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子どもの心に種をまく。そらいろのたね

子どもを育てることは、「種まき」に似ていると思うことがあります。

いろんな色やかたち、大きさの種を「これは何の種だろう」「芽が出るかな」とワクワクしながら、ふかふかの土にひとつひとつ蒔いていく。

きっと、芽が出ない種もあるでしょう。

いつか成長して花を咲かせるとしても、もしかすると何十年も先、お母さんである私の寿命が尽きた後かもしれません。

それでも、やっぱり種をまくことは楽しいのです。

それは未来を想うこと。小さな種のひとつひとつが「希望」につながっているから。

   ♪

次男の保育園で、劇あそびの発表会がありました。

息子のクラスの演目は「そらいろのたね」。

中川 李枝子さん&大村 百合子さんコンビの名作です。

ゆうじが模型飛行機を飛ばしていると、きつねがやってきて「そらいろのたね」と模型飛行機を交換することになりました。そらいろのたねを植えて水をやると、なんと空色の家が生えてきたではありませんか! 空色の家はみるみるうちに大きくなり、たくさんの動物や鳥や子どもたちの楽しい遊び場になります。しかし再びやってきたきつねが、みんなを追い出して空色の家を独り占めしてしまいます。きつねが家にはいると、空色の家はさらに大きくなって……。(福音館書店公式サイトより)

※以下、ネタバレを含みます※

原作では、きつねはいじわるなまま、お話が終わってしまいます。

だけど息子のクラスでは「ほんとうに、きつねはみんなにいじわるをしたままでいいのかな」と話し合って、新しい結末をみんなで考えたのだそう。

私と夫は事前に原作を読んで予習していたので、「どんなラストになるのかな」と展開を楽しみに見ていました。

わが家の息子は、きつねの役。

いじわるをして、ほかの動物たちを空色の家から追い出してしまいます。

空色の家が消えてなくなってしまうのも、原作の通り。

そしてこの後がオリジナルです。

   ♪

森の動物たちに責められたきつねは「ほんとうは、ぼくもみんなと一緒に遊びたかったんだ」と本音をもらします。

「実はぼく、もうひとつそらいろのたねを持っているんだ」と言って、肩にさげたポシェットから、おもむろに新しい種を取り出すきつね。

そして、「今度はみんなで一緒に育ててみない?」と動物たちに持ちかけるのです。

   ♪

それまで「子どもたち、一生けんめいがんばってかわいいなあ」とほのぼのした気持ちで見ていたのですが、最後のセリフにぐっときてしまいました。

素敵なものを独り占めしたい気持ちは、誰の心にもあります。

周りの人と豊かさをうまく分かち合えなくて、やさしくなれず距離ができてしまう経験は、子どもにかぎらず、いくつになっても起こるもの。

そんなとき、自分の失敗を認めて、「ごめんね」「本当は一緒に楽しみたかったんだ」と気持ちを素直に伝えること。

そして、自分が持っている豊かさの種を周囲の人にシェアすることは、大人になると、余計に勇気がいることだと思うのです。

   ♪

子どもの毎日は、大人よりもずっと色彩が多くて濃密だから、みんなで「そらいろのたね」の劇をしたことも、話し合って新しい結末を考えたことも、だんだん忘れてしまうかもしれません。

でも、ポシェットから新しい種を取り出してみんなでやさしさを分け合った光景は、表の記憶から消えても、きっと子どもたちの心の奥の、ふかふかの土壌にちゃんと根付いていると思うのです。

いつか、大きくなった彼ら彼女たちがピンチに陥ったとき、大きな木に育ったその種が、ふわっと揺れていい匂いの風を吹かせてくれる。一歩踏み出す勇気をくれるのではないでしょうか。

そんなことをいろいろに考えていたら、子どもたちの健気さもあいまって涙が。

成長した子どもたちが、転んでも失敗しても涙を流さなくなる分、お母さんという生き物は年々涙もろくなるようです。

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この大変な状況下、消毒やクラスごとの入れ替え制などさまざまな感染対策を駆使しながら、子どもにとっても親にとっても成長できる機会をつくってくれた保育園の先生方に、感謝のひとときでした。


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