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授業ナッジ①一斉授業をやめたワケ【行動経済学×学校教育】

「授業」のナッジについて、細かな仕組みやマインドを書きたいという欲を抑えながら、全5話でまとめていきたいと思います。


児童自立支援施設での衝撃

「児童自立支援施設」という施設をご存知でしょうか?

児童自立支援施設(じどうじりつしえんしせつ)とは、犯罪などの不良行為をしたりするおそれがある児童や、家庭環境等から生活指導を要する児童を入所または通所させ、必要な指導を行って自立を支援する児童福祉施設である。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

教師生活7年目、この児童自立支援施設内にある本校という場所に、異動を命じられました。

そこで、今まで上手くいっていた教師生活が全て打ち砕かれることになりました。
プライベートの話ができない、授業のみでの勝負の世界。素行の壁、学力の壁、認知機能の壁、生育歴の壁など、数えきれないほどの壁が立ち塞がりました。こちらが如何に教科の魅力を伝え、面白い授業をしようが、太刀打ちできない世界がそこにはありました。

まるで、それまでの全てが虚構であったかのように、自分の6年間を呪いました。

転職サイトを漁ったり、YouTuberになることを考えて機材を買い込んだり、真剣に退職を考えました。ストレスは溜まり続け、どうにかしようと毎朝5時に起き、好きな銭湯に通い、自律神経を整えるなど様々な工夫をしました。根本的な解決には至らないと自身でも分かっており、苦しい日々でした。

ナッジ・ブースト理論との出会い

壁にぶつかった私にヒントとなったのが、行動経済学の知見を活用したナッジ(nudge)、ブースト(boost)という概念でした。

ナッジとは、意思決定者に判断や意思決定を自由に行わせる余地を残しつつ、よりよいと考えられる選択を後押しするための工夫を指します。

ブーストとは、よりよい判断や意思決定を行うための力自体を高めるための工夫を指し、ナッジの後押しを意味します。

本校の生徒に「豊かに生きるため」「高校入試のため」「将来の自分のため」というよくある理由での学習の強制は一切通用しませんでした。

私なりの楽しく面白い一斉授業は、多くの子どもを学びに向かわせていたのかもしれませんが、何人かの子供を見捨てていたのかもしれないと、心から認めざるを得ませんでした。

そこで「生徒自身の学びの意志決定を尊重し、よりよい選択を後押しする」ナッジ・ブーストの理論を取り入れた授業を構成し、

自分の人生を自分で生きるための授業」を作ることにしました。

授業ナッジの設計(1つの観と5つの手立て)

西川純氏が提唱している『学び合い』を実践されていた先生からアドバイスをいただき、ナッジ理論を活用した授業を構築しました。

「3つの力」という観をベースに、5つの手立てで生徒をナッジします。
(本記事は中学校での実践ですが、小学校低学年、高学年でも実践しています)

1つの観

・3つの力
授業を通して「自分で考える力・協働する力・調整する力」という「3つの力」を身に付ける

5つの手立て

・授業の目的を明確にする「オリエンテーション」
年間全ての授業を通して「自分のしたいこと・望むことを叶えるため」に必要な「自分で考える力・協働する力・調整する力」の「3つの力」を養うことを説明する。(社会規範・損失回避・ブースト)

・自分の学び方と向き合うための「単元計画表」
自分と向き合って学習を進められるように「授業日」「該当する教科書のページ」「課題の内容」「評価基準」「提出課題と小テストの範囲」「単元テストに出題される補助教材の範囲」をまとめた計画表を単元の始めに配付する。(選択のアーキテクチャ・インセンティブ)

・ 自分と向き合う習慣をつける「板書の構造化」
基本的な授業の流れや授業で大切にしたいポイントを提示し、教師が必要以上に発言することなく学習活動に取り組めるような板書にする。(選択のアーキテクチャ・)

・ 他者と協働して課題を達成する「ワークシート」
課題をアウトプット型に設定し、他者と協働できるような「ワークシート」を作成する。(デフォルト・単純化)

・ 「自分の学び方」に着目した「3種類の振り返り」
「自分の学び方」をメタ認知できるように「毎時間の授業の振り返り」と「単元テスト」「定期テスト」の振り返りを繰り返し行う。また、タブレット端末で共有し、仲間の振り返り方を参考にしながら、自身の振り返りを改めて考える機会を設定する。(フィードバック・ブースト)

まとめ

児童自立支援施設での衝撃により、生ぬるかった自分中心の教育観は真正面から崩されました。今では「彼らの未来を心から応援するための授業」となり、卒業式で泣けなかった私が、算数の復習の授業で心を打たれ、泣いてしまうようになりました。

次回は実際のプリントを交えながら、それぞれの手立てについて詳しく解説していきます。

次の記事↓



そうじナッジ↓(これで掃除指導の悩みから救われました)

あいさつナッジ↓(ナッジの中で一番簡単かつ楽しいです)

サポートナッジ↓(課題のある子が自ら変わる、画期的なナッジです)


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