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人々との対話を通して課題とプロダクトへの解像度をあげる

先週末、とある大学にてリーンスタートアップについて講義する機会がありました。対象は起業に興味のある学生さんたち。と言っても、具体的なアイディアがあったり、あるいは既に事業を開始しているような人ばかりではなく、なんとなく起業したい、こんな分野に興味がある、という参加者も多い感じでした。

参加者層を確認させて頂いた結果、リーンスタートアップの理論や手順について講義するよりも、メッセージを絞って伝えたほうが良いだろうと考え「とにかく人と話をすることが大事」ということを強調してお伝えしました。

人と話をするのが大事って、当たり前のことじゃん?って思われるかもしれないのですが、リーンスタートアップだけではなく、デザイン思考やスクラムなど、2020年現在のプロダクト開発で主流となっているプロダクト開発の方法では、いずれも顧客との対話を重視しています。

それにも関わらず、プロダクトを作る人たちにとって、人々との対話がそこまで重要視されていないように感じます。もちろん、顧客との対話と言っても、ただ誰かと話をすれば良いというものではありません。ちゃちゃっと身の回りにの人に話を聞くことに価値が無いとは言いませんが、これでは不十分です。目的をもって正しく対話することが必要です。これがどういうことか、ちょっと言語化にトライしつつnoteに書いてみようかなと思います。

リーンスタートアップについておさらい

そもそもリーンスタートアップという考え方自体は、目新しいものではありません。エリック・リースの「リーンスタートアップ」やアッシュ・マウリャの「Running Lean」が発売されたのが2011年(日本での発売は2012年)ですし、そもそものオリジナルとなる考え方は2008年頃からからエリック・リースのブログにて紹介されているので、既に10年以上が経過していることになります。

リーンスタートアップ本が発売された当時から大きな話題を呼び、大企業で新規事業に関わる人々や、スタートアップ界隈の人々の間では、(実践できているかどうかは別として)リーンスタートアップは事業創出の方法として常識として定着するまで一瞬だったように思います。

とはいえ、名前だけは知っているけれど、リーンスタートアップの中身まで理解している人はそこまで多くはないのが実情だったりもするわけです。なんとなくこの方法が良いらしいぞ、と言いつつ中身までは詳細にしらないとか。「リーンキャンバスっていうのを書くんでしょ?」「まずはMVP(Minimum Viable Product)を作って仮説検証するんだよね?」のように印象的なキーワードを軸に理解していたりとか。

もちろん、これがダメって言うつもりはありません。必ずしもすべての職場で、リーンスタートアップやRunning Leanで紹介されているような手法、つまりカスタマープロブラムフィット(CPF)をして、プロブレムソリューションフィット(PSF)をして、プロダクトマーケットフィット(PMF)をして、のように綺麗なプロセスで事業立上ができるわけではないし、それぞれのキーワードにもとづきリーンスタートアップのエッセンスだけでも仕事のすすめ方に取り入れることができれば、それはとても良いことだと思うからです。

とはいえ、これら結局すべて根っこは同じなんですよね。

リーンキャンバスでプロダクトの全体像を描く

リーンスタートアップでは下記の図のようなリーンキャンバスと呼ばれる図を用いて、プロダクトの全体像を描いていきます。9つのマスから構成されるそれぞれの資格に顧客セグメントや課題等を記入してくわけです。

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リーンキャンバスを作ることで自分たちの考えてるプロダクトが誰を対象としているのか、どのような価値を解決しようとしているのか、競合は誰なのか、そもそもプロダクトの魅力はどのようなものなのか、コストや収益モデルはどうなってるのかなど、ビジネスモデルを検討する上で考慮しなければならない様々なことを簡潔に可視化できます。可視化することでディスカッションが容易になるし、何が大事なのか、あるいは何が検討から漏れているのかを容易に発見できるようになるわけです。

そしてここに記述された情報をもと、対象とする顧客や、顧客が抱えている課題、あるいはそこに対するソリューションが適切かどうかを確認していくわけです。検証する順番もリスクが大きい順番として定められていて、プロダクトを作る前に、自分たちが目指すべき方向が正しいかどうかを見定めて、プロダクト開発のリスクを下げることができます。

