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観察カニカマ女王様

 国民の叔母、と呼ばれる清水ミチコさんの「清水ミチコのシミチコチャンネル」最新ライブ。

 知らず知らず
 ため込んでいた
 組織委員会の元理事
 オリンピックへの道より早い
 賄賂の抜け道

2022年軽井沢ライブ『清水ミチコのシミチコチャンネル』より

 美空ひばりの「川の流れのように」を「金の流れのように」という替え歌に変えて、世相を斬りまくっている。

 清水ミチコさんんはステージの中央でいつものようにピアノに向かい、美空さんの声マネで歌っているだけなのだが、もちろん会場は大爆笑だ。

 2020年の春に開設された「シミチコチャンネル」は、感染症流行の煽りでライブが減ったという清水さんが開設したYouTubeチャンネル。
 ときおり観てニヤニヤ笑っている。
 最初は爆笑したが、何度も繰り返し観るとさすがにニヤニヤに落ち着く。
 ニヤニヤに落ち着くまでどんだけ観るんだよ!という話だ。
 だからといって面白くなくなるわけでは、もちろん、ない。
 何度も観てしまう。

 加藤登紀子さんの「百万本のバラ」の替え歌も面白かった。野沢直子さんとの対談や、ドリフのもしもシリーズのような「女優さんの電話の出方」、自分がモノマネをしている大御所(大竹しのぶさん、黒柳徹子さん)との対談、得意の桃井かおりさん、松任谷由実さん、東京都知事など政治家のモノマネシリーズ、発声から学ぶモノマネ講座もある。

 もう最高なのでぜひ観てほしい。
 
 この中の野沢さんとの対談の中でも紹介されている『カニカマ人生論』を読んだ。清水さんの自伝エッセイ本である。

 カニカマというのは、カニに似せたニセモノ、スケソウダラでできたカニで、まさにモノマネを表すのに秀逸なたとえだと思う。

 清水ミチコさんの生い立ちというのをこれまで知らなかったので、幼少期からのことが書いてあるこの本を、とても興味深く読んだ。
 
 その書き方が面白い。

 とにかく「人」。
 自分以外の人に焦点が当てられている。
 人を語りながら自分を語り、自分を語っているようで人を語っている絶妙な語り口がすごい。

 たとえば最初のタイトルが「フミちゃん」である。
 誰?フミちゃん。
 フミちゃんは清水さんの従兄さんである。
 次が「嘘つきえいざ」。
 だから誰よそれ。
 清水さんのおじいさんだ。
 その後、清水郁夫、しのぶちゃんとゆうちゃん、清水敬子、よっちゃん、清水治先生、とタイトルが続く。

 こんなふうに、自分の身近な人に焦点が当てられ、その人たちとの印象深いエピソードやその人から学んだことなどが語られていく。
 1分間に1回くらい笑っているうちに、清水さんの幼少期から故郷の高山を出るまで、それからの破竹の勢いのあるタレント人生のことが自然に頭に入ってしまうのだ。

 どこの塾講師だよ!どこの先生より教育がうまいよ!
 と野沢直子さん風に突っ込みたくなること請け合いだ。

 だいたい、笑いながら聞いた話ほど記憶に刻まれるものはない。

 清水ミチコさんの美智子が上皇后さまの美智子さんと同じ漢字だとか、子供のころからメモ魔だとか、本当は気が弱くて緊張しやすくすぐに諦めてしまうところがあったとか、とんでもないお爺ちゃんの血筋を色濃く受け継いだようだなとか、なかなか太っ腹で商売好きなお父さんをお持ちなんだなとか、お母さんは後妻さんだったのねとか、弟さんを自在に操っていたらしいなとか、もう、清水ミチコさん情報が脳内にあふれんばかりになる。

 よほど「人を使って人にものを伝えること」の上手な人だと感心するほかない。まさにモノマネの神髄をみた、という感じだ。

 そしてその観察眼の鋭さに圧倒される。

 さくらももこさんのエッセイなども、人のことを良く見て良く記憶しているなと驚くのであるが、清水さんは時々ギョッとする毒を吐いては自分で突っ込みつつ、惜しげもなくその観察眼を披露してくれる。その観察眼によって得られる「教訓」や、ところどころに心に沁みる「人生論」が入ってきて、全く飽きない。

 子育ては手を抜いたほうがいいよ、とか、人と比べてる時間もったいないよ、という励ましに満ちたメッセージに、「うん。明日も頑張る」という気持ちになれる。

 清水さんのライブ動画を観ているときと同じで「ずっとこれ、終わらないでくれないかな」と願うような面白さ。

 「モノマネ」というタイトルのエッセイにはこんな言葉があった。

モノマネ好きな私ですが、こうしてみると、実はモノマネしていない者などおらず、知らず知らずのうちに、こうして何かのモノマネを無意識にしてしまっているのではないか、と思えてきます。

視線を注ぐことは、思いやり、また愛にも似て、その対象を深く理解することができ、同時に自然に自分と重ねるのではないでしょうか。

今これを読んでいるあなたも、何かの、いや誰かの長年にわたるモノマネの歴史、蓄積の結果である、と言ってもいいのです。どんなに飲んでもその身体はワインでできているのではなく、無意識にやってきたモノマネでできているに違いありません。母の、父の、そして好きな誰かの。そこに似ているかどうか、などという反省や振り返りはいりません。自然発生的な、無意識のタマモノ。一番美しいモノマネ。

 清水さんは、自分の中から湧き出るものを表現したいわけではなく、モノマネをしたいわけでもなく、「本気でその人になりたい」のだと言う。
「こうしたら面白い」「もっと面白くしたい」という作為ではなく、「ピュアな気持ちでなりきっている」からこそ、人はそこに「面白さ」を見出すのかもしれない。

 正直、大好きな清水ミチコさんの本だし、もともと読もうとしていたから推薦本でラッキー、くらいな気持ちで読み始めたのだが、想像以上に笑ってばかり&深イイ話ばかりで、あっという間に読んでしまった。「あれ?ちょっと!もう終わり?」と、もったいない感に包まれている。

 そして清水さんが「個人が実感してきた言葉を享受できた時ほど心がアガることはない」という通り、人の生活や人生、生き様や言葉を良く見て良く聞き、それをその都度メモするという『ちむどんどん』の暢子のようなマメさで培ってきた珠玉の言葉の数々は、人生経験の中で得られた実感として清水さんの身に染み込み、それがにじみ出たような言葉となって、この本の中にちりばめられている。

「もっと観たい、もっと読みたい、もっと笑いたい、もう一回聞かせて」と、清水さんの幼馴染の兄弟「しのぶちゃんとゆうちゃん」みたいに思ってしまうのが、この『カニカマ人生論』。

 ことあるごとに人に勧めようと今、画策中だ。


End

***

 ところでこちらの使い方がよくわからない。

公開用POPと書いてあるのだが…

 これはどうやって使えばいいのだろうか。
 よくわからないままに、POPも作ってみた。

 ともあれ、まず最初のスタートは清水さん!
 年末のフェスは武道館で、出演者も超豪華!だそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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