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小説「15歳の傷痕」53

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- Jim & Janeの伝説 -

1年生も江田島合宿から帰り、校内が賑やかになった1学期末を締め括る行事、クラスマッチがいよいよ目前に迫ってきた。実施日は7月14日と15日の2日間で、今日は7月11日だ。

今日は生徒会室では各競技担当者がペアを組んで、模造紙にトーナメント表を作っている。

俺も女子ソフトボールの担当になり、体育委員長が組み合わせてくれた相方、2年生の山田綾子さんと一緒に、各学年のトーナメント表を作っていた。

「俺、字が汚いからこういうのを書くのは苦手なんだよね~」

と言ったら山田さんは、

「先輩、アタシに任せて下さい。アタシ、こう見えても美術部なんです。こういう大きな紙に色々書き込むのは得意ですから」

と言ってくれた。美術部?我が担任が顧問ではないか?

「顧問は末永先生だよね?」

「はい。上井先輩の担任の先生ですよね。だからアタシ、上井先輩のことは、実は末永先生から色々聞いて、知ってたんです」

「えっ?先生から何を吹き込まれたの~?アイツは見栄晴ソックリで女子にフラれてばっかり、ドラムを叩いてもモテないどころかクラスで浮いてるとか、言われなかった?」

「えぇっ!?そんなこと、全然言いませんよ?今のお話しって、上井先輩の被害妄想ですか?」

山田さんは複雑な表情をしながら、俺を見た。

「あ、末永先生はそこまで俺のことを貶めてはなかった?ハハハッ…」

「はい。上井先輩は、とても優しくて、良くも悪くも人が困ってるのを放っておけない性格で、自分が傷付くのが分かってても、他人のために動ける心優しい生徒だって。褒めてましたよ」

「そんな風に?恥ずかしいな~。ドラえもんの出木杉みたいじゃん」

「はい!だから吹奏楽部の部長なのに、生徒会の役員を頼んだら引き受けてくれたし、クラスの学級委員長にもなってくれたから、先生は上井先輩に頭が上がらないって言ってました」

だから末永先生は、俺みたいな奴が期末テストで成績が急降下したのを心配してくれて、大谷さんが口を聞いてくれなくなったから勉強に身が入らなくなったという話にも、真摯に耳を傾けてくれたのか。
普通なら何バカげたこと言ってんのよ!と言われても仕方ないような内容だけに、思わぬところで末永先生の気配りに感謝することになった。

と、感慨に耽っていたら、山田さんはあっという間にトーナメント表を3学年分、書き上げてくれた。
3年生は8クラスだから単純なトーナメントを組みやすいが、2年、1年は11クラスもあるため、トーナメント表を作るのにも工夫がいる。
そこも考慮して、山田さんは流石美術部という腕前で、きれいなトーナメント表を書き上げてくれた。

「山田さん、凄いね。もう女子ソフト3学年分のトーナメントが出来ちゃったよ」

1年生用、2年生用、3年生用と、タイトルも少し色を変え、デザイン的にカッコいい表が出来上がっていた。

「いえいえ、棒を引っ張って枠を入れるだけですから、イメージはすぐに作れますし。あとは何処に何組が入るか…は、前日にクジで決めるんでしたっけ?」

「そうそう。前日の昼休みに、クラス代表にクジを引いてもらうんだよ。それで、各クラスから悲鳴が聞こえる、というわけ」

「そうなんですね。ソフトボールは、3学年とも女子がありますけど、グランドはどう使うんですか?男子はサッカーですよね?」

「うん。グランドを縦に割って、山側で男子はサッカー、校舎側で2面作って、女子のソフトボールという感じだね。ま、回転早くするために試合は5回までだし、1試合も30分計算なんだよ」

「そうなんですね。生徒会に入ったばかりの去年の暮れは、何が何だか分からなくって、雑用で終わった気がするんです。今度は上井先輩と組めて、嬉しいです!ちゃんと仕事できそうな気がします」

