26.Your dream & my dream & somebody's dream
今回のタイトルは、「Get Wild」の一節をもじってつけてみた。
「Get Wild」は、TVアニメ「シティーハンター」のエンディング曲としてリリースされた、TM NETWORKの代表曲である。
アニメのテーマソングと言えば、オープニング曲がメインテーマとして脳内再生されることが多い。
しかしシティーハンターに関しては、ほぼ100%の人が「Get Wild」を思い浮かべるだろう。
「シティーハンター」は、主人公の冴羽獠(さえば・りょう)がスイーパー(始末屋)として活躍するハードボイルドコメディだ。国内のみならず、海外でも熱烈なファンが多い。
なにしろ、あのジャッキー・チェンが、冴羽獠を好きすぎて「実写版シティーハンター」を作ってしまったほどである。
最近では、フランスの俳優さんがやはりシティーハンターを好きすぎるあまり、実写版映画をつくっている。
日本でも上映され、「登場人物が原作にそっくりすぎる」と、その並々ならぬオタク度合いが話題になった。
疾走感のあるメロディと、少し感傷的な歌詞との絶妙なコラボレーション。
「Get Wild」は「シティーハンター」の世界をリリカル(抒情的)に写し取った、不朽の名作である。
歌詞中に、こんなフレーズがある。
It's your dream or my dream or somebody's dream
(それは君の夢、または僕の夢、それとも誰かの夢)
私はこのフレーズこそが、「Get Wild」を不朽の名作たらしめていると思っている。
冴羽獠の孤高感を、歌詞中には「存在しない言葉」によって、浮彫りにしているからである。
それは、
our dream
(僕たちの夢)
彼の世界に「他人の夢」と「自分の夢(=美学と置き換えていい)」を叶える術は存在する。だが「our dream=誰かと一緒に目指す夢」を掴む術を、彼は知らない。
「シティーハンター」の作品世界は、この冴羽獠の孤高さの上に成り立っている。彼には幸せになってほしいけれど、幸せになった時点で「シティハンター」の物語は終わってしまう。
その微妙なバランスが、「シティハンター」の卓越した魅力の一つなのだ。
「our dream」という感覚を持つことは、現実世界でも非常に難しい。
だいたい、誰もがこの感覚を完璧に持てていたら、世の中のほとんどのトラブルは解消しているだろう。
「our dream」とは
It's your dream "and" my dream "and" somebody's dream
(それは君の夢であり、僕の夢であり、誰かの夢でもある)
である。
こうして分解してみると、一見、矛盾しているように見える。
「our dream」は、全員が同じ考え方をしなければならない、ということとは違う。
日本人にわかりやすい言葉で表現するとしたら、昔の近江商人の経営哲学「三方よし」が一番近い気がする。
自分、相手、そして社会。立場も得たい利益もバラバラである。その三者が満足するような道を探そうとすれば、自然と「私たち」という主語を冠することになる。
「私たち」を主語にして考えたとき、はじめて生まれる価値観がある。それが三方よしの精神である。
一人一人の夢を「our dream」として共有すること。
「our dream」の中には、当然「my dream」も「your dream」も含まれる。
陸上競技のことだけではない。川瀬くんのように「医者になりたい」という夢だって含まれる。
筑波大学が目指す理念の一つが、多様性から生まれる化学反応とシナジーである。
この多様性を極めたチームの駅伝主将として、池田くんが「my dream(それが何かはわからないけれど…)」を失わずやっていけるのか。
それは、この先に起こりうるいくつかの道筋を想像したときに、私が集めた情報から導き出された小さな不安材料だった。
取り越し苦労であることを願った。
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