スピンオフ小説「1/3の失恋」-5
第 10 章
N先輩が吹奏楽部を引退して、カップルになってからいつもテスト週間以外は一緒に帰ってたのに、一人で帰ることになっちゃったアタシは、O中学校の2年生、山神恵子。
吹奏楽部に入ってクラリネットを吹いてるんだけど、N先輩が部長だった時に比べて、アタシと同じクラスのMくんが新部長になってからは、ちょっと緊張感が薄れたかな…。
まあ吹奏楽部も次の演奏は、卒業式迄ないから、練習もノンビリになりがちなんだけどね(;´▽`A``
Mくんは部長になったとはいっても、まだ入部して1年経ってないから、この時期の過ごし方が分かってないのもあって、今は自分の練習より、各パートを回って1年生の後輩部員とコミュニケーションを取ることに努めてるみたい。
アタシは親友のTちゃんと一緒に、勝手にMくん応援団を結成してるの。
去年、途中入部してきた時のMくんは、全然自信無さげで、いつ吹奏楽部を辞めちゃうか心配してたほどだったんだけど、練習熱心でいつの間にか部活にも慣れて、部長に抜擢されたほどなんだ。
アタシの親友Tちゃんが、アタシの彼氏N先輩とトラブった時も、素早く対応して先生に話しして、解決に動いてくれたの。
そんなMくんは、その時の一件もあってTちゃんのことが好きなはずで、アタシも応援してたんだ。
だけど、だけどね…。
アタシの心の中にも、Mくんが入り込んできてるの。
N先輩がアタシの下駄箱に、高校受験が終わるまでは会わないようにしたいけど、終わったら2人で何処か出かけよう、って手紙をくれたから、余計に今はN先輩に対する気持ちが複雑なの。
なんていうか、凄い中途半端なんだよね。
その隙間に、イザという時はカッコよくて、だけど照れ屋で恥ずかしがり屋のMくんが入り込んできてるの…。
本当はね、バレンタインデーにMくんにチョコを上げたかったんだけど、N先輩と形式上は付き合ってるから、諦めたんだ。
TちゃんもバレンタインデーにMくんにチョコ上げようかどうか迷ってたから、アタシは上げてみたら?って言ってみたの。
でもTちゃんは迷った挙げ句、上げないことにしたって言ってた。
確かにMくんには恩があるし、気になる存在だけど、今チョコを上げると、義理でもないし、本命かというと、まだそこまで気持ちが固まってないから、チョコの位置付けが分かんない…んだって。
アタシには難し過ぎる話だけど、逆にそこまでMくんのことを真剣に考えてるってことなのかなぁ。
アタシは、Мくんにチョコを上げるのは諦めたけど、一応N先輩には上げなきゃ、と思って、下駄箱にチョコを入れといたの。
だけどね…
何の反応も無いんだ(。ŏ﹏ŏ)
卒業式でN先輩との関係をハッキリさせたいな。
そう、もう先輩の都合で振り回されるのは嫌だから、別れたいの。
そして出来たら、Мくんに告白したい。
気付いたらМくんのことが好きになってたの、付き合って💕ってね…。
そしたらMくん、どんな反応するかなぁ(´∇`*)
第 11 章
Mくんが部長になってからの初めての大仕事、卒業式での演奏は、無事に終わったよ。
Mくんも初めてだから、ほとんど先生の言われるままだったけど、それでも今までよりもカッコよく見えたよ♪
問題はアタシの彼、N先輩なのよね…。
卒業式の後は無礼講で、女子が好きな男の子のボタンをもらいに行ったり、もちろん告白合戦があったり、大騒ぎになっちゃうの。
アタシも楽器を片付けてから、その大騒ぎの輪の中へ、N先輩を探しに行ったの。
…別れて下さいって、言うために。
N先輩もアタシのことを探してたのか、すぐ見付けられた。
「N先輩!」
「おお、山神!会いたかったよ!」
って、N先輩は今まで見たこともないような顔を見せて、突然みんながいる前なのに、アタシのことをギューッと抱きしめたの!