「ありがとうね。と言っても、俺も去年から執行部入りした人間だから、よく分かってない部分はあるんだよ。でも頑張ろうね」

「はい、頑張ります!」

今日の生徒会室での仕事は、担当競技のトーナメント表づくりだったから、俺と山田さんはいち早く仕事が終わったことになる。

「俺たち、今日の一番だね!山田さんのお陰だよ」

「いや、上井先輩と組めたからですよ。ありがとうございます」

「また俺の担任の先生に、よろしく言っといてね。じゃ、俺は部活に行ってくるから…」

「吹奏楽部ですよね?先輩、文化祭のステージ、カッコ良かったです♪ドラム叩けるなんて、凄いです」

「えっ、あ、ありがとう」

俺は顔が真っ赤になっていただろう。文化祭から約1ヶ月経ってからの褒め言葉は、心に染みた。

遠くから山中が、俺も後から行くけぇ…と言っていた。


今日の部活はサックスパートが全員揃っていた。初めて全員で、コンクールの曲の通し練習も出来たので、今日は参加して良かった。

「ミエハル先輩、先月まで打楽器の人だったとは思えない回復ぶりっすね」

と、後片付けしながら出河が声を掛けてくれた。

「うん、なんとか置いて行かれんように、必死なだけだけどね。出河もソプラノに専念してみたら、心境は何か変わった?」

「そうですね、アルトより半分音域が高い…テナーの一つ上なだけなのに、こんな高音が出るのかと、驚きと発見の連続ですよ。譜面だって五線譜の上、どこまで上がるんや!って音が平気で書いてありますから」

「でも楽しいんじゃない?絶対にこれからの出河の活躍にプラスになるよ」

「そうですね、アルトと持ち替えの予定だった時は焦ってましたけど、ミエハル先輩がカムバックバリサクで戻ってきて下さったから、安心してソプラノに専念出来ますし」

そんな俺と出河の会話を聞いていた若本は、心なしか嬉しそうだった。確かに若本のいる前では、俺と出河は殆ど会話をしたことがない。別に仲が悪いわけではなく、タイミングの問題だったのだが、それでも心中穏やかになるのだろう。

「ミエハルとバリサク合わせるのって、去年の総文以来?」

伊東が聞いてきた。伊東と練習で顔を合わせるのも久しぶりだった。

「そうなるよね。総文の後に打楽器の乱が起きたけぇ、移籍したからね」

「でも俺はミエがちょっと羨ましかったのぉ」

「なんで?」

「やっぱドラム叩けるって、目立つじゃん。俺、今でもクラスの女子にたまに聞かれるんよ、鉢巻き巻いてドラム叩いてた男の子は元気?って」

「鉢巻は仕方ないよ。火傷隠しだから」

「まあ、目立つ男子を女子はほっとかないってことじゃけぇ、何かあるかもしれんよ、ミエには」

「そうかねぇ…。文化祭から1ヶ月経つけど、同じクラスの女子ですら殆ど無反応だよ」

「えーっ、そんなことないよ!文化祭の次の週とか、ミエハルくん格好よかったねとか、上井くん凄かったとか、女子の間では結構キャーキャー言われよったんじゃけぇ」

同じクラスの末田が異論ありとばかりにそう言った。

「いや、そんなの幻じゃろ?全く俺の所には、そんな声、聞こえてこんかったもん」

「本人の前で直接キャーキャー言うわけないじゃん。ミエがいないような時だよ。体育とか、ミエが取ってない選択授業の世界史とか、生物とか、そんな授業の時に、そんな声が聞こえたよって話よ」

「うーん、まあクラスの女子には嫌われてないということが確認出来て、良かったよ」

3年の3人は笑い合ったが、俺は心底笑えなかった。勿論、大谷さんの存在だ。
文化祭直後は、わざわざ手紙まで俺の机に入れてくれたほどだったのに、今は全く俺のことなどアウト・オブ・眼中だ。
担任の末永先生が、理由を聞いてみると言ってくれたが、俺はそんなに期待していない。というか、大谷さんと再び喋れるようになりたいと思わなくなった。

