マガジンのカバー画像

短編小説作品集1

52
初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
運営しているクリエイター

#夏の思い出

『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(10)完

『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(10)完

花屋「フローリスト スドウ」は、会社から徒歩 5分程の場所にある。

女性オーナーがお店に居て、仕事で花の贈答が必要な際に、社会のいろはをよく分かっていない私の相談に乗ってくれた。

仕事を終えた夜 8時でも、「フローリスト スドウ」は開いている。

お店の柔らかな光に吸い込まれるように、お店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。」と、
迎えてくれたのは、男の人の声だった。

オーナー以外にもう一

もっとみる
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(9)

『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(9)

あの夏から、10年が経った。

私は大学を卒業して、今年の春、食品会社に就職をした。
まだまだ、先輩に教わることばかりだけれど、同期の翠月と桃華の頑張っている姿に刺激をもらい、何とか出来ることを少しずつ増やしている。

今年の夏は、猛暑だった。
営業のため、外周りをしていると、何度も意識が遠のきそうになる。

それでも、いつもの夏と同じ様に空は青く、蝉も鳴いていて、
私は毎日ガリガリ君を食べていた

もっとみる
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(2)

『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(2)

ビーチサンダルを脱ぎ、裸足でベンチに体育座りをする。

描くのは、ここから見上げた、クヌギの木のあるの風景。

私は、膝の上にスケッチブックを抱えるように持ち、
ベンチの空いたスペースに、色鉛筆のケースを広げた。

青色の色鉛筆を手に取り、木の輪郭を書き始める。
木だからといって、茶色で書き始める必要はない。
今年の私の夏は、涼しいこの場所。
だから、青色がいい。

私は、クヌギの木の肌のゴツゴツ

もっとみる
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(1)

『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(1)

8月も終わりに差し掛かった頃、
秋めいた空を見ながら、蝉の声を聞く。

思い出すのは、あの夏のこと。

私が、中学一年生の夏休み。
「夏の風景を描く」という宿題があった。

両親は忙しく働いており、家族でどこかに出掛けるという予定がなかった私は、
家から行ける範囲で、描く対象を探していた。

夏休みに、区民プールへ一緒に行ったクラスメイトは、
祖父母宅へ帰省した際に、絵の宿題を済ませてしまったと言

もっとみる