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67.僕らの「けしからん」大作戦(2)

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箱根駅伝予選会に出場する選手たちが、正面スタンドに向かって整列した。

(筑波大学陸上競技部では、整列するとき、学年順、五十音順に並ぶのが慣例なのかな)

オタクという種族は、どうでもいい些細なことが気になるものである。
気づいた理由は、駅伝主将の大土手くんがいちばん端にいなかったからだ。向かって右端に4年生の金丸逸樹くん、左端には1年生の小林竜也くんがいた。

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(当日の壮行式の様子。関係者様の許可を得て掲載しています)

【余談】このことを踏まえて、その後のマスコミ記事の写真をご覧いただくと、いつも几帳面に並んでいることに気づかれると思います(笑)

(あれ、12人しかいない…)

箱根駅伝予選会には、最大14人まで選手を登録できる。この日(10月15日)の午前中にエントリー手続きがあり、午後3時過ぎには出場選手の情報が公開されていた。
50音順に並んでいたから、欠席している2人が誰か、すぐにわかった。医学群の川瀬宙夢くんと、理工学群の猿橋拓己くんだ。17時前だったから、授業の関係で間に合わなかったのだろう。

陸上競技部の山下潤主将(当時4年・現ANA、東京五輪の200m走に出場、日本人選手3人の中では最高タイムでしたが、惜しくも予選敗退となりました)が最初に挨拶をし、プレイングマネージャーの上迫彬岳くんが後を引き継いで、選手紹介を始めた。

金丸くんから順に紹介され、一人ひとり予選会にあたっての抱負を述べていった。
私は少し離れたところから見学していたので、声は聴きとりにくかったが、本人たちの覚悟は、そのたたずまいからにじみ出ていた。
中でも、自称「チャラい」男、だまちゃんこと児玉朋大くんの神妙な面持ちが印象深かった。
ご本人は「チャラい」とおどけているけれど、SNSから感じられる彼のコミュニケーションセンスは抜群だ。機転が利いているし、何よりポジティブなのがいい。今回極秘に進めていた「けしからん」作戦も、彼の水面下での活躍がなければ実現しなかった。

そのお礼を兼ねて、箱根駅伝をきっかけに知り合った鉛筆画家、keikaさんと相談して彼にプレゼントを贈った。
大土手くんに2つ渡した手提げ袋の片方には、児玉くんの肖像画が入っていた。
10月1日が彼の誕生日だったこともあり、その日に合わせて、keikaさんが描いてくださったのだ。

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もとにした写真は、keikaさんが絵の制作過程でやりとりをしていた相馬くんに連絡を取り、こっそり入手してくれた。

肖像画(似顔絵)の制作は、原則としてモデル本人の許可が必要である。肖像権の問題があるからだ。
keikaさんは、それに加えてモデルさんの人となりや内面も含めて表現したい、というポリシーをお持ちで、必ずモデルさんのバックボーンを調べ、可能な限りご本人にもインタビューしてから描く。
けれど、児玉くんのこの絵は例外で、本人に内緒で制作した、けしからん作品なのだった。
だまちゃんの人物像は、私の勝手な妄想がkeikaさんに注入され、keikaさんの脳内で「みんなの愛されキャラ」になっていた。
(みんなって誰?とか、突っ込まないでください)

そんな経緯にもかかわらず、ご本人に喜んでいただけてホッとした。

…じゃなくて、予選会直前の緊迫した時期に、何やってんだこの妄想サポーター軍団(;'∀')

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壮行式はお開きとなり、長距離パート(駅伝チーム)の面々は用具倉庫付近に移動し始めた。
選手たちの傍らで式を見守っていた弘山さんが、こちらを振り返った。
スタンドにいた私を見つけて驚いている。
そりゃそうだ。壮行式を見に来る図々しい部外者なんてまずいない。
しかも当初は、前日14日の第6回筑波大競技会の後に開催予定だったのだ。

2019年の第6回筑波大競技会は、10月13~14日の2日間でスケジュールが組まれていたが、直前に日本列島を襲った台風19号の影響により、14日のみの開催になった。
再編されたタイムテーブルが21時頃までずれ込んだ関係で、壮行式は15日に日延べになった。私は13日にその連絡を大土手くんから受けて、急遽休みを取り直したのだ。
そんな慌ただしい事情もあったから、部外者がその場にいることに驚かないほうがおかしい。

私は、弘山さんに挨拶しながら「じつは大土手主将から壮行式の日程をききまして…」と説明したが、なんでわざわざ部内の壮行式を見に来たのか、弘山さんの頭の中はハテナ文字が飛び交っていたに違いない。

そう、壮行式見学は、本命じゃないのである。

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