介護業界の人手不足により経験不足のスタッフが介護の現場を支えている現状について。
介護業界では人手が不足しているのに、利用したい高齢者は増え続けているため、高齢者施設の箱ものは増え続けている。
それにともなってフリーランス看護師として私があちこちの施設を行き来する中で最近感じていることは、「施設のスタッフの介護知識の不足」だ。
これについて、今日は2つの異なる施設の事例を紹介したい。
大手企業が運営する高齢者施設で介護ができるスタッフは看護師だけ
私は大手企業が経営する高齢者施設で定期的に夜勤の看護師仕事をしているが、この施設が抱える問題は介護ができるスタッフの不足。
サ高住の施設であるため、基本的には自立した高齢者が入居しているのだが、介護が必要になった人向けの介護棟もあるため、当然介護の必要性は出てくる。
介護が必要になった場合、基本的には訪問介護サービスと契約を結んで介護をしてもらうことになるが、介護というのは決まった時間だけ訪問して介護すれば終わるものではない。
入浴や着換え、外出などは訪問介護のスタッフが担当するが、それ以外の時間の「穴埋め」は常駐している看護師がやっている。
サ高住という形態をとっているので常駐しているケアスタッフはいないので、介護をできる人は看護師しかいないのだ。
管理者やフロントスタッフ、ダイニングスタッフや清掃スタッフなどは大勢いるけれど、肝心の介護を経験しているスタッフは看護師だけ、という構図になっている。
管理者の中には介護を経験してきた人もいるが、基本的にスーツを着ていて本格的な介護をする要員ではない。
看護師が他の用事があるときに代行として変わってくれるくらいの位置づけ。
介護現場で今後何が起きるかの予測が立てられない管理者
ここはホテルではなく、高齢者施設という形態をとっているのだから、入居者の健康管理、危険性などを含めて施設管理をしていく必要があるのだが、認知症の人や身体機能不全の人の予後や行動パターン、またそれらの人が複数いる場合に起こりうるリスクなどが想像できていない。
想像できないどころか、今実際に介護している高齢者を目の前で見ていても、どれだけの日常動作ができて、どの行動はできないのかもよくわかっていない。
だから計画を立てていくということができない。適切なアドバイスができない。
施設を建てる段階でも介護をあまり知らない人が建設したのであろうことがうかがえる間取りになっていたりする。
水回りや共有スペースの配置や大きさ、手すりの位置やナースコールなどの電気機器の不足。
介護経験の不足した若手が生活相談員をしている現場
また、別のデイサービス施設では介護経験が浅いスタッフが生活相談員として担当していたりするのでケアマネや訪問看護師に「こういうときはどうするのか?」という質問に対して適切に答えられない。
デイサービス内でAさんは入社2年目から生活相談員として働いているが、デイサービスでしか働いたことがなく、ベッド上での排泄介助もしたことがないし、食事介助もまったくしたことがない。普通の食事介助もしたことがないのだから、嚥下困難の人向けのソフト食などもどんな人がどのように食べるのかもわからない。
介護についてもそのように経験が不足している状態であり、もちろん酸素療法や胃ろうや膀胱留置カテーテルなどの人がどのような介護や看護ケアが必要かもわからない。入浴の時はどのように対応すべきか、対応できるのかがわからない。
なので、Aさんが担当者会議に出たとしても、そのデイサービス内でどのような対応が可能なのか、これはできる、これはできない、という線引きができない。
人手不足=経験不足社会だという認識をもとう
それでも、健康な若いスタッフが働いてくれているなら、それだけで御の字だと思わねばないないと思う。
多くのことを求めても仕方がない。
だから私もあれこれとやかくいうつもりはない。
私が一つの会社、一つの施設だけで働きたくない理由はここにある。
私が常駐看護師として毎日いると、私の負担が重くなってくるからだ。
難しいことは私に振ればいい、そう思われると、どんどん仕事がきつくなってくる。
だからあえて私は「たまにしかこない」という位置づけでいたいのだ。
これだけ人手不足、経験不足の人手あふれる介護業界なのだから、そこで正社員として利用者の人を全員把握し、すべての責任を負うことになると大変である。
私はあくまでその「一部」を「たまに」お手伝いする程度、ということにすれば、大きな負担を背負わずにすむ。
人手不足=経験不足社会では完璧を求めない
介護業界だけではない。飲食店やその他のサービスを受けるときにも、これからは完璧を求めてはいけないのだと思う。
介護される側、その他のサービスも受ける側はもっと謙虚にならなくてはならない。
「やってもらえるだけありがたい」⇒「できることは自分でやらなくては」
そういう気持ちが必要だし、求めていたことがスムーズにできなくても、すぐに怒ったりしてはいけない。
長い目で温かい目で柔軟な対応をすることが求められると思う。
補足するが、私も上記の経験不足の生活相談員Aさんについてとやかく言ったりはしていない。
私が答えられる範囲のことは答えているし、相談にものるようにしている。
本来なら、入所型の老人ホームで経験を積んでから生活相談員になるべきなのだろうけれど、そのような時間も人手もないのだろう。
そういった現実があることを、業界関係者やサービスを受ける側も心得ておく必要があるだろう。
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