「予選会=誕生日」と思い込み、誕生日を日にちで覚えていなかった、私の完全な凡ミスだ。
バカバカバカ!
誕生日から2週間も経った、予選会の日にノコノコ持って行くなんてタイミング外しすぎだし、予選会突破してたらいいけど、そうでなかったら…いたたまれなさすぎる(泣)!!!

今、気が付いてよかった。keikaさんのファインプレイだ。
keikaさんが急いで描いてくださることになった。
絵を渡すための、別の方策を考えなければ…

弘山さんを激励したいというのはもちろんだけれど、考えてみればチームのモチベーションアップにつなげたいと思って企んだこと。
そうだ、学生さんたちに渡し方を考えてもらおう。
何か競技以外のことで、チームメイトの間でワクワクできる話題があったほうがいいかも。(という名目で、早々に自分で考えるのを放棄)

適任なのは、いたずら好きに違いない児玉くんだ。
けれど、児玉くんにもお誕生日サプライズを準備していたから、彼に直接相談はできない。
しまった…!ミイラ取りがミイラになったのは自分か!!!

必死に考えた末、駅伝主将の大土手くんに頼ることにした。
主将就任後に彼が書いたクラファンレポートには、彼の直球な性格がありありとにじみ出ていた。目的のために、寄り道をせず最短距離で突っ走る。今の駅伝チームに絶対必要なリーダー。けれど、人生には遊びがないと途中で息切れするものだ。
競技とは全然関係のない、この「けしからん」企画を、大土手くんからチームメイトに話して相談してもらうことに、何か意義があるような気がした。
彼にこの絵を託そう。

相馬くんを通じて大土手くんに連絡を付けてもらい、こう伝えた。

『10月10日頃keikaさんから私の手元に絵が届くので、そちらに直接お持ちします。大土手主将から弘山さんに渡してほしい。趣向はみなさんにお任せします。』

しばらくして、大土手くんから部内壮行式の後に渡したい、という連絡がきた。そして、作戦内容は私もkeikaさんも知らないまま、10月15日にけしからん大作戦が決行されたのだった。


笑いさざめきながら円陣が解散したあと、山田コーチが学生さんたちに呼びかけた。
「Tシャツ届いたので、明日授業空いてる人、詰めるの手伝って~。」
「1限空いてる人~」「はーい」「2限~」「はーい」…

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そう、クラウドファンディング支援者のもとに届いたTシャツは、学生さんたち自らが梱包したものなのです。

私は弘山さんに改めてご挨拶をし、勝手に似顔絵を制作した非礼を詫びた。
笑って寛大にお許しいただけてよかった。何より、みんなの笑顔が見られて本当に嬉しかった。
弘山さんが、Tシャツ梱包の段取りでガヤガヤしている学生さんたちを眺めながら言った。
「そうだ、Tシャツようやくできたんです。せっかくなんで、今日持ってってくださいよ。」
「えぇ!わ、私だけ先にいただくわけにはいきません(汗)。ほかの人と同じように送っていただいて大丈夫です!」
「いえ、持ってってもらえば、送料がかかりませんから!」

…確かにそうだけど…
箱根駅伝で5区を走った翌日、暇だからと補助員してた相馬くんといい、

筑波大学、学生さんも指導者さんも、みな貧乏性すぎです!

*****

時刻は17時を回り、競技場に照明がついた。
プレイングマネージャーの上迫くんと、予選会に出場する選手たちが集まって、何か打ち合わせをはじめた。
前後2列に並び、その前で上迫くんが携帯を構えている。掛け声がかかり、ガッツポーズの後、上迫くんに向かって一斉に駆け出す。
SNSにあげるのだろうか。

彼らの後姿を見つめながら、祈った。

がんばれ。
箱根山からはるか遠い、筑波の嶺に舞い降りたセーラー戦士たち。

筑波嶺の 峯より落つる みなの川
恋ぞつもりて 淵となりぬる

いただいたTシャツが入っているかばんを抱いて、つくばエクスプレスに乗った。
つくば駅の地下ホームを出発した電車は、いつのまにか地上を走っていた。
電車の窓から、空を眺めていると、地平線近くの雲間から月が現れた。
10月15日は立待月(たちまちづき)。月は満ちて煌々と輝いている。

予選会まで10日余り。
彼らはもう、戦う準備ができている。
そして私は、自分にできることをやるだけだ。
妄想オタクの本気を見せてやる。

(使用画像および動画は著者撮影。関係者様の許可を得て掲載しています)

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