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MNB連続詩集『遠景脱妄症』

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連続投稿詩。今月のテーマは「記憶」「恋」です。遠くを見たら、遠くから見たら、大体そんなものだとわかるものたち。
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#自由詩

詩「これは薔薇ではありません」

詩「これは薔薇ではありません」

では百合のような恋とはなんだろう
今目の前で必死に手をつく君を
そっと撫でて眠ることだろうか
それは 素敵だけど 退屈だ
昼下がりの紅茶くらい 退屈だ
花はずっと窓の外を見ている
この風景に飽きたのだろう
同じ方を向くわたしのあごを
もう片方の手でそっと
ああ たおやぐ
爪の先は徐々に蔓となって
先程までさわれもしなかった
わたしの体表を ことほぐ 
わたしはあの花でなくてよかった
この蔓でもなく

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詩「ティータイム・アイズ」

詩「ティータイム・アイズ」

ひとしきり言い訳を切り分けて
ため息に唇を混ぜる
粉糖がてのひらの山を覆っては
猫のような恋心をカップの蓋にとどめ



最後に運をミントみたいに
添える
そんなふうな午後は
ひとときしか ないのだろうと

ふふふ。ふ。

詩「そ/ら」

詩「そ/ら」

空を

見ていたいと思った
君が切り取った


焼き菓子を片手に
音音を響かせて
ここは
大ホール
少しだけひるんだ


ずうっと夏


うーん。

詩「居間暇回廊」

詩「居間暇回廊」

どこにいくでもない
ピクニックシート触りながら

問う
「わたしたち、いつまでわたしたちでいられるのでしょう」
答える
「シートがほつれて、砂に還るまで」
見つめる
「それでは大した時間いられないわ」
驚く
「大層な時間に思えるけれど」
眺める
「そうかしら」

何を作るでもない
ミルクパンを火にかけながら

キスをする
深く沈み込む
涙を混ぜいたわる
顔と顔は
どこまでも
感情と感情の

朝の

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詩「散散散る」

詩「散散散る」

雨が
落ちる
雨が
落ちる
手が
落ちる
恋は
落ちる
ぽろ

星のかけらが崩れて
ぼくの身体
落ちる
きみの姿
落ちた
目が
散る
芽が
散る
女が
散る
青い朝 焼け
落ちる
散り落ちる雨
恋は
ぼくの身体に
散っていくから
歯痣と
きみ

眠れば健康で、全部は夢で、明日はきっと、晴れ。

悪くはない。(ホントに?)

詩「知らない世界のおはなし」

詩「知らない世界のおはなし」

いつあなたに会うかわからないから
今日はおしゃれをして出かけよう
いつあなたに会うかわからないから
いつでもほほえみを忍ばせておこう
会わなくてもいい人に会うこともあるから
嫌な顔も持ち合わせていよう
食べたいものを食べている時も
いつあなたに会うかわからないから
口の端には気をつけていよう
いつあなたに会うかわからないから
名刺交換の用意をしておこう
いつあなたに会うかわからないし
いつあなたに

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詩「よるとぼう」

詩「よるとぼう」

窓辺から湖が見えた気がした
鴨 水しぶき しんめんもく
空は目に飛び込んできた
見えられる限り濃紺をまとって
星は目に残って
恋をどこまでも映す役を担った
よるとぼう
おおきくすいこんで
あなたの眼鏡の縁が
最後に踏んでく 階段の段
(JINS いかなきゃ)
何でも見える気がした
破片が
フォーカスしたものは
おんなのこ
小さな
心の
別の破片は
小さな
ラーナ
ぼくがひそかに想いを寄せた人は

