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映画・ドラマのレビュー

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映画・ドラマ・ドキュメンタリーなど鑑賞した映像のレビューと、作品から感じたことを綴ります。(ネタバレあります)
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#コラム

『ミッドナイトスワン』 なりたい自分との距離が生む苦悩

2020年/日本 監督:内田英治  出演:草彅剛・服部樹咲 「ミッドナイトスワン」 哀しみと希望、そしてせつなさが入り混じる作品だった。 あらすじは以下のとおり。 トランスジェンダーの凪沙はニューハーフクラブで働きながら孤独に生きている。そんなある日、従姉妹に虐待されて育った彼女の娘「一果」を一時的に預かることになる。はじめは相容れない二人だが、バレエに興味を示す一果とそれを支える凪沙の間に、信頼関係と温かな感情が芽生え始める。 社会的マイノリティという孤独凪沙(草彅

「記憶」の非対称性が生む苦悩が感情を揺さぶるー『トッケビ』脚本構成についての考察

韓国ドラマ「トッケビ」は最高視聴率20%超えの人気作品。 「愛の不時着」にその記録を塗り替えられるまでは、tvNチャネル歴代視聴率1位の座に君臨していたドラマだ。 この作品は俳優陣が素晴らしいだけでなく、何より脚本が面白い。また、制作にすごくお金がかかっていると思われ、ファンタジードラマにありがちな陳腐さがない。というか、むしろ壮大だ。 この「陳腐さがない」というのは現実離れしたストーリーの場合非常に重要で、それにはよく練られた脚本が欠かせない。事実、ファンタジーが苦手な私

40歳医師たちの誠実で優しい日常が心地よい 『賢い医師生活』

こんなにも働く大人の「日常」を心地よく表現したドラマはあっただろうか。 韓国ドラマ「賢い医師生活」は秀逸な作品だ。 劇的な展開があるわけでもなく、激しい感情のぶつかり合いもない。 40代医師たちの年齢相応の日常が、丁寧に描かれているだけ。 でも観始めたら最後、彼らに会いたくて、続きが観たくてあっと言うまに完走してしまった。 1. まずはあらすじ・登場人物をまずは簡単なあらすじを。 大学の医学部同期である5人は20年来の親友。彼らは「ユルジェ病院」で医師として働いている

その選択によって、失ったものと得たものは何か-映画『男と女』

人は選択することによって何かを失い、そして何かを得る。 失ったものと同等の価値があるものを得るとは限らないけど、失う・捨てることによってこそ、得ることができるものがあるのも事実。 先日、6月に観た映画「男と女」(監督:イ・ユンギ)を再鑑賞した。 韓国ドラマ「トッケビ」を完走し、コン・ユの主演の別の作品を観たくなり、以前鑑賞して涙したこの作品を選んだ。 前回(初観)の感想はこちら。 2ヶ月前と同じように、鑑賞後はぐーっと胸が締めつけられた。 登場人物たちの孤独や寂しさが伝

『太陽の末裔』 を駆け足で完走して思うこと

先月加入したU-NEXTトライアル無料期間がもうすぐ終わる。 U-NEXTは新作がバンバン投入されるし、コンテンツがすごく豊富で気に入っていたのだが、フリーズ&エラーが多発。(Amazon PrimeやNetflixでは起きない現象なので原因は不明。。) なので、残念だけどU-NEXTからは撤退しようと決めた。 新作映画をポイント購入して何本か観たので許してね。 さて、そうと決めたらU-NEXTで独占配信されている作品を今のうちに鑑賞しなければ。そこで「太陽の末裔」を寝

『ラストレター』 無限の可能性と人生の選択肢があった頃

2020年/日本 監督:岩井俊二  出演:松たか子・福山雅治・広瀬すず・神木隆之介 1. 未咲をめぐる乙坂の旅未咲の葬儀後、未咲宛の同窓会の案内が届いたことから物語が始まる。 妹の裕里は、未咲が亡くなったことを伝えるために同窓会に出席する。そこで裕里の高校時代の初恋の相手で生物部の先輩でもある乙坂と再会した。 同級生たちは裕里を未咲と勘違いし、成り行き上、彼女は姉のふりをすることに。そして同窓会後、未咲になりすました裕里と乙坂との文通が始まる。しかし姉になりすましていた

『マチネの終わりに』心の奥底にしまい込んだ想いと情熱の行き場について

2019年/日本 監督:西谷弘 出演:福山雅治・石田ゆり子 「マチネの終わりに」は、せつなく静かな大人の恋の物語だ。 若い頃のように、情熱のままに自分の気持ちをぶつける恋ではない。 40代という年齢だからこそ抱く葛藤、生きてきた時間の分だけ見える景色、そして胸に湧き上がる愛する人への想いがじっくりと描かれている。 まずはあらすじを。 ギタリストの蒔野とジャーナリストの洋子は出会ってすぐに恋に落ちる。しかし蒔野のマネージャー三谷の嫉妬によって、二人はすれ違ってしまう。

