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2021年ブックレビュー『星の子』(今村夏子著)

芥川賞受賞作の「むらさきのスカートの女」を読んで以来、今村夏子さんのファンになった。読みやすくて、なんだかおかしい、クスッと笑ってしまう「書き味」が好きだ。芦田愛菜ちゃん主演で映画にもなった「星の子」(大森立嗣監督)も、「むらさきのスカートの女」と同様のおかしみと一抹の哀しみが魅力的な作品だ。

中学生のちひろは幼い頃、病弱だった。藁にもすがりたい両親は、あやしげな新興宗教にのめり込む。ちひろが成長し、健康になっても、親戚たちから総スカンを食らっても、信仰心は募るばかり。「金星のめぐみ」という神水(?)で浸したタオルを頭にのっける健康法(?)というか、儀式をやめない。そんな家庭を嫌になり、姉のまーちゃんは家出する。

ちひろは、学校でも変な宗教の信者として特別な目で見られている。ただ、宗教が主催するイベントや集まりには参加して楽しんでいる。そんなある日、ちひろはイケメン教師の南先生に恋をする…。

文庫本の巻末には、今村さんと小川洋子さんの対談が加えられていて、多くの気付きがあった。小川さんも指摘しているが、今村さんの小説には平易な読みやすい文章の中に、「暴力が潜んでいるところがある」(小川さん)というのだ。その代表例は、南先生が教室の生徒たちの目の前でちひろに、彼女の家庭が信仰している宗教を全否定するシーンだ。大人が抱く偏見や残忍さが、刃物のような鋭さで読者に迫ってくる。

ちひろが両親と流れ星を眺めるラストシーンも、読者の間では解釈が分かれるようだ。幸せそうで温かい希望のあるシーンと見る人がいる一方で、小川さんのように不穏さや、不安な要素を嗅ぎ取ってしまう読者もいる。

私も後者だけれど、今村さんの物語にはそういった解釈の幅の広さ、というか深さというか…それが魅力なんだろうな。

「むらさきのスカートの女」の感想はこちら↓




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