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【半自伝小説】放課後爆音少女

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みるきーうぇいのギターボーカル伊集院香織執筆、半自伝小説。 放課後の憂鬱は、爆音で掻き消せ。
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#バンド小説

【小説】放課後爆音少女 第一話「ピンク色の日々」

【小説】放課後爆音少女 第一話「ピンク色の日々」

桜の舞い散る中、私の恋は死んだ。

お花見ってもっと楽しいものじゃなかったっけ。暖かい陽だまりの中でお弁当とか持ち寄って。唐揚げの上に桜の花びらが乗って笑ったりするやつ。
そして夏が来て海に行って花火見るんじゃなかったっけ。
なんで一人で桜の花びら散るのを見て泣いてるんだろ。
ねえ、海は?白浜いきたいとか言ってたじゃん。
秋は紅葉とか見に行くんじゃないの?冬はバンプの曲みたいにポッケに手ぇ入れさせ

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【小説】放課後爆音少女 第二話「青すぎる空」

【小説】放課後爆音少女 第二話「青すぎる空」

空が白々しいほど青い。

あいつのウソくらい青い。青すぎる。
浮気がばれて真っ青になった優太の顔は、今思い出しても可哀想になるほど滑稽だった。人の震えてるとこなんか初めて見た。あれは、いいもんじゃないな。
人の嘘を見破るってもっと気持ちのいいことだと思ってた。実際に見破ってみると、ただ悲しくなるばかりだ。嘘の中で浸っている方がよほど気持ちがいい。
あんな風にくっきりと人の嘘に気づいたのは初めてだっ

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【小説】放課後爆音少女 第三話「オレンジ色の朝焼け」

【小説】放課後爆音少女 第三話「オレンジ色の朝焼け」

桜井くんはあの日からやたらと私に声をかけてくるようになった。
日直の仕事を手伝ってだの、昨日のテレビ番組見た?だの、事あるごとに私に話しかける。クラスメイト達は私たちを、あの二人もしかしてデキてるのか…と好奇の目で見ていた。しかし私が桜井くんに対してあまりにも冷たい態度を取るので、1日と持たずに、私たちに興味を無くした。

お昼休み、桜井くんがまた私の机の方向に来る。

「なあ、数学のノート見せて

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【小説】放課後爆音少女 第四話「黒いアイスコーヒー」

【小説】放課後爆音少女 第四話「黒いアイスコーヒー」

スタジオ練習を終えて、私達はファミレスで決起会と称した腹ごしらえにやってきた。

スタジオ練習を終えたと言っても、私は見学していただけだ。桜井くん以外は私の歌を聴いたこともないはずだけど、私のバンド加入を喜んでさっきからずっとニコニコしている。私でちゃんと務まるのだろうか。二人にがっかりされないか、少し不安だ。

ドリンクバーを注文し、私はオレンジジュース、健太くんと中原くんはメロンソーダ、桜井く

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【小説】放課後爆音少女 第五話「赤い指先」

【小説】放課後爆音少女 第五話「赤い指先」

5月に入り、今日は初めてのスタジオ練習の日だ。緊張してしまう。足が重い。
軽音楽部の時もそうだったけど、私は凄くあがり症だ。
初めての曲を合わせるときはいつも胃が少し痛いし足がすくむ。まず中原くんと健太くんに初めて歌声を聞かれることが怖い。

私は二人の期待に添えられるだろうか。好きな歌声じゃなかったり、単純に下手だと思われたらどうしよう。
桜井くんは心配ないと言うけど私は怖い。人の期待に応えられ

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【小説】放課後爆音少女 第六話「白い日焼け止め」

【小説】放課後爆音少女 第六話「白い日焼け止め」

あれから1週間が経ち、今日は二度目のスタジオ練習だ。
そして、中間テストの日でもある。

この一週間、私はテスト勉強に全く手をつけないまま、ギターの練習に明け暮れてしまった。ええい、ままよ。どうにでもなれ、と投げやりな気持ちで学校までの道のりを歩く。

五月も中旬に入り、少しずつ日差しが強くなってきているのが分かる。制服のブラウスが、半袖の子も増え始めて季節の移り変わりを感じる。
私も今日は半袖だ

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【小説】放課後爆音少女 第七話「栗色の髪」

【小説】放課後爆音少女 第七話「栗色の髪」

影山先輩と愛子の後ろ姿を、私は呆然と眺めていた。
影山先輩の綺麗な茶色の髪。そして愛子の栗色に透ける髪。
お似合いだと感じたし、そう感じた自分が腹立だしい。

肩まで伸びた愛子の髪は、初夏の風に吹かれて、サラサラと靡いている。
陽の光に照らされると透けて見える愛子の髪は、より一層茶色く、艶めいて見える。
女の私から見ても、触ってみたくなる髪。
私の髪は生まれつきの癖毛で、度重なるヘアアイロンに耐え

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【小説】放課後爆音少女 第八話「紫のアジサイ」

【小説】放課後爆音少女 第八話「紫のアジサイ」

六月に入り、少しずつ梅雨の気配が近づいてきた。
三回目のスタジオ練習のために、私は桜井くんと学校からスタジオまでの道のりを歩いていたが、ジメジメとした気候のせいで、ただ歩いているだけで額に汗が滲んでくる。

しかも、ギターが重い。ギターを背負っていると、一歩一歩、歩くごとにギターの重みが肩にのしかかり、筋肉が強張るのを感じる。
でも、私は不思議と、重いギターを背負ってスタジオに向かうこの時間が嫌い

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【小説】放課後爆音少女 第九話「水色の月」

【小説】放課後爆音少女 第九話「水色の月」

ミルキーウェイの初ライブ前日。私たちはライブ前最後の練習のために、スタジオ「クレイジーバード」で練習に励んでいた。
桜井くんが、ドラムとベースのリズムに注文をつける。

「健太、最後の曲は、少しテンポを緩めてほしい。ちょっと走ってる。あと、中原のベースは逆にもうちょっと勢いがあってもいい。」

二人はすぐに頷く。じゃあもう一度、と桜井くんが言い、テンポの確認をする。
ドラムとベースのリズムが噛み合

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【小説】放課後爆音少女 あとがき

【小説】放課後爆音少女 あとがき

この「放課後爆音少女」という小説は、私、伊集院香織が
「みるきーうぇい」というバンドをやってきて感じたことを書き留めた、半自伝小説です。

悔しかったことも、悲しかったことも、嫉妬に狂ったあの日のことも、それを上書きしてくれた人がいたことも。全部本当にあったことです。

小さい頃から、ずっと小説を書いてみたくて、小説家は私の一つの夢でした。でもなかなか勇気が出なくて、やれ時間がないとか、やれバンド

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