MVPを作ってプロダクトを検証する

MVP(Minimum Viable Product)についても同様で、いきなりフルスペックのプロダクトを作るのではなく、最低限の価値を提供できるレベルのプロダクトを作って顧客に提供することによって、自分たちの向かおうとする方向が正しいかどうかを検証しましょう、というものです。

MVPを説明する図としては下記の図が有名だと思います。上の図は、ダメな例です。自動車を作るにあたってタイヤやシャーシのみでは、顧客に価値を提供できません。このような流れでプロダクトを作っていくと、自動車としての製品ができあがるのは4つ目のステップです。つまり、この段階まできて初めて、作ったものが顧客にとって価値があるかどうかを検証できるんですよね。

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一方で下の図では、スケボーからはじまり、キックボード、自転車、バイク、自動車と少しずつではあるものの最終的なプロダクトに近づいています。スケボーは自動車としては使えませんが、移動に使用することはできます。顧客がどのような課題を抱えているか次第ではあるものの、A地点からB地点へと移動したいというニーズを満たすためのソリューションとしては、これでも最低限の役割を果たすことができるかもしれません。一方で、引っ越しで大きな荷物を運びたいというニーズの解決を試みるのであれば、これはあまり価値のあるソリューションとは言えないかもしれません。MVPを検討するときは顧客が誰か、顧客が抱える課題はなにか、そしてどのような解決方法が適切かを捉える必要があり、狙うべき対象によって「適切なMVP」が異なります。

上記とほとんど同じ内容ですが、下記のように示す事もできます。最終的なプロダクトがピラミッドの全体を満たすようなものだったして、ボトムから順番に、プロダクトを作り込んでもユーザーに価値は提供できません。それよりも最低限で良いので、ピラミッドを縦に捉え、顧客に何らかの価値を提供することを試みるべきだと言っています。

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しかし、なぜこのようにまどろっこしいことをするのでしょうか。最終的に作るものが自動車であるのであれば、途中でバイクを作ったり、自転車を作ったり、スケボーを作ったりするのは遠回りとなってしまう可能性があります。だけど、そもそも顧客が求めているのは本当に自動車なのだろうか?ということです。高度成長期のように、顧客が欲しい物が予めわかっているのであれば、自動車を作って提供するというゴールのために最短ルートで突き進むのが最適だった可能性もありますが、現代では不確実性の高い時代とも言われていて顧客が欲しい物を簡単に予測することができません。自動車を作ってから「僕が欲しいのはこういうのじゃないんだよね」なんて言われてしまうと手戻りが大きすぎます。

人々を理解することの重要性が高まっている

リーンスタートアップの方法論の中ではリーンキャンバスもMVPを仮説検証をするための文脈で説明されることが多いです。前述したように、カスタマープロブラムフィット(CPF)をして、プロブレムソリューションフィット(PSF)をして、プロダクトマーケットフィット(PMF)をする。言い換えればお客さんが課題を持っているかどうかを確認して、その課題に対するソリューションが適切かどうかを確認する。そしてソリューションが市場に受け入れられるかどうかを確認します。

だけどこれらは見方を変えると「人々について理解するためのツール」として捉える事もできます。人々がどういった課題を持っているかを確認し、人々にとって価値のある解決方法を確認し、人々に受け入れられる状態を見つけ出す。そしてそのために重要なことは、顧客と話をすること。まずは何をおいても人々を話をしないことには始まらないし、リーンスタートアップのキモはこの部分ではないかと思うのです。

デザイン思考やスクラムでもこの重要性は変わらず

そういえば最近のプロダクトづくりの方法論、リーンスタートアップに限らず、デザイン思考やスクラム開発手法でも、人々を理解することに重きを置いていますよね。デザイン思考については、様々な流派があるけどスタンフォードのいわゆるFive Stepsでは下記の図で示すようにEmpathize(共感)やTest(評価)がひとつの項目として存在するため、そもそも人と話をしないと始まらない。ということは説明するまでもないかなと思います。

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意外に思われるのはスクラムについて。スクラムの場合、チームの中にスクラムオーナーと呼ばれる担当者を置くことが求められるのだけど、このスクラームマスターについては工数の半分を顧客やステークホルダーと過ごすことが求められています。つまり、チームの中で淡々と作業していればよいわけではなく、顧客やステークホルダー、つまりチーム外の人と会って、彼らが何を考えているのか、プロダクトに何を求めているのかを理解しなければなりません。