N先輩の友達とかが、ヒューヒューとか熱いねーとか囃し立てるから、恥ずかしくなっちゃって、
「せ、先輩、やめて!」
って、無理やり解いたの。
こんな場面、吹奏楽部の人に見られたら、誤解されちゃう…。
「あっ、わりぃわりぃ、久しぶりに会えたからさ、嬉しくって」
「でも先輩、高校入試がまだあるでしょ?」
「まあね。なんで広島県って、この感動の卒業式の二日後に高校入試を設定するんかのう。だからまだ本当は、お前のことを抱き締めれんのじゃけど、お前の顔を見たらつい…。分かってくれよ」
N先輩がこんなにアタシに色々と話してくれるのは、告白してくれた時以来かも。
あれだけ、別れてって言おうと思ってたアタシの心が、グラグラと揺らいでる。
「それでよ、高校の合格発表、一緒に見に行こうや。もし無事に合格してたら、ご褒美くれる?」
「あっ、うん…。どんなご褒美がいいの?」
「…ここで言わすなや。チューだよ、チュー。キス!」
「キス?!」
アタシと先輩は、付き合ってから1年半ほど経つけど、体の関係は断ってたの。親が許さないからって。アタシ自身もちょっと怖かったし。だから帰り道で手を繋ぐぐらいが精一杯だったんだ。
…でも、そこまで言われたら、キスくらいは解禁しなくちゃ、いけないのかなぁ。
「じゃあとりあえず先輩、受験頑張ってね」
「おぉ、頑張るよ。確か合格発表日は丁度一週間後の今日だから、また電話するよ」
「うん…」
N先輩は、同じクラスの輪に戻っていって、可愛い彼女だな、何年生だよ?とか見せ付けやがってとか言われて、満更でもない顔してる。
アタシは結局N先輩にお別れを告げるどころか、余計に心の中を掻き乱されることになっちゃった。
複雑な表情でクラスに戻ったら、みんな帰ったはずなのに、Mくんが1人でポツンと窓の外を眺めてたの。
「あれ?Mくん、帰ったんじゃなかったの?」
「うん、帰ろうと思ってたんだけど、あの大騒ぎの中を抜けて帰る勇気がなくて、静かになったら帰ろうと思ってね~」
Mくんは窓の外を眺めながら、そう言った。アタシもMくんの横から外を眺めてみたけど、さっきより人数は減ってきているけど、まだまだ大騒ぎは続いてる。
「…山神さん、やっぱりN先輩の彼女だったんだね…」
「えっ…」
Mくんは外を眺めたまま、不意にアタシにそう言った。
「なんでMくん、そんなことを…?」
「噂は聞いてたんだ。だけど、俺が去年の春に吹奏楽部に途中入部してから、山神さん、凄く俺に対して優しくしてくれたし、クラスでも話し掛けてくれたりして、俺、物凄い嬉しくてさ。もしかしたらN先輩と付き合ってるってのは噂なだけで、本当は彼氏とかいないんじゃないかなって思ってた。だからこんな情けない俺にも、友達以上に優しく接してくれるのかなって」
アタシはMくんの告白を、ジッと聞いていた。
「でもさっき、外を見てたら、山神さんとN先輩が抱き合ってる場面が見えちゃってね。あー、やっぱりか、噂は本当なんだなと思って。第一、バレンタインにチョコを誰からももらえないようなモテない男が、山神さんみたいな学校一のアイドルにモテるわけがないよね」
うわーっ、寄りによって突然N先輩がアタシを抱き締めた場面を、Mくんに見られちゃったんだ…。
「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。ただ山神さんは俺にとって特別な存在だったから、つい…。外も人が少なくなってきたし、帰るね。じゃあ、またね」
Mくんはそう言って、カバンを掴むと、アタシの顔は一度も見ずに、教室から出て行った。
「…Mくん…」
アタシは勝手に溢れ出てくる涙を拭いながら、心の中でMくんに語り掛けたの。
『ごめんね、Mくん。アタシが思わせぶりな行動をして、Mくんをその気にさせときながら、やっぱりN先輩と付き合ってたなんて。だけど、これだけは分かって。今日アタシは、N先輩に別れを告げて、Mくんに告白するつもりだったんだよ。アタシ、Mくんのことが好き。いつも一生懸命で、他人には優しくて、何かあったら自分で全部背負っちゃう責任感とか、全部好きだよ。だから、振り向いてほしくて思わせぶりな行動してたんだよ。お互いの気持ちは同じなのに、ね…』
涙が収まるのはいつかな。収まらないと、帰れないよ…。
その1週間後、アタシはN先輩と2人で、合格発表を見に行ったの。
先輩、ちゃんと合格してたよ。
でも、キスのご褒美は上げなかった。まだアタシの気持ちの整理が付かないって言って…。
先輩はアタシとキス出来るのを楽しみにしてたのに…って怒ってた。だけど、こんな浮ついた気持ちで簡単にキスなんか出来ないよ。
特に、N先輩はどうか知らないけど、アタシにとっては大切なファーストキスなんだもん。
部活も今度は入学式用の曲を練習してるんだけど、Mくんとは喋れなくなっちゃった。
お互いに意識してるのは感じるの。
だけど、部活でもクラスでも、喋れないの。
このまま卒業するまで、Mくんとは喋れないのかな。
そんなの、嫌だよ…。
(次回に続く)
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