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もっと昔、医療も支援も充実していない中で少しずつ弱っていくような病を患った人、それを看る人はどれだけ心細かっただろうか。今もそういう境遇にある人はいるかも知れない。この秋は大きめの病を罹患しているので(そしてまだ病名も不明だ)、そういう人々の人生を思っている。
詩「けっかん かん」
けっかん けっかん
けつ かん
けっか
かん かん
けっかん
けっかん かん
かん
けっか けっか
けっかん けっかん
けっかん けっか
けつか
けっかん
けっ
けっかん?!
けっか けっかん
け け け
けっけっけ
けっかんかんかん
けけけけ け
けっ
けつ
けっ
けつ
けっかんけつ
け
け
けっか
赤い空
詩「ハンバーグ美味しい」
ハンバーグ美味しい
焦げた雨の中でも
フライドポテト美味しい
溺れた涙の中でも
麻婆豆腐美味しい
傷口が発酵する中でも
ざるそば美味しい
飲みすぎた記憶がカサカサになっても
トマトパスタ美味しい
戸惑った記憶を混ぜて
あなたの人差し指をかじる今
時はたまにとても美味しい
あなたの小指を眺める今
未来もとても美味しい
詩「いつもこんにちは」
ぼくはまたいつか
触れたこともないカンカン帽を
都会の外れの古着屋で
手に取りながら思うのだ
ぼくはまたいつか
ぼくはまたいつか
帽子の手触りと街は
こぞって春を鳴らしている
喉にマックシェイクの質感
ぼくはまた いつか
ぼくはまたいつか
タワーの展望台で遠
くを見る親子を見ている時間にも
茎の間に生える蔓が絡まり
ぼくは またいつか
ぼくはまたいつか
旅人のような出で立ちの
東京都生まれ東
もう少ししたらまた書けるよ
詩「夕暮れは十五年後に見直す」
夕べに許された例がない
だから朝は涙に濡れている
コーヒーの湯気はもう出口がない
この部屋には空中も文字だらけだ
窓を開けている
ひとつ
毛布に包まりながら
下流の砂みたいに報告を
もう少しで息はとまる
だから聞いてくれないだろうか
ぼかす癖
氷菓子
季節外れの何もかもを
あなただからとうけとめて
冷蔵庫から卵を取り出す
わたしは
かたくなったスクランブルエッグ
弾みきらない会話
予想された
詩「ラテラル・デイ」
今日わたしが死ななかったなら
明日はスタバにラテ飲みにいこう
死ぬ予定があるの
特に ないよ
雪が降り続くだけ
そうやって親指と
薬指で話していた十二月は
静かな知らせを待って
少し表情を変えた
いや 変えた気がした
部屋のテレビからは
関係のない笑い声が
漏れ続けているため
密かな行為の連続は
能天気な雰囲気の中
わたしが死ななかった明日
能天気なラテは
煙り続けた
私が死んでしまった明日
詩「そうだねえ 冬」
滅びたのは ぼく
丁寧に編み込まれた布片
のこされたもの
そこらじゅうの窓辺では
だらしなく煙る水滴が
ワイパーによって薙ぎ払われていく
ぼくのTシャツみたいだ
擬音が入る余地もなく
きみの乳房を吸わせてほしい
指先から指先までで
ぼくらが歩いた日々をはかる
割れそうな爪が朝を呼ぶ
泣きそうなきみに生を還すが
毎朝起きれば大海が
まばたきの旅に花を添えた
そうだねえ 冬
心凍りつく 別れであった
詩「水槽は実に丁寧に清掃されている」
水槽は実に丁寧に清掃されている
呼吸を続けるわたしは
手の先から水になっていく
すう と
ぱら と
水槽は居心地が良かった
蛍光灯の明かりがわたしを
幾重にも折り重なり
通り越していった
端っこだけ手を繋いだ
しかしこの部屋には音がない
完ぺきな音響設備が
整っているというのに
(やれ歌ってやろうか)
そそのかされずとも 声は
また清掃される
また清掃される
わたしの番はここまでだ
唾でもは