もう恋なんてしないと決めたからだ。


「えー、夏の恒例の、野球部からの応援依頼がきました。試合は7月16日の土曜日、第2試合だそうです。場所は広島県営グランド。市民球場じゃないみたいですね。クラスマッチの翌日で皆さんお疲れだと思いますが、よろしくお願いします」

その日のミーティングで、新村が明かした。
その瞬間、えーっという、どちらかというと落胆の声が聞こえた。
クラスマッチで疲れるのに、その次の日かよ~という雰囲気がムンムンしている。

「まあまあ皆さん、俺も乗り気じゃないんですけど…」

お、新村もアドリブが出来るようになってきたじゃないか。音楽室内には、笑いも生まれた。

「クラスマッチの後も、部活はありますので、その時に野球用応援歌の練習を軽くでもしといて下さい。殆どお馴染みの曲ですから、合奏とかもしないでいい…ですかね?上井先輩?」

突然指名されて驚いた。えーっ、去年はどうしてたかな…。

「えーっと、去年はどうしとったっけなぁ…。伊東、分かる?」

「いや、覚えちょらんわ」

「末田さん、何か覚えとる?」

「アタシも何にも覚えとらんわ」

「太田さん、何か…」

「アタシはクラだから行かなかったかも?いや、行ったかな?覚えてなーい」

俺は困ったが、とりあえず

「えー、頼りにならん隠居組で申し訳ないけど、1回くらいは通しといた方がええんとちゃうかな…」

そこへやっとという感じで山中がやって来た。
音楽室の中からは、思わずオオーという声が上がった。

「悪い、もう終わりだよね。今日も間に合わんかった…」

だが山中なら何か覚えているかもしれない。俺は声を掛けた。

「山中~、去年の野球部の応援に行く前、応援歌の合奏ってしたっけ?」

「去年?おぉ、1回だけ通したよ」

今度はヘェーという声がアチコチから上がる。

「全部で12~13曲あるじゃん。ぶっつけ本番は怖いって、上井、お前が言ったから、前日に通したんじゃないか」

「あれ?俺がやる!って言ったの?」

音楽室内は再びクスクスと笑いが漏れている。

「えー、後輩の皆さん、年は取りたくないですなぁ。去年はワタクシが一度通しておきたいと言って、合奏したそうです。だから今年も…一回は通しておきません?どう?部長…」

「分かりました。先生にも聞いてみて、前日の金曜日、クラスマッチの後でぶちたいぎいと思いますが、通せたら通しときましょう」

音楽室内はザワザワしていたが、とりあえずミーティングは終わり、解散となった。
この日は若本は桧山さんと帰り、山中からも生徒会の仕事は今日はもうないと言われたし、村山もまだ部活に出てきていないので、俺は1人で帰ろうと思って下駄箱に向かっている途中、不意に誰かから呼ばれた気がした。

「ん?誰か呼んだ?」

俺はグルッと周りを見渡した。

「私よ、私」

と、聞こえてきた声は担任の末永先生の声だった。声のする方向を確認したら、職員室から顔を出して、俺を呼んだようだ。

「あ、先生。お疲れ様です。俺に何か?」

「ちょっとミエくんに伝えたいことがあるから、そのまま下駄箱で待っててくれる?2~3分でいいから」

「は、はい」

そのまま俺は下駄箱で靴に履き替え、末永先生を待った。何人かの吹奏楽部の後輩が、お先に失礼しますと言って、先に帰っていく。俺はお疲れさんと言って、見送った。

しばらく待ったら、末永先生が慌ててやって来た。

「ごめん、ごめん。待たせちゃって」

「先生、明日でも良かったのに」

「うーん、なるべく早く伝えたいと思ってね。丁度職員室で帰り支度始めたら、吹奏楽部の新村くんが音楽室の鍵を返しに来たから、吹奏楽部の活動は終わったんだな、ミエくんを捕まえられるかな?と思って廊下を見てみたら、ドンピシャ。だから声を掛けたの」

