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30.「もう少しの夢」の先へ

チームつくばタイトル

筑波大学の相馬崇史くんが、箱根路に12年振りの「桐の葉」をもたらした第95回箱根駅伝。この年の「金栗四三杯」(最優秀個人賞に相当する賞)は、東海大学の小松陽平さんが受賞している。
しかし、私の脳内妄想では、この年の【私的金栗四三杯】は上智大学の外山正一郎(そとやま・しょういちろう)さんである。

「いやいや、上智大学、箱根駅伝出てないじゃん?」

確かに選手として走ってはいない。
だが、外山さんは関東学生連合のメンバーに選抜され、事前に発表される区間エントリー表の9区に燦然とその名を残している(当日エントリー変更にて、明治学院大学の鈴木陸さんと交代)。

この年の関東学生連合は、おそらく箱根駅伝史上はじめて「選抜チームで偵察メンバー体制」を組んだ。
前回(第94回)、1区近藤、5区相馬の主力選手が当日欠場し、関東学生連合チームは事実上、勝負の土俵にあがれなかった。
その教訓を糧に、第95回の箱根駅伝では、区間エントリー発表時、4区に関東学院大学の関口大樹(現・新電元工業)さん、9区に上智大学の外山さんの名があった。
駅伝ファンならこの二人が、「当日変更を前提とした、アクシデントリスク回避のためのエントリー」であることにすぐ気づいたはずだ。

艱難辛苦を共にしてきたチームメイトならともかく(それでもわだかまりはあるかもしれない)、それぞれの大学の代表として選ばれた選手たちの間で、この作戦が実現したことは、奇跡ともいえる。

チームを牽引した原動力は、間違いなく、東大・近藤さんのカリスマと、初出場となった麗澤大学・山川監督の革新的な手腕である。
一方「心のアンカー」として他のメンバーに気を配り、関東学生連合を「チーム」として有らしめたのは、「4年生を二度経験している」最上級生の外山さんの優れたコミュニケーション能力と対人感覚ではないかと私は思っている。

上智大学のウェブメディア「アリオーゾ」に、関東学生連合に選出された当時の、外山さんの「肉声」が残されている。

上智大学は、陸上競技専用のグラウンドもないし、スポーツ推薦枠もない。大学陸上界においては、いわゆる「非強化校」に分類される大学だ。

注:この年の箱根駅伝予選会に上智大学のチーム記録は残っていない。ギリギリの10人で出場、うち一人が途中棄権し、完走者が9人しかいなかったためである。
■第95回 箱根駅伝予選会総合公式記録(関東学生陸上連盟) (PDF)
https://www.kgrr.org/event/2018/kgrr/95hakone-yosenkai/sougo.pdf

非強化校ならではの、箱根駅伝予選会の「出場資格」との闘い。
東大・近藤さんと一緒に練習することで変わっていった意識。
家族や周囲の人々、陸上部OBOGへの感謝と、その期待に応えられて「ホッとした」正直な気持ち。
ファンだという、乃木坂46メンバーとのほほえましい交流。
飄々と肩の力がぬけた口調の中に、静かに燃える情熱があった。

持ち記録的に、外山さんが正選手として箱根を走れる確率は限りなく低かった。けれど、彼は彼の持てる能力全てを注いで、後々まで語り継がれるであろう、伝説の「関東学生連合チーム」の要となった。

箱根駅伝当日、外山さんは鶴見中継所でサポートを担当している。
アンカー10区を走った米井翔也さん(当時亜細亜大学4年・現JR東日本)の出走前の様子を、朗らかに紹介している。

「笑えよ」

亜細亜大学の予選会成績は13位。11位で予選通過した上武大学とはわずか2分差だった。
亜細亜大学のエースとして、関東学生連合のキャプテンとして、10区アンカーとして。学生最後の大舞台に臨み、様々なものを背負っている彼に、この言葉を言える外山さんの「強さ」。

この一言に、どれだけの想いが詰まっているのだろう。
米井さんにかけた「笑えよ」は、そのまま外山さん自身へ向けた言葉でもあるのだ。

「上智大学初の箱根駅伝ランナー」になれなかった悔しさはあるに決まっている。「強いて言うなら10区を走りたい」とも語っていた。
しかし彼のTwitterは、これまで支えてくれた周囲への感謝、そして「寄せ集め」だけれど「かけがえのない」チームメイトと、今、この瞬間を共有する喜びに満ちていた。
アリオーゾのインタビューによると、乃木坂46メンバーの西野七瀬さんが歌う「もう少しの夢」が、当時の彼のモチベーションを支えていたようだ。

人を支え、またそのことが自分自身を支えるモチベーションにもなることを、身を持って知っている人間は尊い。

もう少しの夢の、その先へ。
彼の志は確実に、多くの駅伝ファンの心に届いたに違いない。

前年、私は自分の備忘録として「関東学生連合」関係のつぶやきを拾い、Twitterのモーメントにまとめていた。
だが第95回の箱根駅伝終了直後、外山さんのこともあり、私はほとんど謎の使命感に駆られていた。
出場している選手だけでなく、出場できなかった控えの選手や、関係者の方々にも、このときのことを思い出すよすがとしてもらえたら。

1月3日の復路終了後から、何かに憑かれたように関東学生連合に関係するつぶやきを拾い、モーメントに追加して、まとめ始めた。

そして、1月3日深夜。
私はモーメントの致命的な「欠陥」に気づく。

「拾ったハズの記事が消えてる…(絶望)」

>>31.伴走車【Togetter】発進!

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