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【読書】太田光をぎゅ〜っと原稿用紙1200枚に圧縮したら。 笑って人類!

爆笑問題の太田光書き下ろしSF長編娯楽小説「笑って人類!」を読んだ!
完全なネタバレはしませんがある程度内容にふれて語りたい!

お笑い芸人がお笑い以外のジャンルで、ふだん表に出さない過去や暗黒面をぶつけてくるパターンがある。

ビートたけしが北野武になるんだら、太田光が超絶ダークな内容できてもおかしくないと身構えて買ったのに、出てきたのは愛するSF、ギャグ、ミステリー、オタク文化への愛もある、娯楽大作。近い系統でいえば「三体」だった。

やばい!でかい!分厚い!本のすがたがパワーを制御できない太田光をぎゅっと圧縮して紙製にしたみたいだ。置いとくだけで圧を感じる。


「フロンティア」と「ピースランド」。
それぞれ9.11と3.11の惨劇を連想する過去を背負った、日本とアメリカをモチーフにした国のリーダーたち。
世界各国の大統領が手を取り合い恒久の平和を約束する記録的な祭典が催されるが、大規模なテロが起こり、大統領全員が死亡。

フロンティアの大統領の意思を託された女性と、支持率0パーセントのピースランド総理だけが遅刻して生き残ってしまう。

混乱のなか、世界中の通信をジャックしてテロの首謀者らしき者からメッセージ映像が流れる…。

話は大統領やマスコミや災害被災者の少年ら、複数の登場人物の視点につぎつぎ切り替わる。
その出てくる人たち、みんなにちょっとづつ太田光が入ってるように見える。
総理のキャラには「太田総理」って番組で国会議員と真っ赤になって議論していたなとか、いじめられてる少年には、ネットの誹謗中傷をうけて「俺もそういう側の人間」と、攻撃するほうをかばっていたな、とか。

腹話術の人形みたいなロボットと共存している家庭が出てきたときは、あまりに古いセンスだぞ、大丈夫かな、と思わせられたけど、じつは人と区別のつかないロボットと共存する社会になってから、ある事件をきっかけに人間そのもののロボット製作が禁止された設定が明かされる。

ちゃんとSF的に未来を想像してから、昔のアニメっぽい世界観にしているのだ。
さらに、人間そのものの姿をした「脱法アンドロイド」が生産されていたことも触れられ、登場人物の誰かか、テロ集団のどこかに人間そのもののロボットが潜んでいる可能性が示される。

「謎があって、悲劇から明るいところを目指していて、複数の視点がつながる展開」
そういうのって、荒くてもやっぱり面白い。

粗いといえば、総理の側近のカツラがずれるギャグを繰り返しやる。

人間そのもののロボットが作れる技術力の世界でカツラが浮くって、ロボ用頭髪は完成したのに、人間に接着する頭髪はできないの? って疑問に思うんだけど、こういうギャグをしつこくやる感じは太田光っぽい!

作品を見ながらその向こうの作者を想像する面白さ。

今、シン仮面ライダーを語るみんなが、作品内の話だけで止まれず、セットで庵野監督の話をしてしまう。
この本も、読みながらページの向こうの太田光を見ている。

印象的なのは、何度も出てくるタバコだ。この世界ではパッケージの警告表示が進化して、タバコは汚れた内蔵や死体などのケースに入っている。
「死ネ」の声とともに一本づつ出てくる嫌がらせシステムつきだ。(それはそれでケースのコレクターがでそう)
総理大臣らが、気持ち悪いフィギュアにぐったりしながら喫煙してたのが、だんだんダメージを受けなくなって、「死ネ」を聞き流して生きるようになる。
若い頃純粋だった主人公らが、まわりに融通をきかせて、汚いオトナになって生きていくのと重なる。タバコで体に毒を取り込み、汚れても生きていく人間たちとタバコの相性がいい。そして最後にはちょっとかっこいい余韻を残す。「死ネ」とでも何とでも言いな、って。

全裸監督に、古い時代であることを表現するためにタバコを登場させていたけど、かっこいいタバコの場面って相当珍しい。

そういえば太田光は、松田優作がタバコを吸うシーンのかっこよさを何かの番組で語ってた。
的はずれであっても、「この作者の好みがここに反映されているのかな」と考えるのが面白い。

AIが無限に文章を産み出せる世界になるのかな、寂しいなと思ってたけど、太田光と庵野秀明の話が盛り上がってるのを見て、人間が作品を産み出す文化は消えないと思えた。
人って面白い。未来も面白い。

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。