映画『愛すべき夫妻の秘密』を見る前に、知っておきたいこと
ルシル・ボールは、シットコムの元祖ともいえるコメディ・ドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』(1951-1597)の主演女優です。
アメリカでは絶大な人気があり、1989年に亡くなった後には、大統領自由勲章を授与されています。
現代のアメリカに住んでいる、さまざまな「神」の仁義なき戦いを描くドラマ『アメリカン・ゴッズ』(2017-2021)では、ジリアン・アンダーソンが演じる「メディア」という神が、ルシル・ボールの姿になって登場してきたこともあります。
それほど、米国のテレビ界の象徴的な存在になっているルシル・ボールですが、日本では、そこまで知名度が高くないかなと思ったので、ルシル主演のドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』を含めて、少し調べてみました。
というのも、『愛すべき夫妻の秘密』で描く夫妻というのが、ルシル・ボールと夫のデジ・アーナズのことだからです。
アーロン・ソーキン監督・脚本で、映画では、二人の出会いから、結婚の破綻までの約20年間を2時間12分でテンポよく描写しています。
ルシルのことをまったく知らなくても、それはそれで楽しめるのですが、『アイ・ラブ・ルーシー』の撮影シーンが多く登場するので、出演者のことなどを知っておくと、より映画に没入できることでしょう。
『愛すべき夫妻の秘密』を鑑賞する前に、知っておきたいことを5つにまとめました。
①インタビューされる作家は役者が演じている
映画は、3人の人物へのインタビューからスタートします。
彼らは、『アイ・ラブ・ルーシー』のショーランナーだったジェス・オッペンハイマー、番組作家のマデリン・ピューとボブ・キャロルですが、実際の人物はすでに亡くなっています。
②作家たちを演じた俳優は二人いる。
面白い手法だなと思ったのですが、インタビューされる番組作家たちは、二名の俳優が演じています。
『アイ・ラブ・ルーシー』撮影当時と、インタビュー時(現代?)の年を重ねた姿のときと、二人の俳優が一つの役柄にキャスティングされています。
③エピソードが階層になっていて時系列で並んでいない
この映画には主に3つの時間軸があります。
作家たちが当時を回想するシーン(現代?)、『アイ・ラブ・ルーシー』撮影時(1950年代)、ルシルとデジが出会った1940年から1950年代。
これらのエピソードが、階層のようになっていて飛び込んでくる脚本です。
『シカゴ7裁判』でも、多数の登場人物の人生を整理しつつ、それぞれの人生がぶつかり合う一日をドラマティックにみせたアーロン・ソーキンならではの階層術で、自然と物語に引き込まれていきました。
④『アイ・ラブ・ルーシー』撮影時のエピソードが満載
『アイ・ラブ・ルーシー』撮影時のエピソードがいくつか登場しますが、実際の出来事をモデルにして映像化されています。
月曜日に読み合わせをはじめて、金曜日に公開収録するスタイル。
監督の演出よりも、自分のアイデアが良いと思ったらやってみせたり、どうしても納得がいかないシーンを取り直したり、ルシルのコメディ俳優としてのプロフェッショナルぶり。共演者の不仲。ルシルの妊娠時の対応、「赤」報道とスポンサーの介入など、1950年代のテレビ番組製作時のエピソードは、とても興味深く楽しめました。
⑤『アイ・ラブ・ルーシー』内容と出演者まとめ
最後に『アイ・ラブ・ルーシー』というドラマについて、すこしご紹介しておきます。
1951年から1957まで、アメリカのテレビ局CBSで6シーズン放映されたシットコム。1話30分、180のエピソードがあります。
ニューヨークに住む中流階級の主婦ルーシー・リカルド(ルシル・ボール)と、夫のリッキー・リカルド(デジ・アーナズ)が主人公。
好奇心旺盛な性格の主婦が、親友のエセル(ヴィヴィアン・ヴァンス)と、エセルの夫フレッッド(ウィリアム・フローリー)をまきこみ引き起こすドタバタ
コメディです。
ちなみに、映画『愛すべき夫妻の秘密』の原題は、『Being the Ricardos』ですが、これは、ドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』の主人公がリカルド夫妻ということからきています。
直訳すれば、『リカルド夫妻であること』といったかんじでしょうか。
実際の夫婦が、ドラマの中でも夫婦を演じる。
その意味について直で説明しているいい原題だと思いました。
『愛すべき夫妻の秘密』キャスト
ルシル・ボール(ニコール・キッドマン)
デジ・アーナズ(ハビエル・バルデム)
ウィリアム・フローリー(J・k・シモンズ)
ヴィヴィアン・ヴァンス(ニーナ・アリアンダ)
第94回アカデミー賞では、主演女優賞、助演男優賞、助演男優賞の3部門にノミネートされています。
現在Amazon Prime Videoで配信中。