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短編小説『誰かになりたかった』

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東京のとあるホステルでのアルバイト経験をもとに書いた短編小説です。 1. インド人のピアノ  2. アメリカ人のハイヒール  3. カタール人の海苔巻き
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#別れ

インド人のピアノ #3

どういうわけかわたしは、誰もいなくなったカフェスペースで、乱暴にティーバッグを突っ込んだマグカップを2つ用意し、宿泊施設にピアノがないという当たり前の事実にひどく落胆しているインド人男性の前に座っている。

業務時間はとっくに過ぎていたが、今にも泣き出しそうになっている人を放って帰るわけにもいかず、従業員としてではなく同世代の友達として、終電の時間までは話を聞きましょうということになった。

まだ

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