学校とキャリア教育:「傾聴」トレーニングの必要性
傾聴とは何なのか
教職課程には「教育相談論」(あるいはそれに準じる科目)があります。これは、教育現場でのカウンセリングの理論や手法に関するものです。
カウンセリングに必要なスキルとして、しばしば「傾聴」というキーワードが挙げられます。辞書には「傾聴」とは「聞きもらすまいとして熱心に聞くこと」として定義されています。
しかし、「傾聴」という言葉を定義するのは簡単ですが、実行するのはとても難しいのです。
<面倒なら次項は読み飛ばしても問題ありません。「傾聴」の背景を少し詳しく読みたい方は次項もお読み下さい>
カール・ロジャースの理論
「傾聴」という言葉は、アメリカの心理学者カール・ロジャースのカウンセリング理論から生まれた。ロジャースは、カウンセリングの歴史の中で欠かす事の出来ない人物であり、「教育相談論」の教科書にも必ず登場する。
ロジャースの理論の前提には、人間には生来自ら主体的に成長する力が備わっているという考えがある。「こうあるべき」というステレオタイプに自分を当てはめるのではなく、あるがままの自分を生きて成長することが大切であると説いた。
ロジャースは「よい人生」を送ることは、自分を信頼する術を学ぶことだと言っている。自分を信頼するためには、自分の価値を理解する必要がある。しかし、自分の価値は自ら見つけるものであり、誰かに決めてもらうものではない。とはいえ、自ら見つけるのは簡単ではない。そこで登場するのがカウンセラーである。カウンセラーの役割は、クライアントが自ら自分の価値を見つけるための手助けだ。これは、カウンセラー主導で行われていたロジャース以前の心理療法とは一線を画する。
カウンセラーは、どうやってクライアントが主体的に自分の価値を見出せるように手助けをするのだろうか。カウンセラーは、クライアントの経験を聴く。経験は人格形成に大きな影響を与えるとロジャースは言う。経験の中からクライエントの価値観が徐々に見えてくる。では、どうやったら経験を聴けるのだろうか。ここで必要になるのが傾聴である。
ロジャースは傾聴の三原則を掲げている。
○ 無条件の肯定的配慮
○ 共感的理解
○ 自己一致
ここでは各項目を確認することはしないが、興味があれば是非調べられると良いと思う。
傾聴は一朝一夕にはできない
「傾聴」するためには何が必要なのでしょうか。「傾聴」という言葉を生み出したカール・ロジャースの理論から解釈すると次のことが言えます。
○ 相手のあるがままを全て肯定的に受け入れること
○ 相手の立場で、あたかも自分事のように感じること
○ 自分を見失わず、相手に対して常に誠実であること
「そんな当たり前のこと、いつもやっている」と思われる方も多いかもしれません。私も思っていました。しかし、「傾聴」という行為は思っている以上に難しいのです。
私は、カウンセリングの研修に行って、初めてこの難しさを実感しました。自分の興味を満足させるための質問を投げかけていたり、相手の気持ちに十分に寄り添わずに一歩も二歩も先に進んでしまっていたり、自分の経験談を語ってしまったり...今までいかに表面的に相手の話を受け止めていたのか、理解したつもりになっていたのかに気づかされました。
なぜ教員に傾聴が必要なのか
キャリア選択を考える上で必要なことは、自分の軸を持っていることです。その自分の軸を見出す支援をすることが、今後教師に求められていく役割だと感じています。
自分の軸がある人はブレない。例え転ぶことがあっても、自分で起き上がる術を知っている。例えばリンダ・グラットンの「LIFE SHIFT」に描かれているように、従来の3ステージ制の人生は揺らぎ始めています。今後は沢山の選択の機会に遭遇することになると考えられます。その時に選択を助けてくれるのは、自分の軸です。
そして、もし教師自身が自分の価値感を見出せていないのであれば、早急にそれを見出せるような支援が与えられるべきです。なぜなら、傾聴には自分という人間を理解していることが必要なのです。
そして、再三申し上げた通り、理論だけでは傾聴を体験することは難しい。実際に取り組んでみて、第三者からフィードバックをもらう機会を設けられることが望ましいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?