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66.僕らの「けしからん」大作戦(1)

チームつくばタイトル

2019年10月15日の午後4時前。
私は三たび、つくば駅上のバスターミナルにいた。
今回は一人だ。

『つくば駅着きました。このあと10分発のバスで競技場にむかうので半までには着きそうです』
バスを待ちながら、携帯のメッセンジャーアプリに打ち込んで送信する。
前回と同じように筑波大学中央行のバスに乗り、天久保池で降りた。

競技場に近づきすぎないよう、用具倉庫の裏手にある自動販売機付近でこっそり待機。
普通の大学キャンパスなら、明らかに学生ではない不審者がうろついていたら、速攻で警備員につまみ出されるだろう。しかし、ここは筑波大学である。私ごときの不審レベルでは不審者とは見なされないらしい。
到着したことを再びメッセンジャーで知らせる。

しばらく待っていると、メッセンジャーを送った相手が駆けてきた。
駅伝主将の大土手くんである。
少し緊張した面持ちだ。私もちょっぴり緊張しつつ挨拶した。

大土手くんと直接話すのは初めてである。
8月末の最初の訪問のとき、大土手くんはいなかったし(翌週から熊本合宿だったので、実家が九州の学生さんたちは、帰省したままだったようだ)、2回目の訪問は筑波大記録突破会で、学生さんに話しかけられる状況ではなかった。

私は手提げ袋を2つ持ってきていた。2つとも大土手くんに手渡す。
「こっちの方は児玉くんに渡してください。」
大土手くんはこくりと頷いて、どこかへ立ち去った。

大土手くんが見えなくなって5分ほど待ってから、今来たようなふりをして競技場へ向かう。
「こんにちは!」
ひな段のところにいた永山龍吉くんが、私に気づいて声をかけてくれた。さすがだ。
永山くんは、駅伝強豪校の八千代松陰高校でキャプテンを務めていた。陸上に限らず、強豪校と呼ばれる高校の体育会系部活動は礼節に厳しいところが多い。おそらく挨拶の習慣が身に染みついているのだろう。ニコニコッとした笑顔に思わずこちらも笑顔になる。
こんにちはー、と挨拶を返す。駅伝チームの他の学生さんも私に気づいて、挨拶をしてくれた。
トラックにいた山田コーチが私を見つけて、意味深な笑顔で挨拶してくださった。その表情からすると、全てをご存知のようだ。

学生さんたちが続々と競技場に集まってきていた。
中長距離ブロックの部員さんたちだけではない。短距離、混成、投擲、跳躍…

これから、箱根駅伝予選会の壮行会が始まるのである。
そしてもう一つの秘密のミッションも。

僕らの「けしからん」大作戦。

作戦内容は、私も知らない。

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