「そうでしたか。そんなに先生が急いで俺に伝えたい事って、なんですか?」

「ま、宮島口駅までアタシの車で送ってあげるけぇ、車内で話そうか」

「えっ、いいんですか、先生のプライベートな車に男子生徒が乗って」

「悲しいことに男子の諸君が乗っても、全く色気も何もない車だから、安心して。じゃ、こっちよ」

「はい、すいません」

俺は先生の後を付いていった。どんな車かと思ったら、軽自動車のアルトだった。
助手席に乗せてもらったが、確かに車内は無味乾燥で、多分先生が通勤時に聴いているであろうカセットテープが10本ほど、フロント部分に並んでいた。

「じゃあ行こうか」

「お願いします」

末永先生がエンジンをかけ、ギヤを操作している。車の運転って、面倒そうだなぁ…。

「それでね、ミエくんを呼び止めたのはね…」

「はい、どうしてでしょう?」

「カオリン…大谷さんに、なんで急にミエくんを無視するようになったのか、聞いてみたのよ。そのことをお知らせしようと思ってさ」

「えっ、そうなんですか?先生、行動が新幹線みたいですね…」

「アハハッ、どうせならジェット機って言ってよ。まあそんなことはどうでもいいの。カオリンが言うにはね…」

「はい…」

「やっぱりミエくんに原因があったよ」

「へぇっ?!俺、大谷さんに対して、何にもしてないですよ。狐に摘ままれたような気がします…」

先生は宮島口駅へと車を走らせながら、好きだと言っていた中村あゆみのカセットを流していた。

「ミエくんは全く身に覚えがないんだね?」

「はい、俺に原因があると言われた今も、全く訳が分かんないです」

「じゃあカオリンが言ったことは見間違いなのかな…。とりあえずカオリンの言ったことを伝えるから、記憶をチェックしてみてね」

「はい…」

車は赤信号で停車していたので、余計に先生からどんな言葉が発せられるのか、俺はドキドキしていた。

「ミエくん、H高の女の子と付き合ってない?しかもちょっと不良というか、金髪の女の子と…」

「俺に彼女なんていませんって…。ん?えっと…、あ!」

山神さんのことではないか?唯一考えられるのは、山神さんだ。だが山神さんと大谷さんになんの接点が?

信号が青に変わり、先生は車を発進させた。

「誰か思い当たる女の子、思い出した?」

「はい、1人…。中学が同じだった女子で、中学時代は学校中のアイドル的存在だった子です。だから頭も良くて、H高校に行ったんですけど、ちょっと部活とかで失敗して、彷徨ってた時に道が逸れちゃったんですね…」

「ふんふん、それで金髪になっているということね。カオリンが言うには、ミエくんとその子が仲良さそうに玖波駅前の喫茶店から手を繋いで出てきたというんだけど、合ってる?」

「喫茶店?思い出してきましたよ…。期末テスト週間で部活がない時、H高校から帰るその子とJRで珍しく一緒になったんです。で、久しぶりだねと言って、玖波駅前の喫茶店でコーヒー飲んで中学の時の懐かしい話とか、なんでそんな金髪にしてるのとか、色々と話しました」

俺は喫茶店内での会話の内容は、ちょっとだけ作り変えた。

「そうなのね。それだけだと付き合ってるとは言えなさそうね」

「はい。だから先生、俺は彼女なんていないって、ずーーーっと言ってるじゃないですか」

「でもカオリンは、その玖波駅前?の喫茶店からミエくんとその女の子が仲良さそうに手を繋いで出てきたって言うんだ。その点、どう?何か思い当たる節はある?」

「それは大谷さんの拡大解釈です。最後は喫茶店の前で別れましたけど、その女の子も不良なんかやめて、真面目に頑張るって言ってましたので、頑張って、という意味と、また会えたら会おうよって意味で握手は交わしました。同級生ですから。ただ喫茶店から手を繋いで出てくるなんて、俺には夢の世界ですよ。あ、丁度その時、列車が駅に着いて、駅前が結構混雑してたんです。そっか!その中に大谷さんがいたんだな、きっと…」