現在のプロダクト開発で主流となっているリーンスタートアップ、デザイン思考、スクラム、いずれにしても顧客との対話を重視している。いやまぁそりゃそうでしょって思われるかもしれないのだけれど、それぞれ別の文脈で語られることの多い手法たちが、どれも同じ哲学を持っているというのはそれだけ人々との対話に価値があるということでもあると思うのです。

それにも関わらず、私がこれまで見てきた限りでは、人々を話をすることを避けようとする人は結構多いんですよね。あるいは友達など身の回りの人にアイディアを簡単に共有して仮説検証完了、としてしまう場合も結構あったりします。また、顧客は自分だ!と言い張って他の顧客と対話しないケースも見受けられます。これはつまり、プロダクトを作る人たちにとって、人々との対話がそこまで重要視されていない事がある、ということでもあり、非常にもったいないなと感じています。

人々と対話することで解像度をあげていく

人と対話することで何が良いのか?これについて私は、プロダクトに対する解像度が上がる、と表現する事が多いです。多くの場合、プエジェクト開始時点で、プロダクトのアイディアは比較的ざっくりしていることが多いです。

さすがにあまりにもざっくりした状態で顧客と話をしても仕方がないので、もう少し頑張ってリーンキャンバスを埋めるのですけど、自分だけで、あるいはチームで頭を捻っても、ある一定以上に解像度を高めることが難しいんだろうなと感じることが多いです。

ひとつは、アイディアが膨らみ過ぎて絞れないパターン。プロダクトのビジョンが壮大になってしまい、あれもこれもできるとなっている状態。大きな絵を描くことを否定するわけではないのですが、一番のコアとなる機能ってどれだっけ?一番提供したい価値ってなんだっけ?と絞れなくなっていまうパターンが見受けられるように思うのです。

もうひとつは顧客の行動、顧客の考えを知らないためにアイディアが抽象的なままになってしまうパターン。○○なアプリを作るというアイディアまではある。解決したい課題や提供する価値についてもなんとなく記述してあるのだけれど、いまいち抽象度が高い。というパターンに遭遇することがあります。

もちろん上記の複合パターンもあるわけですが、機能という観点から言うとMVPの説明でもあげた通り、まずは一本縦に、一番クリティカルな(かつ現実的なコストで解決できそうな)課題に対してソリューションを提供していくことが重要です。これ、チームで話をしていてもなかなか話が進まないんですよね。そういうパターンでは顧客にヒアリングするのがプロジェクトが動き出したりします。顧客が抱えている課題に対する解像度が上がるというのもそうですし、目の前に居る特定の人を意識するようになります。注意しなければいけないのは、これはいわゆるペルソナとは異なるということ。ペルソナはあくまでも顧客像のようなもので、現実に存在する顧客ではないのです。あくまでもひとりひとりと対話し、彼らの課題を理解することが重要です。

もちろん、ただ話を聞けば良いというわけではなく、正しく準備をして正しくインタビューをして、正しく分析することが必要なので、ただ話を聞けば良いというものではありません。とはいえこの解像度があがるという体験、インタビューをしたことがない人は結構甘く見ていたりするのだけど、一度インタビューすると、そこから得られる情報量や有用性に圧倒されたりもします。

おわりに

人々との対話の重要性、これは現代のプロダクト作りにおいて必要不可欠なことで、正しいプロダクトを作るための協力なな武器となります。冒頭であげた大学生向けの講義の中でも、とにかく人と話をすることが大切だよということを念入りにお伝えしました。

対話を通して人々が抱える課題やニーズ、そしてプロダクトそのものや社会に対する解像度を高めることは、チームが次に何をすべきかを整理するうえで役立ちます。12月に、もう一度彼らと話をする機会があるのですが、その時までのどれぐらい顧客との対話を重ねているか。非常に楽しみです。

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私が代表を務めるアンカーデザイン株式会社では、スタートアップのプロダクト開発や、大企業の新規事業創出の支援を行っております。デザインに関する研修、各種リサーチ、プロトタイピング、各種デザインなど、お気軽にお問い合わせください。


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