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語り終え 脱力にて 冬夕日 港あればと 山見て思う

「疲れた!」ミッションを終えた男は、誰にも聞こえぬ声でゆっくりとカフェを出る。今日は縁があってロングインタビューを受けた。
「まあ、協会の代表理事と言えば聞こえは良いけど」協会の代表理事といっても小さな組織で、ひとりで動き回っているようなもの。

「でも語りきったなぁ」それが正直な感想だ。
ロングインタビューなんて受けられる機会などそう多くはない。話を聞いてからこの日まで何を語ろうかと、何度も考えてながらも、「いやこれは」と取捨選択を続けた。
「語りたいことを語ればいいんじゃない」と、悩んでいる男に妻からの一言。「だよな、ありのままを語ろう。インタビューの結果、どれが採用されるか、こっちで考えても無駄なんだ」

こうして当日のインタビューに臨む。

「思ったより語れた」疲れたといっても良い疲れである。出し切ったというべきか完全燃焼かそんな感じだった。インタビューはまさしく自分自身の半生を振り返ったひとときである。だから気持ちが良いのだ。数日来続いていた気持ちのもやもや感も、このとき見事に解消されている。

「うーん、いい夕日だ」気が付いたら夕暮れ時の時間。冬は日が暮れるのが早い。西の空輝く太陽が傾き、空が冬空を見事にオレンジに染色させている。「だけど、あれだな」男は南のほうを見た。東から南のほうは屏風のように山が広がっている。
自然に囲まれたこの地に移住をしてきて本当に良かったと思っているのだ。移住直後には、まさか協会の代表理事になるとは夢にも思わなかったが...…。

「ただ、そう、港、それだけなんだ」インタビューの時にも思わず口が滑った言葉、この町には海がないことを思い出す。男は海が好きで、南国の島に滞在したこともあった。空港のある島から南国の島までは1時間の船旅だ。港から出る船から見える島々。自然の宝庫である島はつらいこともあったが楽しいことのほうが多い。アロハシャツを着た常夏の生活は、わずかな期間ではあったが、今思っても懐かしいのだ。

「いいよ、海はいつでも行ける。また休暇をとったら、妻と港に行ってどこかに行こう。うん、それまで頑張ろうか」男は自分自身に言い聞かせたが、そのときふと短歌が頭に浮かぶ。

語り終え 脱力にて 冬夕日 港あればと 山見て思う 
(かたりおえ だつりょくにて ふゆゆうひ みなとあればと 山見て思う)

本日は山根あきらさんの青ブラ文学部に参加してみました。

今日の記事「河内長野のキッチンカーマルシェ協会代表理事インタビュー」を参考にしました。

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