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デンマークのドキュメンタリー「Verdens dejligste møgunger」を観て。〜ソーシャルペタゴジー(社会的教授)とは何か〜

デンマークのドキュメンタリーの記事第二弾。今回観たのは

「Verdens dejligste møgunger(世界一素晴らしいガキんちょ)」

ADHDなど様々な問題を抱えた子供たちが通う学校での生活を追ったドキュメンタリー。彼らは"dagbehandlingsskole"と呼ばれる形式の学校に通っています。


デンマークでは義務教育過程の子供達は一般的に"folkeskole"という国民学校に通います。しかし、なんらかの問題で普通の学校に通えなくなった生徒らの選択肢としてあるのがこのdagbehandlingsskole(以下略dbs)。

(ちなみに身体的, 精神的障がいを抱えた子供たちへの"specialskole"という特別支援学校も存在します。ここでは授業時間の短縮等が認められていますが、dbsではあくまでもfolkeskoleと同じ基準での学習が進められます。)

folkeskoleとの違いは、より少人数で一人一人の生徒に寄り添った指導が行われること。個人のペースに合わせた学習プランが組まれます。また、勉強だけではなく社会生活全般のサポートを行うことも。

あるdbsのHPには以下のように書かれています。

Et dagbehandlingstilbud er en blanding af socialpædagogik, behandling og undervisning. Det vil sige, børnene/de unge bliver undervist i dansk, matematik, engelsk osv. og samtidig er der en behandlingsindsats, som f.eks. kan omfatte at få nye strategier til at håndtere følelse af afmagt, til at leve med en diagnose eller til at indgå i sociale fællesskaber sammen med andre elever.
(dbsでは社会教育, リハビリ, 教科指導を行います。すなわち、子供達はデンマーク語, 数学, 英語などを学ぶと同時に、障がいとどう生きるのか,他者と共同体に参加するためにはどうすればよいかについても学びます。)

特に"socialpædagogy"(ソーシャルペダゴジー)とはドイツで生まれた福祉と教育を横断する概念であり、「社会教育」「社会的教授」などと訳され近年日本でも注目を浴びています。

デンマークにおけるソーシャルペダゴジーは主に幼児教育, 学童期の余暇活動, 社会福祉サービスをが中心とされていますが、特に福祉的支援が必要な者への支援全般を指します。(ソーシャルペダゴジーの専門家をデンマークでは"pædagog"(ペダゴー)と言います)

日本で「福祉的な支援」と言えば、お年寄りへの介護や障がい者に対する支援をイメージする方も多いかもしれません。

しかし、デンマークのソーシャルペダゴジーの目的はあくまでも「補完」ではなく「将来への方向づけ

すなわち障がいやできないことを補うための支援ではなく、

個人が問題とどう向き合い、今後どのように生きていくのかを一緒に見出していく作業とも言えます。

なので支援活動は、当事者と関わり対話を通して親密な関係を築くことが中心となります。


前置きが長くなりましたが、本ドキュメンタリーではそんなソーシャルペダゴジーのあり方を見ることができます。

例えば、ある男子生徒は学校に馴染めずdbsに転校してきます。彼は勉強が苦手で自信を失い無気力状態にあります。授業にも参加しようとせず、ずっとスマホをいじっている始末。何をするにもすぐに諦めてしまいます。

そこで教員(ペダゴー)は生徒と二人で話します。

学校は楽しい?
いいや。

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そこからなぜかを一緒に考えていきます。その後教員同士のミーティングでも、どうすれば彼にやる気を起こすことができるのか話し合います。

私たちにとって大切なのはできないことが彼自身のせいではないと
分からせること。自信を取り戻させることです。

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またある生徒は他者とうまく付き合えず自身の殻に閉じこもりがち。授業の時間になっても机の下に潜ってずっとゲームをしています。

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そんな彼の心が動いたのは、みんなで釣りに行った時。仲間との交流を通して少しずつ心を開いていきます。

このように学校内での座学だけではなく、釣り, 乗馬, スポーツクラブなど頻繁に課外活動に出かけており、新たなことに挑戦することで「できる」という自信を育んでいきます。


その他にも一人一人の希望を叶えるために教員は尽力します。アルバイトをしたいという生徒のために一緒に履歴書を作り面接へ同行したり、サッカー選手を目指す生徒のためにサッカークラブへの入団やトレーニングを手伝ったり。


本当にここまで寄り添うのかと思うほど!一人一人に合わせたサポートしていきます。それも勉強だけではなく社会面も含めて。

これこそがデンマークのソーシャルワーク、対話を通した「将来への方向づけ」なのかと。その一端を垣間見ることができました。

デンマークのドキュメンタリー記事第一弾はこちら

参考:2021. 福田祥子「<書評>Claire Cameron and Peter Moss, Social
Pedagogy and Working with Children and Young People, Jassica Kingsley Publishers (London), 2011.」

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