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天皇制の矛盾と美少年戦士

ニューヨークに住んでいると、「日本のエンペラーはどんな人?」とか、よく聞かれます。他国から見れば、二千年以上も続く天皇家は神秘の憧れらしいです。

それにしても、日本の天皇制は世界に恥ずかしい時代遅れ。男系継承は明治時代からの制定にすぎないのに、既得権にしがみつきたい男性心理が哀しいです。政策としては、「優れたジェンダーの自分はスゴイ」と思いたい男性一般に大ウケ間違いなし。

女性天皇が今まで誰もいなかったなら、まだ筋が通るのに……。着物は洋服にさっさと替えた割に、いつまでも男系にこだわる矛盾。ジェンダー後進国ぶりを露呈しています。

戦国武将や神風特攻隊の時代なら、男尊女卑は道理かも。以前に日本で、本物の戦国時代の鎧兜の展示を見たことがあります。ガラスケース越しにも未だ残る気を感じて、思わず身震いしました。昔の男性は、背後の女性を守るためにどれほどの覚悟で戦に臨んだことか……。

しかも日本の場合、戦闘能力だけではなく、美学が問われます。平家物語の一節にあった美少年戦士の話は、父から聞いて記憶に残っています。

戦国の掟では、敵に呼び止められたら必ず応えて戦わなくてはいけないのです。とある強い武将が、勝敗のついた戦を終えて帰路につこうとしていました。

そこに、負けて引き上げていく敵方の戦士の馬が目にとまりました。思わず呼び止めて、後悔します。振り向いた戦士はまだ年若く、絶世の美形でした。

一瞬「このまま見逃そうか」とも思いましたが、それも却って失礼かと思い直し、馬上の一騎打ちとなります。力の差は如何ともし難く、美少年は果敢な戦いの末に果てました。

このような世界に生きた男性たちは、家で待つ女性たちからの優遇に値するでしょう。特攻隊の少年兵も同じです。

でも今は令和。日本の男性は決死の戦いどころか、簡単な力仕事すらしないのに……。ニューヨークの場合、女性のベビーカーが階段に差しかかれば、必ず近くの男性が走り寄って運んでくれます。メトロはボロい駅が多く、エレベーターやエスカレーターはほぼない状態。ですがこちらで子育てする女性たちは、「困ったことがない」と口を揃えます。

私は日本で子育てしましたが、当時はベビーカーは畳んで乗車する決まり。片手にベビーカー、片手に乳幼児を抱えての乗車です。

それでも、席を譲られたことはないし、階段で手助けなんてもちろん一度もありません。(迷惑そうな顔をされたことなら、何百回でもありますが……)

ニューヨークで子育てをした同い年の又従兄弟にこの話をしたら、驚いていました。

戦国時代に戻って「亭主元気で留守がいい」とまでは言いませんが、今の日本はおかしいと思います。終身雇用の時代だったら、まだわかります。夫に「誰のおかげで飯を食ってるんんだ」などとエラそうなことを言われても、聞き流しておけば生涯安泰なんですから。

でも今は、そういう時代じゃないです。よほどの例外を除いて、生涯安泰な男性などいません。なのに、既得権に乗っかっている男性は、裸の王様のよう。その象徴が、天皇制の男系ではないでしょうか。

問題は、それでも子育ては続くということ。一時帰国した時に、近所の遊歩道で通りがかりの若いママたちの会話が聞こえてきて、真っ暗な気持ちになりました。

昼ごろのことで、子どもを幼稚園にやっているママふたり連れの会話でした。
「息子に『ママの仕事はパパとボクのお世話をすることでしょ?』と言われて、何も言い返せなかった」と、一人のママ。

聞き手のママも、返事に詰まっていました。

これ、昭和の話ではないです。令和です。専業主婦は今や垂涎の的と言われますが……。蓋を開けたら、やっぱりこんなものなんでしょうか。この息子さんの成人後が怖いです。

私も娘が1歳半までは、夫のヘルプが一切ないリアル専業主婦だったのですが……。空いた時間は仕事に戻るための勉強に宛てていたので、「自分の今の仕事は何か」を考える余裕はありませんでした。

ただ、幼稚園児から召使い扱いされるような立場じゃないことだけはわかります。

それと、一つはっきりわかるのは、「育児は自分がやりたいことではない」ということ。もともと子持ち願望がなかったし、妹の親代わりをやって懲りていました。

最近の未婚女性のSNSを見ていて思うのは、私みたいな例は特殊じゃない、ということ。みんな、「育児をするより自分の収入を好きなことに使って楽しみたい」と思っているのです。ちょっと安心。

専業主婦当時は不本意な生活ながら、環境には恵まれて……。近所のママたちと毎朝公園に「定時出勤」。公園で子どもを遊ばせる時間はまるで好みではなかったけれど、仲良しのママたちと過ごすことで救われていました。

そして就職が決まって、異次元を体験。先週までお砂場でどろ遊びをしていたのに、今日はもう私が翻訳したラスベガスのショーの豪華なフライヤーが新宿ヒルトンホテルのロビーに置かれている……。

人生の不思議というか、不条理を感じました。日本ではよく未婚の女性が責められているようです。けれど、女性を従属物にして子育てを押しつける社会の方が、責められるべきでは……。

人それぞれ、生まれてきた役割があるでしょう。その実現が勘違いのジェンダー意識でままならないとしたら、日本の素晴らしい伝統に申し訳が立ちません。

天皇の男系継承を始め、世界唯一の夫婦同姓など、グローバルに遅れている日本のジェンダー制度。一日も早く時代に則した修正に向かうことを願うばかりです。