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#小説

欲しいのは、あなただけ

欲しいのは、あなただけ

むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんなわたしよりも年下なのだ。彼らは年を取らない。永遠に年下のまま成長を止めて、わたしの胸のなかで生き続ける。

欲しいのは、あなただけ
/ 小手鞠るい

ひとりの女、かもめが好きになったふたりの男。

ひとりめは19歳学生のと

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ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶

ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶

大崎善生が描く美しい喪失の物語。

この小説は

キャトルセプタンブル
容認できない海に、やがて君は沈む
ドイツイエロー
いつか、マヨール広場で

の四つの短編で構成されている。

どの作品も読後、感情がどっと溢れだすように涙がこぼれてしまう。

そのなかでも、主人公ではないのだが、堪らなく魅力的な登場人物がいる。

それは「容認できない海に、やがて君は沈む」のお父さんだ。

「あんなにきっぷがよ

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花盗人

花盗人

──あなたが私にくれたものは、あの桜の小枝だけ。あなたが盗っていったものは、私のすべて。

花盗人 / 乃南アサ

最早、この台詞は名言以外のなにものでもない。

この作品を読んだあとでは。

人が人を支配するとは、こういうことなんだと思う。

妻がいなければ、なにもできない夫。

確かに、そう見える。

が、真実は違う。

精神的に夫に支配され、妻は思考停止に追い込まれているようにしか、わたしに

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肉まんを新大阪で



肉まんを新大阪で 平松洋子

平松洋子さんのごくごく短いエッセイはネット記事でなんどか読んでいた。

例えば、海苔かまぼこ。

かまぼこを厚く切る、海苔を巻く、それだけ。
それにおろしたての山葵があればなおよし。

手間は掛からないけど、これは間違いなくおいしいよね。

そんな、ちょっとつまみ食いをなんどかしているうちに、平松洋子さんを本格的に味わってみたくなった。

どのお話もとてもおいしい

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母影



母影 尾崎世界観

子どものころは形の似た漢字を間違うことがあったような気がする。

たとえば、よく笑い話にもあるけれど、「愛」と「変」とか。

大人からすれば、それはまるい形をした愛であっても、ほんとうはイビツに歪んでいて、子どもから見れば変な形をしたものに見えるのかも知れない。

その子どもからの視点は、鋭利な刃物のような残酷さだ。

尾崎世界観さんは初読みでした。

よくこんなに厳しい話

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