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ミン・スーが犯した幾千もの罪、沢木耕太郎を買う【読書日記】

まずタイトルと、逆光の男がドドーンと立ってる表紙でもう面白い。
中国系作家トム・リンのデビュー作となるヴァイオレンス・ウエスタン小説だ。

東山彰良の解説ではアメコミ映画を思い出したとあるけど、僕はジョジョの奇妙な冒険を連想した。
西部劇の世界観で超能力者が旅する話がジョジョかと言われると微妙だけど、作者が全く日本アニメを知らないことはないでしょう。

筋書きは、中国人の殺し屋が、見世物小屋の一座とともに復讐の旅をするというもの。
白人保安官に見下されている、中国人労働者とインディアンが略奪と殺し合いの応酬。身を隠すときは阿片窟にうずくまっていれば、白人にはアジア人の顔の区別がつかない。
旅を共にする見世物小屋のメンバーは、相手に変身したり炎に包まれても平気だったりと「能力もの」だったらかなり活躍しそうなのに、別に能力者たちは動かない。
殺し屋のミンが用心棒として付いていき、特殊能力よりも風景描写や銃を整備する場面、馬の機嫌をとるところが書き込まれている変な小説だ。

大まかなストーリーは考えていても細部まで計画してから書かれたんじゃなく、週刊連載マンガのようにアドリブで書かれたような感触がある。

「能力」がある世界なのに、それがなかなか役に立たない。この能力があるから最後は助かったとか、役に立たなそうなやつが最後に能力が覚醒したとか、気持ちいい展開になるのか、ならないのか。
それが楽しい。
先が読めない。
設定だけ決めて旅を始めた感じが痛快で、結局、高い評価を受けて翻訳小説ベスト10に入っているような小説が読みかけで止まっているのに、アンバランスな若手作家の旅をさきに終えてしまった。

昨日は、本屋でたまたま重厚なオーラを放ってた沢木耕太郎の天路の旅人を買う。旅に飢えているのか?

きれいな写真撮り直すのも面倒だし寒い

ちょうど導入部が読める!

東北で化粧品店を商うおじいさんがいて、一年のうち正月しか休まず毎日コンビニのおにぎり2個とカップラーメン食べる。
時計の歯車のように生きているおじいさんは、かつてスパイとして中国を旅していた人なのだ。

そのおじいさんもスパイだった経験を本として出したんだけど、あとになって編集者が捨てきれなかった原稿用紙3200枚が見つかる。
沢木耕太郎は本人との話と原稿から、かつて本にする際にこぼれた部分の旅を再構築して、旅だけでなく、この旅人はどんな人だったのかを描き出そうとする。

戦争の話をされると、どうしても昔の話として処理してしまいそうだけど、旅人が最近まで毎日仕事してカップラーメンとコンビニのおにぎり2個を絶対に食べていたことで、今と地続きになっている感覚がある。ふしぎな旅行記だなあ。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。