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詩「夏漬かる」

詩「夏漬かる」

君が
いる夏と
いない夏を
比べる
はじめての夏に
素朴な朝ごはんを食べる
燻した野菜の音が
ぽつぽつと部屋に響く
音は心臓で鳴っているのだろうか
音は あたしの外で鳴っているのだろうか
外だったら 少し寂しい
あたしは酒場を思い出して
それは野菜の音だった
古い机が ぽつぽつと鳴いている
煙の渦の巻き方で 
君の位置がわかる
歓談の声を
野菜が吸っている
あたしは
煙草の真ん中の芯のようで
主役

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詩「夜の徘徊」

詩「夜の徘徊」

気持ちいい日だ
夜が 身体みたいに身体に入ってくる
音は軽くて 止むことのない雨
遠くで百合が粒に踊る夜
深い丑三つには
焼いた肉を食べた事を思い出して
吐息に狂う
夜勤終わりの午前早期帯
スマホを見ては 現探し
反応する獣を察知する
そうこの時は
獣の時間
眠っていても獣は
わたし わたし
あなたは寝ていて
それでよかった 夜が入ってる
予感だけが本能をくすぐれるから
くすぐられた腕を差し出すか

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詩「まんなかで会いましょう」

詩「まんなかで会いましょう」

青空ひとつ
片手に収めて
君を抱いたあと
僕は深呼吸する
部屋も呼吸する
窓が右に動く
弁当箱には
まだ温かい
れんこんがある
テレビをつける
グラスの氷が音を立てる
青空が精神に迫ってくる
後ろ暗いことはないかと
迫られることは必然に思える
僕の影の中で
君がステップする
記憶の流砂を
撫でて払うように
「まんなかで会いましょう」
耳元で
全身を撫でられながら言われて
ステップする
れんこんは

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詩「水くらべ 朝」

詩「水くらべ 朝」

曙光
水田をくぐれば
群青は春を思い出す
太陽と空は
鋭角に存在の輪郭を
試してくる
足元には土が相応しいが
ぼくはアスファルトを削り
歩いている
満たされた水の中に
きみの足が入っていく
きみが はまる
ぼくが はまる
手を取り合う
準備物のいらないはずの
ぬかるみへ
依然の鋭角がやわらぐと
急に手は 重たくなる
泥がかかる
     きみ
  の右手
     ぼく は
声を上げる 
    

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詩「夏雪と三千万秒」

詩「夏雪と三千万秒」

振り返ると いつも
小雪が降り掛かっているようだ
襟足 夏 小雨を前にして僕は
何を
考えているのだろうか
夏雪と 三千万秒ほどの 隙間
気持ちの上で長袖を着だす 朝方
通り雨の気配はとっくにやみ
気配は
やはり 雪
日の目を見ない者たちの
行進が
行進
そうだ 
これは紫陽花の
君の
雌蕊

夏雪と 三千万秒もの 厚み
神が千切るたび
季節は元の季節になって
つう つう
ほら
汗が流れていく

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詩「すべての海は煙の…」

詩「すべての海は煙の…」

海は煙草ではないかもしれないが
煙草は海であるかもしれない
煙の筋を読み解けば
それは深海を照らす
ささやかな明かりの道とつながるかもしれない
カフェで過ごす午後 煙草を胸先三寸にため
音もなく吐き出すと
ささくれのように夕陽の時間が
思わぬ方向へ延びてゆく
多数
煙草は海であるかもしれない
それはたくさんの魚を隠している
めだつものも 恥ずかしがり屋のものも
たまに水面から顔を出したりするのだろ

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詩「夜半、櫂は弧を描いて」

詩「夜半、櫂は弧を描いて」

櫂が舞うのは
空か海か
「海」
と言われれば
それは海
だと答えよう
気持ちの上では
お茶を飲むよう
「空」と言われれば
それは空
だと答えよう
実は空がすきなので
順をかえて答えたと
そこにはリズムがあるだけで
言葉は
なかったけど
あなたの空
わたしの海
雲海のようなため息が混ざり合う
夜半
夜半の月は
空を抱いて海に潜る
溺れた月の真ん中で
今宵あなたと
水辺でひっついていようかと
思いなが

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