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トラウマとの付き合い方

人生の駒を先に進めようとすると「ここから先へはどうしても進めない」という領域が出てくることがある。
歌や表現なんかでいうと、自分の心の壁を壊すべき時。
その時ってきっと「今までのやり方ではどうにもこうにもならない」というタイミングなのだと思う。
そんな瞬間についに対峙してしまい、もうどうしたら良いかわからない!とお手上げ状態のシンガーを見ることは少なくない。
心配はしつつも、自分の仕事はその部分とまさに対峙させることだと思ってるので「頑張れ。乗り越えられる」というエールを心の底から送ってる。いつも。

さて。
人生のラスボスとの対峙も思えるそのタイミング。
みなさんは経験したことがありますか?

その先の自分が想像できず、足がすくんで震えてしまう。
「果たして自分は越えられるのだろうか」と不安ばかりが先立ち、もらった助言すら素直に聞けなくなってしまう。
自分への自信の貯金も底をついて、なにをしていても、誰といても満足できない。果たして自分がやりたいのはこの道だろうか?
と、自問自答してしまう夜は数えきれない。

この問いの答えは?


そういうモードになる時、それは人生のステージアップのタイミングでもある。新しい自分に生まれ変わる脱皮の時期ともいうかも。
とにかく。

未知の領域。


そんな時どうすればいいか。
答えは「手放すこと」


なにを?


「考えることを」
「選択することを」


健在意識の中で生まれるジャッジは、今まで自分が生きてきたことの習慣からなる。そしてそれは時々頭でっかちの思考を生む。

コンパスがくるくるくるくる回って北を指さなくなったのならば、そこは未知の領域。
まずは考えることを手放し、ただ流れに委ねてみると良い。
あるがままの自分に目を向け、刻の小川をたゆたう船に乗る。
身を任せ、思考を手放し、自分が守られていること、安全であるということをただ感じる。ジャッジをしない。
ゆったりとそこに在るだけでいい。


そうして気がつくと、扉の前に立たされている。
自分の体の何十倍もある重厚な扉。
「この扉を開けたらネクストステージだよ」って、大きな扉の前に立っているあなたの使い魔が、気楽な声で話しかけてくる。

「了解!この扉を開けたら良いのね!」
と両手を添えて扉を開けようとするんだけど、しかし驚くほど重くて開かない。
「なにこれ」ともう一度、さっきの倍ほどの力をかけても一向に開かない。

まいったな。
なんだこれ。

しばらくは同じ方法で開けようとするけれど、どうせびくともしない扉を前に「あぁ開かないんだ」と実感して途方に暮れる。

太陽が落ち、辺りが暗くなる。
この空間には街頭もなくて、人の声もしない。

暗い、闇。
音のない、世界。

急に寂しくなって涙が止まらなくなる。
次から次へと頬をつたって溢れてくる。

普段は人なんて信じてないのに、必要としてないのに。
こんな時だけ寂しくなるなんて。
人を必要とするなんて。

なんでなのって自分に腹が立ってくる。
勢いに任せて叫び声を上げた。

苛立ちの声は漆黒の闇にただ反響するだけで、答えは教えてくれない。

翌朝になってまた開けようとするけどやっぱり扉は開かない。
そんな日々を数週間、数ヶ月、数年繰り返し。
諦めかけた時にどこからか声がした。


「あなたの中に在る、本当のあなたの声を聞いて」

「わからない。どうすれば聞ける?」

「ただ耳をすませば良い。あるがまま聞こえてきた言葉を受け止めて」


その声を聞くことにも数日かかった。
聞こえないことにまた苛立ち、寂しくなり、どうせ自分には無理だ、どうせ自分はここ止まりだ、と悪態をつく。
それを繰り返し繰り返し、やっと聞こえてきた言葉。

最初は聞き取れなかった。
いや、認めたくなかったのかも。
でも、久しぶりに聞こえてきた声を聞いて、体の奥から熱くなってきた。

それは自分が、もう何年も、何十年も前に封印した声だったから。誰にも見つからないように記憶の宝箱に鍵をして封印した。

その宝箱から聞こえてきた声。

忘れかけていた光景が目の前に鮮やかに広がる。

声は、優しく語りかけてきた。


「私はあなた。ずっとここにいたよ」

「傷ついた私を否定しないで。遠ざけないで」

「愛されなかった私を隠さないで」

「もっと私を愛して。私を受け入れて」


「この先、私はあなたを守る盾にはなれないでしょう。でも誰かを救う盾になれるかもしれない。同じ体験をして苦しんでいる人たち、今にも自分を傷つけている人たちに私の声を届けて」



モノクロだった記憶の景色がだんだんとカラーになっていく。


苦しかったんだ。
寂しかったんだ。
ずっと叫んでたのに、聞こえないふりをしてた。

聞いちゃうと自分が折れちゃいそうだったから。

私はアナタ。
アナタは私。


辛い過去を閉じ込めた時に、私はアナタのことも閉じ込めたんだ。
思い出したくなかった。
誰にも知られたくなかった。

あの日から私は『私』になった。


でも、アナタは私だから。
アナタの記憶は絶対に消すことはできないよね。
アナタは私だから。
これからも一生一緒に生きてくんだよね。

アナタのことを隠してしまったのは、
知られたくなかったから。
嫌われるのが怖くて。失望されるのが怖くて。

でもそれは、本当の私ではないよね。

今までの過去を全部、私のことだと認めて、
隠さずに、ありのままの自分でいること。
偽らずに、恐れずに、ありのままの自分をさらけ出すこと。


人の目は怖い。
ジャッジされる音は怖い。

でも。
だから偽るのは違う。

今まで気づかなくてごめん。
一人ぼっちにさせてごめん。
寂しい思いさせてごめん。
苦しみを全て背負わせてごめん。

これからは一緒にいよう。
ずっと一緒にいよう。

私が、


私であるために。


扉は、私の中に在った。



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