車だと宮島口駅まであっという間だ。次の信号で右折したらもう宮島口駅前だ。

「うん、分かったよ、ミエくん。カオリンはその日、塾に行く日だったらしいのね。それで塾から帰って、玖波駅で降りたら、ミエくんと金髪のH高の女子が仲良さそうにしてるのを見ちゃった、そういうわけね。カオリンに言わせると、まさかミエくんが、あんな不良と付き合ってたなんて凄くショックで…って言ってたよ。だからもう顔を見るのも辛いから、話さないようにしようとしたんだって」

「だからその次の日、俺が話しかけたら逃げるように去ってったのか…。先生、もう駅に着いちゃったから降りなきゃいけないんですけど、その不良に見えるH高の女子は、俺の中学時代の同級生で、今は不良っぽい恰好してますけど、元に戻ろうとして頑張ってるところなんです。その相談も、俺は喫茶店で受けてたんです。ということを、大谷さんに伝えて下さったら助かります」

「良かったよ…」

「え?」

「アタシもミエくんは信じとるけど、心のどっかで、もしかしてこっそりH高の不良女子と付き合って、そのせいで期末の成績がガタ落ちしたんじゃないか?って、カオリンの話を聞いた時には勘繰っちゃったから」

「俺の期末の成績がガタ落ちしたのは、先日言った通りで、大谷さんに無視されるようになったショックが原因ですから…。H高の女の子は全然無関係です」

「うん、そう考えると、筋が通ってくるね。分かったよ。アタシなりにカオリンに伝えてみるから」

「でも先生、誤解を解いて下さるだけで、もういいですから…」

「ん?どうして?またカオリンと話とか出来るようになりたくないの?」

「…はい」

宮島口駅前に到着したものの、俺と末永先生は、車中で喋り続けた。

「こりゃまたどうして?もしかしたらミエくんの心の傷を癒してくれる存在になるかもしれないよ?カオリンは…」

「前はそう思ってました。多分先生なら情報網でご存知かと思いますけど、神戸さんのあと、俺は高校で2回失恋してるんです」

「1回は知ってたけど、2回目もあったんじゃね?」

「はい。その連続失恋で、俺は人間不信、恋愛恐怖症にまでなってたんですけど、大谷さんと文化祭前に話すことが出来て、実は俺も大谷さんって、同じ玖波駅利用だし、いい子だなと思ってたんです。人間不信や恋愛恐怖症も治るかな、と思ってたんです。だけど…」

「だけど?」

「勘違いされる俺が悪いんですけど、俺にしてみれば大谷さんから原因不明で突然無視された、この出来事は凄い大きかったです。期末の成績が物語ってます」

「そ、そうね…」

「だから俺はもう、大谷さんを含めて、女子を好きになったりしちゃいけないんです。きっと神様がそのことを思い知らせるために、大谷さんを使って、お前は女の子にモテようなんて思うな!と戒めてくれたんですよ、きっと。だから、大谷さんと元に戻りたいなんて、思わないようにしますから」

「ミエくん、考えすぎだってば…」

「15歳の時にその現実を突き付けられたのに、18歳になってもまだ彼女がほしいとか寝言を言ってるから、だから15歳の時に出来た傷痕が消えないんです。モテない男は現実を知らなきゃいけないですよね」

「…今のネガティブミエくんには何を言っても効かないだろうけど、覚えといて。ちゃんと生きていれば、人生は必ず最後は公平になる。ミエくんがモテない男子だなんて、とんでもないよ、とだけ言っておくから」

「慰めの言葉、ありがとうございます、先生。先生が担任でよかったです」

「まあ後はクラスマッチを乗り切って、夏休みは吹奏楽に打ち込んで、2学期にはいい顔して登校してよ。ね!」

「はい、了解です。先生、すいません、遠回りになったんじゃないですか?」

俺は車から降りながらそう言った。

「宮島口くらい、大したことないよ。じゃあね。明日は少しは元気な顔して出てきてね」

そう言って先生は車を発進させ、広島市内方面へと左折していった。

末永先生の車を見送りながら、俺は次の日からクラスでどう振る舞えばよいか考えていた。

(まあ、クラスマッチを淡々と乗り切ればいいか…)

…それだけで1学期が終わる訳はなかった。

<次回へ続く>


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