『劇場』 失って初めて気づく価値

2020年/日本 監督:行定勲 出演:山崎賢人・松岡茉優 1. 安全な場所について男が必要としているのは安全な場所。 そして、その場所を守りたい女。 感情に従順である人間は恐怖 でも尊いと思った 永田は沙希のことを感情に従順と感じている。 でも、本当にそうだろうか。 確かに天真爛漫で無邪気なところが沙希の長所だ。 でも彼女は本音を隠してはいなかったか? 沙希は言う。 「ここが一番安全な場所だよ」 永田にとって微笑みながらそう告げる沙希は「神」だ。 彼女は優しさと

ツンデレの潜在能力は 「ツン」 と 「デレ」 の比率で決まる 『ジキハイ』からみる人はなぜツンデレに惹かれるか

ついにU-NEXTにも手を出してしまった。 こちらのラインナップにはNetflixやPrime Videoにない作品が数多くあって、しばらくは観る作品に不自由はなさそうだ。 まずは「愛の不時着」以来惚れてしまったヒョンビンの主演作品制覇を目指し、U-NEXT独占の「ジキルとハイドに恋した私」を鑑賞中。 このドラマは解離性同一性障害(多重人格)を患うソジンと、彼の副人格ロビンを中心に展開する。タイトルが軽やかなので明るいラブコメかと思いきや、中盤が意外に重い内容で良い意味

去る者と残される者 それぞれの苦しみについて 『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』

2017年/韓国 原題:One Day 監督 イ・ユンギ 「ワン・デイ 悲しみが消えるまで」はいわゆるファンタジー映画。 今まで観てきたイ・ユンギ監督の作品(「愛してる、愛してない」「男と女」)が、現実の男女の心の揺れを描いたものだったのでちょっと意外だった。 この物語は、闘病の末自殺した妻の死後、すっかり無気力になっているガンスと、事故で昏睡状態の視覚障害者ミソ(幽体離脱している)との交流が、現実とファンタジーの世界を交錯しながら描かれる。 ここでは、ファンタジーや

『息もできない』 涙とくそったれ

2008年/韓国 原題:Breathless 監督:ヤン・イクチュン 「息もできない」 心にズシリと重たい作品。 幼い頃、父親の暴力によって母と妹を失った借金取りのサンフン。 暴力的な父、弟と暮らす女子高生ヨニ。 社会の底辺で生きる傷を負ったこの二人が偶然出会い、少しづつ心を通わせる。 そして、心を開ける相手がいない二人にとって、お互いの存在は闇に現れたかすかな光となっていく。 しかし、これは束の間の喜び。 負の連鎖は止まることなく、最後は悲しい結末を迎え

『LIFE!』 今いる場所から見える景色は、本当に見たい景色なのか

当たり前だが世界は広い。 だけど、日々の生活に追われ狭い世界で日常を生きている。 未知の世界へのことを考えるとワクワクするが、つい行動は後回しになる。 そうしているうちに無為に日々が過ぎていく。 最近、巣ごもり生活が続くせいか少しエネルギーが低下しているので、元気がでる映画をと思い「LIFE」を観た。そして思いの他心を揺さぶられた。 映画を観て感じた気持ちを忘れないためにも、熱が冷めないうちに書いておきたいと思う。 『LIFE』2013年/アメリカ 原題:The S

『シュガーマン 奇跡に愛された男』 人生はだから面白い

2012年/スウェーデン・イギリス合作 原題:Searching for Sugar Man 監督:マリク・ベンジェルール 伝説のシンガーソングライター、ロドリゲスのドキュメンタリー映画。 1970年代、ロドリゲスは類希な才能を認められアメリカでレコードデビューを果たす。が、曲はまったく売れず。 しかし、地球の裏側で奇跡が起きていた。 アメリカで誰に知られることもなかったロドリゲスの曲が、遥か彼方、アパルトヘイト下の南アフリカで絶大な支持を得ていたのだ

『キューティー&ボクサー』 愛と憎 そして戦いは続く

2013年/アメリカ 原題:Cutie and the Boxer 監督:ザッカリー・ハインザーリング (トップ画像:by 篠原乃り子) NY生活40年の前衛芸術家「篠原有司男」と、その妻「篠原乃り子」の日常生活を4年に渡り密着したドキュメンタリー映画。 この映画は、芸術家夫婦の風変わりなLOVE Storyと銘打っているけど、個人的には妻乃り子の苦難に満ちた人生を表現した、彼女のためのドキュメンタリーだと思っている。 愛すべきキャラクターとして登場する夫の有司男は、