見出し画像

しゃぼん玉

乃南アサさん著『しゃぼん玉』を読み終わった。

犯罪に手を染め、
荒んだ生き方をしている若者が、
流れ着いた山奥の田舎で暮らしているうち、
自分の人生をやり直そうと思えるまでを描いた小説である。

友人が一番好きだという小説だというので読み始めたが、
読了後には本を抱きしめたくなるような、
そんな気持ちになる作品だった。
勧めてくれて感謝。



主人公のように、自らを、しゃぼん玉のように漂い行き着く先にはパチンと弾けて消えてしまう人間だ、と思ったことなど、
私には無かった。

それは自分で選ぶことの出来ない生まれや育ち、環境のおかげでもあると思うし、
たまたまそうだっただけなのだろう。

悪事に手を染める事を正当化する主人公の思考には、
家族や他人から愛されない、求められない記憶が毎回顔を出していた。
それは「ないこと」から「ある」への渇望というより、
諦めから来る深い悲しみに感じられた。

この若さで、ここまで悲しみを抑圧して生きてきたこと。
フィクションなのに、この主人公のことが不憫で仕方なく、
また、こんな想いをしてる人は現実にも沢山居るのだろうと思うと、胸が痛かった。



この主人公の青年は、
神様から与えられたチャンスを使って、人生をやり直す決断をしたのだと思う。

他人からの純粋な愛情、美味しいご飯や豊かな自然、
人間が人間であることを実感できる沢山のもの。
そして痛みや悲しみを感じる出来事。

自分が痛みを感じて初めて、
それは誰かにとっても同じように痛いということが分かる。

あなたはしゃぼん玉のような存在ではない、とまるで誰かが励ましているかのように、
青年は、時に魔が刺し、後戻りをしながらも、
着実に心を育てていった。



人生にはきっと、
何かを変えるきっかけになる不思議な縁や巡り合わせがある。

実際はこの物語のように分かりやすくもない形で訪れるだろうし、
いつ来るのか、これがそうだとその時には気が付かないだろう。

だからこそ普段から、
希望と愛情を持って、自分で選択した生き方をしなければいけない。
また、魔が刺したときは支えてくれている人たちの顔や言葉、
愛情を思い出せる自分でありたい。


そして、物語で主人公に愛を教える周りの大人たちのように、
人間らしい感情を忘れず、
愛情深く、他者を尊重し、生きていきたいと思った。

では。

『しゃぼん玉』の情報はこちら

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?