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2021年ブックレビュー『ののはな通信』(三浦しをん著)

三浦しをんさんは、好きなエンターテインメント小説家の1人だ。箱根駅伝を題材にした「風が強く吹いている」はとても好きだった。何て表現したらいいのか迷うのだけど、「エモさ」がわざとらしくなくて私には心地よい。



「ののはな通信」は、ミッション系の高校に通う女の子2人の手紙のやりとりだけで物語が進む。その2人とは、庶民的な家庭で育ったクールな野々原茜(のの)と外交官の父を持つ天真爛漫な牧田はな。とてつもなく仲良しのののとはなは、毎日のように手紙をやりとりしている。やがて友情(と思っていた感情)が恋愛へと移り、「恋人同士」に。濃厚な絆で結ばれたかに見えたののとはなは、ある事件をきっかけに別れてしまう。

その後、大学生になったののとはなは再び、手紙のやりとりを始める。ののは年上の女性と同棲しており、はなは父と同じ外交官の磯崎と結婚を前提としての交際を始める。青春時代のただ中にある2人は、魂と魂が結び付き合ったかけがえのない存在と認め合いつつも、お互いの恋愛を打ち明けるなど本音をさらけ出す。やがて、はなが磯崎と結婚したのをきっかけに2人のやりとりは、途絶える。昭和の終わりとともに。

文通(メール)が再び始まるのは平成の時代。2人は40代になっている。ののはフラーライターとして自立し、はなは政情不安なアフリカの小国・ゾンダの大使夫人になっている。はなはののに、ある決意を打ち明けるー。

女性2人の往復書簡がとても濃密だ。心の動きを咀嚼して事細かに相手に伝えながら、成長していくののとはな。2人は40代になると、恋愛感情とか友情を超えたもっと深い境地にたどりついたかに思える。たとえ会えなくても、一緒にいなくても共に「ある」という感情だ。究極の人間関係といえるのかもしれない。

また、手紙文だけの小説というのもいいものだなと感じる。ののとはなが共有した時間は、お互いの手紙の中で思い出として語られる。リアルタイムでないからこその「余白」が生まれ、想像力をかきたてられる。過去の恋愛なども、磨かれ研ぎ澄まされて相手に伝わる。何だか、文学上の新たな発見をしたような気分だ。


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