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静寂の庭ー内なる風景との対話

いつからだろう。

心の中に、風景を置くようになった。

緊張したとき、動揺したとき、お風呂に入るとき、眠りに落ちる直前。
目を閉じて、自分の意識をありんこみたいに小さく小さくして、心の奥の、一番深いところに潜っていく。

そこには私しか知らない、緑豊かな秘密基地みたいな場所が広がっている。

基地の景色は、時期によって少しずつ違う。

あるときは、青い森。こんこんと湧き出る泉があって、白い馬がいる、東山魁夷の絵みたいな場所。

また別のときには、人里離れた太古の森。屋久島の、白谷雲水峡のような風景。

私ひとりしかいない、静かな空間で深呼吸していると、気持ちの波が鎮まる。
迷ったり、悩んだりしていることの答えが、ふと見えるときもある。

この場所はいったい何なんだろうと以前からぼんやり考えていて、最近、ぴったりの本に出会った。

禅のお坊さんで、庭園デザイナーでもある枡野俊明さんの『心に美しい庭をつくりなさい。』(講談社)

自分の心のままに庭を思い描くと、そのときどきの心が風景として映し出され、ありのままの心がわかると枡野さん。
心の庭と向き合うことで、坐禅をするように、姿勢や呼吸、心を整えることができるのだそう。
庭にたたずむと、ひらめきがやってきたり、集中力が生まれたり、動揺や緊張がほぐれたりするのだとか。

ふむふむと読み進めながら、ふと気づく。

私が毎晩降りていたあの場所は「心の庭」だったんだ、と。

今の自分が心に持ちたい庭を、あらためて思い描いてみる。
お茶室の庭みたいに小ぢんまりして、地面はふかふかの苔に覆われているのがいい。
春は梅、初夏は山紫陽花、秋は紅葉が美しい。
小さな川が流れ、水琴窟があると、なおうれしい。

イメージの中で苔の手入れをしたり、落ち葉を掃除したり、目を瞑って水音に耳を澄ませたりしていると、心が満たされていくのを感じる。

忙しいとき、焦っているとき、ついイライラしてしまうときこそ、心の庭が荒れていないか、深呼吸して向き合う時間を持ちたい。

唐招提寺

トップ画像:西芳寺


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