詩「夏漬かる」
君が
いる夏と
いない夏を
比べる
はじめての夏に
素朴な朝ごはんを食べる
燻した野菜の音が
ぽつぽつと部屋に響く
音は心臓で鳴っているのだろうか
音は あたしの外で鳴っているのだろうか
外だったら 少し寂しい
あたしは酒場を思い出して
それは野菜の音だった
古い机が ぽつぽつと鳴いている
煙の渦の巻き方で
君の位置がわかる
歓談の声を
野菜が吸っている
あたしは
煙草の真ん中の芯のようで
主役のようで
煙のようだった
君があたしを吸い込む
あたしが君を体表から流していく
照明はそのことを
照らして隠して
マスターだけが全て知っているのだ
あたしは
生卵を混ぜて
白米も その野菜も
めんつゆに捧げられた身として
すべてかっさらって
また、仕事へゆくのだ
そして
煙になった君を
もともと煙のあたしとして
なにか親しむすべはないかと
体表からもっとも海に近い部分で
水分を燻らせていくのだ
やれやれ十分に重傷だ。困る。
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