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クリエイターになるか、サポート側になるか、どちらを選ぶ?映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

「小説家になるか、編集者になるか、それが問題だ。」
そんなふうに考えたこと、ありませんか?
この二択で悩む状況は、職業を他の分野にしてみても発生することです。

要は、作る側(クリエイター)になるか、クリエイターをサポートする側になるか、両方の可能性があった場合「どちらを選ぶべきか」という問題です。

両立も不可能ではないでしょうが、片方の職業を選んでも成功するのは厳しい道のりなので、どちらもやり遂げるとなると、大リーグの大谷翔平選手なみの二刀流の才能が必要かもしれません。

大谷選手が日本のプロ野球に入団するときも「ピッチャーとバッターの二刀流は不可能だ」という意見が多かったのですが、そもそも、「どちらを選ぶか?」と悩んでしまうのは、両方の才能があるからなんですよね。

文章を生み出す才能も、作品を作り上げプロデュースする才能も両方持っているという人は結構いるはずです。特に出版業界で働いている人たちには多いのではないでしょうか。

この場合、少しでも「クリエイター側でいたい」という気持ちが心の中にあるのであれば、サポート側に専念するのは、かなり難しい選択になると思います。

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の主人公ジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、詩人で、小説も書きたいと考えているクリエイターですが、「ニューヨークのカフェで執筆したい」という大雑把な理由で、出版業界の仕事に飛び込みます。(ありがちです^^)

ただ彼女がすごいのは、老舗の出版エージェントに社員として採用されるんです。
出版社ではなく、作家のエージェントの会社。
著作権が侵害されていないかとか、次回作の出版をどこの出版社にするかとかを考えるいわば作家の代理店です。

かつては、アガサ・クリスティや、F・スコット・フィッツジェラルドも所属していた老舗で、現在はJ・D・サリンジャーの出版エージェントを担当しています。(1990年代が舞台)

ニューヨークにある老舗エージェントで働けるというだけでも、かなりの特別感に浸れることでしょう。一応は、出版業界の一員になれたわけですし。

ただ、仕事内容は、エージェントの代表マーガレット(シガニー・ウィーバー)のアシスタント業務です。
マーガレット宛の電話を受けたり、登録している作家宛のファンレターに返事を出したりの雑務をこなします。

それでも、子供のころ大好きだった児童文学の作家が、ボスのマーガレットを訪ねてきたり、サリンジャーから電話があり会話を交わしたりと、「特別」なことが起こる文学好きのジョアンナにとっては嬉しい職場です。

サリンジャーに名前を覚えてもらって「元気かい?」とか世間話をして、終いには、「作家なら毎日15分でもいいから何か書き続けるんだ」というアドバイスまでもらえる。
そんな職場はそうそうないでしょう。

自分はまだ何も成し遂げていないけど、周りにすごい人がいる職場。

だけどこの状況って、自分自身について勘違いしやすいんですよね。
「こんなすごい人達と一緒に仕事をしている私ってスゴイかも!」そんな誤解を抱きやすい。

実は、ここでどうするかがクリエイターになるか、サポート側になるかの分かれ道なんじゃないでしょうか。

サリンジャーのアドバイスどおりに、毎日欠かさず15分間文章を書くモチベーションを持ち続けられる人は、作家の道へ進み、いつの日か書くことよりも毎日の業務に喜びを見つけて成長していく人はサポート側に進む。

そして、「こんな特別な職場で働いている私はスゴイ」と思ってしまったときに、クリエイター側の道を選ぶことは、なかなか難しいんじゃないかなと思います。
そちらで成功することだって、十分特別な才能なのですから。

主人公のジョアンナは、どちらの道を選ぶのでしょうか?
ぜひ映画を観て、自分だったらどうするか考えてもらいたいです。
難しい選択ですよ、なかなか。

この映画は、文学ジャーナリストとして雑誌に評論を寄稿していたジョアンナ・ラコフの自伝的小説が原作です。
原作のタイトルは「My Salinger Year」(マイ・サリンジャー)。

人嫌いでマスコミに登場しない、伝説的な作家サリンジャーに関わった人たちは、何かしらの刺激をうけるみたいですね。

少なくとも、私の2022年映画年間ベスト10に入るであろう、こんなに素敵な作品を作るきっかけとなる原作をジョアンナさんは、書きあげてくれました。

サリンジャーを読んだことがないという人でも楽しめる映画です。
あと、シガニー・ウィーバーかっこよすぎ、そして、主人公を演じたマーガレット・クアリーさんを更に大好きになる映画でした。

とてつもなく高い高感度と、清潔さ、清純さ、純真さを持つ俳優さんだと再認識しました。
マーガレット・クアリーさんを見ていて、「誰かに雰囲気が似ているなぁ」とずっと思っていたのですが、今回ひらめきました。
清潔感がオードリー・ヘップバーンっぽい!
ちょっと困り顔なところが魅力的です。


マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2020)

2021年5月6日(金)公開

監督&脚本:フィリップ・ファラルドー

出演者
マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、サーナ・カーズレイク


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